まちの将来を見据えた「選択と集中」~齊藤啓輔・北海道余市町長インタビュー(4)~

北海道余市町長 齊藤啓輔
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

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やる・やらないの線引き

小田 齊藤町長の考える「町の仕事」について伺います。

町議会の議事録を拝見していると、議員からの要望に対し、齊藤町長が「これは町の仕事ではありません」と答える場面がよくあります。この明確な意思表示には驚かされます。町長は「町の仕事」、つまり行政の役割は何だと捉えていらっしゃるのでしょうか?

齊藤町長 経済政策であれば、民間事業者をサポートすることが町の役割です。例えば補助金を案内したり、各種申請をサポートしたり、(経済産業省の出先機関である)経済産業局に同行したりといったことです。

よく特産品の開発・販売も町の仕事のように捉えられることがありますが、それはあくまでもビジネスです。最も健全なスタイルは、地域の魅力を民間事業者が自ら知恵を絞ってビジネスに生かし、経済を回していくことですから、町と民間の役割はきちんと切り分けるべきだと思っています。

反対に、コストパフォーマンスが悪く、民間事業者が参入しづらい領域は、行政がカバーする必要があります。例えば0~2歳児の保育などが、それに当たります。民間事業者は参入しづらいが、公共的に必要性の高いものについては、町の仕事の範疇と言えます。

 

小田 「あなたの町の仕事は?」という質問に対し、その場で明確にお答えになる首長は珍しいです。首長によって答えは違うかもしれませんが、行政がすべきこととしないことを定義しているかどうかが重要です。その線引きが明確で、何に投資が必要かを分かっているからこそ、「選択と集中」が迷いなくできるのだと思います。

齊藤町長 行政運営の基本的な考え方だと思っています。

 

将来的に重要な意味を成す分野に投資

小田 ふるさと納税のおかげで財源がかなり増えたと思うのですが、その使い道は何ですか?

齊藤町長 基本的には、まちの将来のために使っています。主に放課後児童対策、子育て医療費、小中学校の図書・体育振興、プログラミング教育、それから不妊治療にも割り振っています。ワイン産業と関連の深い「食」のマーケティングにも使っています。

小田 今回のインタビューに当たり、2022~31年度の10年ビジョンである町の第5次総合計画(概要版)を拝見しました(写真3)。そこにも「まちの将来のため」とする記述が大きくありました。

 

齊藤町長 第5次総合計画は「未来に向けて住みやすいまちをつくる」をメインテーマとして、次の三つを掲げています。

①次世代の可能性を引き出す
余市町は未来への投資として、人づくりを通じ、子どもや若者といった次世代の可能性を引き出すまちづくりを進めます。

②資源を最大限活用し、まちを持続・発展させる
余市町は選択と集中により、限られた資源を最大限に活用したまちづくりを進めます。

③激動する社会に柔軟に対応する
余市町はこれまでの概念にとらわれず、激動する社会に対応するまちづくりを進めます。

 

写真3 余市町の第5次総合計画(概要版)(出典:余市町)

 

小田 齊藤町長が常にまちを俯瞰し、将来的に重要な意味を成す分野に投資されている様子がよく分かりました。「選択と集中」という一貫したお考えが伝わってきます。それで結果も出されていますから、他の自治体から見て代表的な成功事例になると思います。

齊藤町長も他自治体の首長の活動を参考にされたことがあるのでしょうか?

齊藤町長 北海道沼田町の前町長です。同町は広大な面積を持っており、冬の間は雪に閉ざされるエリアもあります。そんな中、前町長は過疎地で独り暮らしをしている高齢者に冬の間だけ、市街地に引っ越していただく施策を行っていました。こうすることで、町全体の除雪作業をコンパクトにすることができます。こういった合理的な施策が打てる方からは学ぶことが多いです。

 

小田 その施策は大変興味深いですね。とはいえ、実行するためには合意形成が避けられません。合意形成にベストプラクティスがないという点が、自治体運営の難しさであり、永遠のテーマだと感じます。ところで、任期満了に伴う余市町長選(2022年8月23日告示、同28日投開票)がありますね。

齊藤町長 引き続き町政に携わろうと、出馬表明しています。(※2022年8月24日に無投票で再選)

 

小田 近年の選挙は、政策よりも候補者の「個」にフォーカスするケースが増えてきています。

齊藤町長 そこはバランスよくあるべきだと思います。選挙は単なる人気投票ではありません。

 

小田 個人的には、「政治」を理解している方に首長を務めていただきたいと感じます。

齊藤町長 若い世代の首長が北海道のみならず、全国にどんどん増えていくといいと思っています。そうすれば、若者も政治に関心を向けやすくなるはずですから。

私は基本的に、若い人たちの熱意ある活動は応援するスタンスです。以前に、「北海道を本気で盛り上げる」という趣旨の経済コミュニティー「えぞ財団」の立ち上げも、後方支援させていただきました。若い人たちの柔軟性と熱意は、ポテンシャルはあるのに生かし切れていない地域が成長するための大きな糧になると思います。

 

小田 地域の中から活性化していくイメージでしょうか?

齊藤町長 行政が地域のプレーヤーや民間企業と連携し、国からの支援を待つばかりでなく、能動的に地域を持続可能な経済構造にしていく。これが、今後の地方創生には欠かせない要素となるのではないかと思います。

 

【編集後記】

外交官時代に培ったグローバルな視点と分析力を駆使し、機を巧みに読みながら、まちづくりの次の一手を打ち続ける齊藤町長。その考え方は首長というよりも起業家のようでしたが、すべては「まちの将来のため」に帰結します。

目的から逆算した「選択と集中」の戦略は、観光客の「質と量」に変化をもたらすなど、確実に町の発展に寄与しており、自治体経営の好事例と言えるでしょう。

自らの自治体の強みと弱みは何か。強みはどのマーケットに受けるのか。まずはどこから押さえるか。読者の皆さんも、これを機に考えを巡らせてみてはいかがでしょうか。

 

(おわり)

 


【プロフィール】
北海道余市町長・齊藤 啓輔(さいとう けいすけ)

1981年生まれ。早大卒。2004年外務省に入り、ロシア大使館、ウズベキスタン大使館、ウラジオストク総領事館、首相官邸国際広報室などで勤務。16年6月北海道天塩町副町長に就任。18年9月北海道余市町長に就任し、現在2期目。

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