まちの新産業を「デザイン」で創出~山添藤真・京都府与謝野町長インタビュー(1)~

京都市与謝野町長 山添藤真
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2022/09/26 まちの新産業を「デザイン」で創出~山添藤真・京都府与謝野町長インタビュー(1)~
2022/09/29 まちの新産業を「デザイン」で創出~山添藤真・京都府与謝野町長インタビュー(2)~
2022/10/03 次世代に継承できる、小さくとも誇り高いまちを~山添藤真・京都府与謝野町長インタビュー(3)~
2022/10/06 次世代に継承できる、小さくとも誇り高いまちを~山添藤真・京都府与謝野町長インタビュー(4)~


 

与謝野町は京都府北部、日本海に面した丹後半島の付け根にある人口約2万人(2022年6月末現在)のまちです。豊かな自然とともに、江戸時代から続く織物業を中心とした伝統的なものづくり文化で発展を遂げてきました。

また、賃貸住宅建設大手の大東建託が公表した「住み続けたい街ランキング2021(京都府版)」で1位に輝くなど、住みやすさにも定評があります。しかしながら高齢化や人口減少の波は、同町にも例外なく押し寄せています。

そんな中、2014年4月に就任し、現在3期目となる山添藤真町長(40)=写真1=は、どのような視点を持ち、どんな姿勢でまちづくりを進めようとしているのでしょうか。新産業の創出に向けた取り組みから、その様子がうかがえます。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

地場産業のブラッシュアップ

小田 社会全体の縮退が進む中、若い世代が自治体のリーダーになるケースが増えてきています。山添町長はその先輩格に当たられるのではないかと思います。まずは、与謝野町が「住み続けたい街ランキング(京都府版)」でトップになったことについて伺います。町長のこれまでの活動の成果ではないかと思いますが、いかがですか?

山添町長 いろいろな理由が考えられますが、大きな要因は新型コロナウイルス禍という社会的変化の中で、多くの住民が自分たちのまちの良いところを再発見した時期だったのではないかと推測しています。特に与謝野町は人口が密集しておらず、身近な所に美しい風景が広がるまちです。このような、今まで当たり前だった環境が再評価されたのが大きなポイントだと思っています。

 

小田 与謝野町は山も海もあり、伝統産業も息づいており、資源を多く持っている印象があります。人口が約2万人なので、住民同士の支え合いも自然に行われているでしょう。そんな温かみのあるまちで、山添町長はこれまで数々の政策に着手してこられました。特に産業振興には注力されているように感じます。

山添町長 昔から脈々と受け継がれてきた産業をいかに伸ばしていくか、ということは常に考えてきました。特に織物業と農業は全国的にも評価の高い産業です。これらをさらに発展させるため、例えば織物業では「丹後ちりめん」をはじめとする呉服業界のみならず、現代社会の生活様式に合わせ、アパレルや建築建材への応用といった具合に用途を広げてきました。

もう一つの地場産業である農業では、特に自然循環農業に力を入れています。農家の皆さんにまちで生産した有機質肥料を提供し、作物を育てていただくことで自然が循環する形です。主に稲作で取り組んでいますが、近年はホップの栽培にもチャレンジしてきました。このように、与謝野町のまちづくりの核はものづくりにあります。

 

ものづくりを長きにわたって継続するためには、教育と環境の整備も必要です。全体像としては、経済・教育・環境の3要素が融合するまちづくりを推進していきたいと思っています。

最近は、ホップ栽培とそこから派生するビール産業に地域の内外から多くの関心を寄せていただいています。今年度はビール醸造所の着工を予定しており、いよいよ新産業の創出に向けて大きく踏み出す時期に差し掛かっています。

 

(写真1)3期目の初登庁の様子(出典:与謝野町公式フェイスブック)

 

就任初期から「デザイン」の概念を採用

小田 地場産業を守ることについては、住民の理解は得られやすいと思います。しかし、今おっしゃったような繊維業の新分野への進出や有機農業への注力、ビール産業の創出など、革新的な取り組みに対する住民の理解は、どのように促していったのでしょうか?

山添町長 私が町長に就任したのは14年4月ですが、当時からまちづくりには「デザイン」という概念が必要だと感じていました。ここで言う「デザイン」は、単にモノの見た目を整えるデザインではなく、もっと広義の「設計」に当たります。

町の産業の魅力、強みと弱み、そして何にフォーカスすれば市場の関心を引き寄せることができるのか。あるいは何が今、小さな一歩として始められるのか。このようにまちの要素を一つ一つ丁寧に分解して捉えながら、仮説と検証を反復して最適解を見つけ出せればと考えていました。

 

そこで、デザインマネジメントや産業構造に強いパートナーと共にまちづくりを進めようと、15年から16年にかけ、株式会社エムテド代表の田子學さん(注)にクリエーティブディレクターとして、ご協力いただきました。田子さんには住民と行政、企業が議論する場でファシリテーション(進行)を行っていただき、まちづくりのテーマ設定や事業の構成を共につくってきました。

ですので、行政が強いリーダーシップを発揮して住民理解を促したり、ピンポイントなテーマ設定をしたのではありません。これから活躍される世代を中心に、専門的な知見を持つクリエーティブディレクターと議論を重ねる中で、「まちの新たな一歩」を見いだしていったという経緯があります。

 

小田 私自身も民間企業で新規事業開発に携わっていますが、事あるたびに設計という意味での「デザイン」の必要性を感じます。事業を持続させ、価値を生み出し続けるためにはどのような時間軸で、持っている資源をどう配置するか、計画・実行に当たって必要となるルールは何かなど、あらゆる要素を網羅的に設計しなければなりません。

これをまちづくりに置き換えると「ソーシャルデザイン」と表現されたりもしますが、そうした概念を14年時点でお持ちだったとは驚きです。

山添町長 人口減少と高齢化が社会の前提にある中、まちづくり計画を創造的に作るためにはどうしたらいいかと考えたとき、広義の意味での「デザイン」にたどり着きました。そして、それを実践できる方とご縁を頂けたことも大きいです。

田子さんにご尽力いただいたのは2年という限られた期間でしたが、私自身も職員も非常に多くの学びを得ることができました。ただ、住民の全員に「デザイン」を生かしたまちづくりの全容をご理解いただけたかと問われると、そうとは言い切れない部分もあります。

 

小田 首長のリーダーシップには、大きく分けて二つのタイプがあると考えています。一つは首長自身がどんどん決定し、トップダウンでまちづくりを進めていくタイプ。もう一つは周りを巻き込みながら、一緒にまちづくりを進めていくタイプです。山添町長はどちらかといえば後者のように感じます。

どちらのリーダーシップを行使するかは、首長自身の人柄はもちろん、地域性や住民の気質も影響するでしょう。山添町長が職務に臨む姿勢として、普段から意識していることは何でしょうか?

山添町長 今おっしゃった二面性を使い分けるという点です。多くの方がちゅうちょするような大きな決断を迫られるときは、もちろん先頭に立って決断します。しかし住民や職員の主体性を大切にしたい場面では、後ろから支える役割に徹します。こうした二つのリーダーシップの使い分けは常に心掛けています。

このことは2期目、3期目の初登庁時のあいさつでも申し上げました。「あるときは先頭に立って歩きます。また、あるときには最後尾を歩きます」と。

 

注=あらゆる産業分野においてコンセプトメーキングからプロダクトアウトまでを、組織デザインやブランディング、ユーザーエクスペリエンス(UX)も含めて総合的・統合的にデザインする「デザインマネジメント」を得意とするデザイナー。

 

第2回に続く

 


【プロフィール】
京都府与謝野町長・山添 藤真(やまぞえ とうま)

1981年京都府生まれ。2004年フランス国立建築大学パリ・マラケ校に入学。06~08年フランス国立社会科学高等研究院パリ校に在学。10~14年京都府与謝野町議。14年与謝野町長に就任し、現在3期目。

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