常に直接対話で合意形成~山梨崇仁・神奈川県葉山町長インタビュー(3)~

神奈川県葉山町長 山梨崇仁
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2023/04/04 心の境界を超え、インフラの広域化・共同化へ~山梨崇仁・神奈川県葉山町長インタビュー(1)~
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第1回第2回に引き続き、神奈川県葉山町の山梨崇仁町長のインタビューをお届けします。

同町は環境に配慮した「エシカルな町」として、ごみ問題の解決に取り組んできました。また、隣接する同県逗子市と「下水道事業の広域化・共同化とコンセッション方式による運営」について検討を始め、持続可能なインフラの在り方を探っています。二つの事業に共通するのは、官民や地方自治体間の垣根を越えた取り組みであるという点です。

このような場合に課題となるのが、関係者間の合意形成です。葉山町では、どのようなコミュニケーションを経て合意形成に至ったのでしょうか。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

町の連帯感

小田 葉山町における地域コミュニティーは、どのような状況なのでしょうか?

山梨町長 全部で28の町内会・自治会があります。私たち行政からすると、彼らがいなければ立ち行きません。教育から交通安全、防災に至るまで、町の審議会など多くの分野に関わっていただいています。

 

小田 行政と住民の間に信頼関係が築かれているのですね?

山梨町長 人口が約3万3000人の小さな町ですから、連帯感が生まれやすいのかもしれません。本当にありがたいです。

 

小田 移住者が増えているそうですが、空き家の状況や住宅事情はいかがですか?

山梨町長 人口は新型コロナウイルス禍前と比べると、3万3000人から3万2700人ほどになりましたので微減傾向です。死亡者が毎年500人ほどおり、移住者が440〜450人ほどです。

世帯数は1万4500戸から1万4700戸ほどまで増えています。人数の少ない世帯や、別荘利用も含めての移住が増えていると感じます。昨夏に地元の不動産業者に話を伺ったところ、売れる物件はほぼないとのことでした。転入は子育て世帯が多いです。

町の出生数は減っていますが、小学校に入学する子どもの数は毎年ほぼ変わることがなく、転校生も多いですね。若年層の人口が増えてきているのではないかと思います。

 

小田 自然減ではあるものの、社会増でカバーされているのですね。

山梨町長 30〜40代の子育て世帯の転入は、コロナ禍で加速しました。

 

小田 葉山町のような、景観が良くて風や波も穏やかなエリアに移り住むと、都会の喧騒の中には戻れなくなりますね(写真1)。そうして町に愛着が湧いてくると、町のために何か協力したいと思うのは自然なことなのかもしれません。

山梨町長 朝は鳥の鳴き声で目が覚めますから、心地いい町です。移住して来た方たちがそのように思ってくだされば、ありがたいですね。

 

※町の景観は公式Instagramで発信されている。

 

トライ&エラー

小田 環境に配慮した「エシカルな町」として、2019年から取り組んでいる「はやまクリーンプログラム」や、逗子市と検討中の「下水道事業の広域化・共同化とコンセッション方式による運営」など、立場や境界を超えた連携を上手に進めているように感じます。

そうした取り組みには必ず合意形成の場面があると思いますが、具体的にどのようにコミュニケーションを取っているのですか?

山梨町長 常に直接対話です。私たち行政は、住民から負託を受けて仕事をしており、その役割は将来にわたる税や公共財の有効利用のみです。個人の私利私欲につながるような仕事の判断基準はありません。ですから、その公平性と合理性・継続性をひたすら説明します。反発や苦情を頂くことはもちろんあります。

その際、他にメリットのある方法を提案いただければ採用することも、とても多いのです。

 

小田 クリーンプログラムでは、住民に27品目の家庭ごみの分別を、クリーンセンターの職員にはごみの無料戸別収集の協力を求めています。その合意形成も一筋縄ではいかなかったと思いますが。

山梨町長 クリーンセンターの職員からは「そんなこと、できるわけがない」と相当な反発を受けました。そこで2カ月ほど通い詰め、「あなたたちにしかできない」と説得を続けました。現在はクリーンセンターが、町で最も住民からの感謝の声や手紙が届く部署になっています。

 

小田 山梨町長の熱意のたまものですね。住民との直接対話の事例も聞かせてください。

山梨町長 クリーンプログラムをさらに推進するため、生ごみの分別を行おうとしています。そのための社会実験への協力を、1回目は833世帯に引き受けていただきました。

 

小田 町内会に直接依頼したのですか?

山梨町長 まずは連合会にお話しし、そこから各自治会に情報を届けていただきました。そうしたところ、とある自治会から「参加する」との回答を頂きました。

 

小田 町内会の方から手を挙げたのですね。

山梨町長 こうして手を挙げるところと本気で取り組めるのは非常にありがたいですし、結果を検証する上でも重要だと思います。

※インタビューに答える山梨町長

 

小田 社会実験の結果はいかがでしたか?

山梨町長 社会実験の内容は、住民に生ごみの分別をお願いし、戸別収集の回数を週2回から1回に減らすというものでした。そうしたところ、「不便だ」「臭いなどの問題が大きい」として、ものすごく反発を受けました。結果については真摯に反省し、週2回の戸別収集で進めることを報告させていただきました。

 

小田 結果的に反発はあったものの、町内会の人たちは町の提案に耳を傾け、社会実験に参加してくださったのですね。

山梨町長 かなり努力してくださいました。「社会実験であれば、もう少し要件が固まった提案を行うべきだろう」との声も頂きましたが、私たちが持つ課題意識をすべて伝えた上で「一緒に積み上げていきたい」とも話します。そうしたところ、共に汗を流してくださったのです。

 

小田 行政と住民が胸襟を開いている様子がイメージできます。今は先の見えない時代ですから、行政の実施することが正解かどうか分かりません。「試してみて、うまくいかなければやめる」という柔軟なスタンスで、住民と共に創っていくことが大事ですね。

山梨町長 まさにその言葉通りに行動しているつもりです。しかし、議会からは「任せている安心感や専門性をもっと見せてほしい」と、行政における従来の無謬性を求める声を頂くこともあります。それに対しては申し訳ないと感じています。

 

小田 行政の無謬性は「失敗できない」がベースなので、できることが限定されますよね。時代の流れとしては、行政であっても「トライ&エラー」を繰り返すことの方に重きが置かれるべきだと考えます。

山梨町長 私はもともとベンチャー企業に勤めていたので、考え方のベースが「トライ&エラー」です。「うまくいかない」のも結果ですから、それを踏まえて改善すれば、失敗で終わることはないと思います。

職員にもこの認識は共有されています。時には交渉もしますし、素直に謝ることもします。みんな「葉山の町を良くしたい」という気持ちが根底にあって行動するので、住民から信頼を得ているのだと肌で感じています。

「あの職員が担当だから協力する」とまで言ってくださる町内会もあります。このように職員を褒めていただけるのは、うれしいことです。

 

第4回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年2月27日号

 


【プロフィール】

神奈川県葉山町長・山梨 崇仁 (やまなし たかひと)

1977年生まれ。東京都渋谷区出身。大学卒業後に3年間、ウインドサーフィン選手として活動。ベンチャー企業勤務、神奈川県葉山町議を経て、2012年1月葉山町長に就任。現在3期目。

 

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