誰もが互いを理解し、思いやるまちへ~村山俊明・群馬県大泉町長インタビュー(3)~

群馬県大泉町長・村山俊明
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2024/05/14 フレンドシップから始まる多文化共生~村山俊明・群馬県大泉町長インタビュー(1)~
2024/05/19 フレンドシップから始まる多文化共生~村山俊明・群馬県大泉町長インタビュー(2)~
2024/05/21 誰もが互いを理解し、思いやるまちへ~村山俊明・群馬県大泉町長インタビュー(3)~
2024/05/24 誰もが互いを理解し、思いやるまちへ~村山俊明・群馬県大泉町長インタビュー(4)~

 


 

前回に引き続き、群馬県大泉町の村山俊明町長のインタビューをお届けします。

町内に集積する工場の働き手として、人口の2割に当たる約8300人の外国人が居住する同町の姿は、10年後の日本の縮図と言えます。前回は多文化共生に向けた数々の先進的な取り組みについて語っていただきました。とりわけ印象的だったのは「机上で考えられた多文化共生は実にならない」「フレンドシップが土台としてあって、初めて多文化共生が進む」という言葉です。

今回は、あらゆる背景を持つ住民の心を融和していくための取り組みについて伺いました。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

※村山町長(上)へのインタビューはオンラインで行わた(出典:官民共創未来コンソーシアム)

 

日本人の住民と外国籍住民の間にある温度差

小田 前回に、村山町長がブラジル国籍の方々とバーでサッカーのワールドカップ(W杯)を観戦しながら、親睦を深めたというエピソードをご紹介いただきました。外国籍住民に対し、日本のマナーを押し付けるのではなく、彼らの中に入って共に生きる姿勢を示したからこそ、互いの間に信頼関係が生まれたのだと思います。村山町長は多文化共生に向け、直接のコミュニケーションを大切にしていますが、職員にもそれを意識するよう伝えているのですか?

村山町長 はい。こちらから能動的にコミュニケーションを行うようにと呼び掛けています。外国籍住民が経営する店には職員と共に積極的に足を運んでいます。先日は企画部多文化協働課の部長や課長ら職員4人と共に、ブラジル人の方が経営するディスコに行きました。もちろん彼らと一緒に踊るためです。しかし職員は皆、慣れていません。ぎこちない動きで踊るので、おかしかったです。ブラジル人の方々も珍しいものを見るかのような目線を寄越していましたね。

 

小田 思わず笑ってしまいました。そうやって直接触れ合う機会をつくっているのですね。日本人の住民は外国籍住民に対し、どのような反応を示しているのですか?

村山町長 現状は、あまりオープンな姿勢ではありません。これは住民アンケートからも明らかです。外国籍住民に「町の日本人と積極的に交流を持ちたいか?」と尋ねたところ、73%が「積極的に交流したい」と答えました。一方、日本人の住民に「外国籍住民と積極的に交流を持ちたいか?」と尋ねたところ、「積極的に交流したい」と答えたのはわずか11%でした。両者の間には温度差があります。外国籍住民の経営する店には、ほとんど日本人の姿がありません。なかなか自然に交じり合わないのが現状です。

 

小田 日本人の住民が外国籍住民に対し、オープンな姿勢を示さない理由について、どのように考えていますか?

村山町長 世代によって受け止め方が違います。やはり年齢が高くなればなるほど、外国籍住民に対する警戒心は強まる傾向にあります。

 

小田 それはなかなか難しいですね。しかし村山町長のことですから、積極的な交流を促すような工夫を考えておられるのでしょうね。

村山町長 町が主催するイベントには両者が参加するよう積極的に働き掛けています。2024年度はハロウィーンパーティーの開催を検討しています。町には51カ国の外国籍住民が住んでいますが、ハロウィーンパーティーはこれまで開催していませんでした。「お祭り騒ぎ」のイメージがあるので、日本人の住民からは反発があるかもしれません。しかし、これだけ多くの外国籍住民が同じ土地で暮らしているのですから、彼らとの交流が促されるよう、思い切って開催しようと考えています。

 

子どもや若者はオープンに交流

小田 外国籍住民に対する日本人住民の心の開き具合には、世代間でギャップがあるとのことですが、子どもたちに関してはいかがですか?

村山町長 公立学校に通う子どもは、多いところでは約3割が外国籍です。やはり幼い頃から同じ校舎で過ごしていることもあり、子どもたち同士は国籍にかかわらず、とても仲が良いです。しかし私立のブラジリアン学校の子どもたちは、日本人とほとんど交流がありません。中には学校法人になっていない団体もあります。こういう子どもたちを、いかに「交ぜて」いくかが大切だと考えています。

 

小田 偏見や先入観の少ない子ども世代から交流が盛んになれば、いずれは町全体に波及していくかもしれませんね。

村山町長 同感です。今の子どもたちは自然に打ち解け合っているわけですから、その世代が大きくなれば、町は変わると思っています。実は外国籍の子どもたちが町を助けてくれたこともあるのですよ。

 

小田 それはどういう事例ですか?

村山町長 新型コロナウイルスの感染が拡大したときです。大泉町は感染者が確認されたのが、群馬県内で2番目でした。その要因の一つと考えられたのが、外国籍住民の「ハグ」の文化です。行政としては感染拡大防止のため、なるべく接触を控えていただきたかったのですが、なかなか説明が行き渡らずに苦戦していました。

そこで外国籍の中高生や若者に、行政からのメッセージを翻訳して拡散してほしいと協力をお願いしました。彼らは快諾し、日本語の分からない家族に町の感染状況や対策を通訳して伝えたり、SNSで仲間に情報を拡散してくれたりしました。そのおかげで感染者数が激減したということがありました。

 

小田 外国籍の子どもたちや若者は、とてもオープンハートですね。

村山町長 だからこそ、交流が生まれていないところを早く解決してあげたいのです。先ほども述べましたが、私立のブラジリアン学校に通う子どもたちと日本人住民の交流はほとんどありません。交流を促すためには何か仕掛けが必要です。ですから先日は近隣の大学に参画してもらい、外国籍と日本籍の若者を集めて「防災炊き出し訓練」という名称で野外調理のイベントを開催しました。みんな喜んで参加していました。

 

第4回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年4月1日号

 


【プロフィール】

村山 俊明(むらやま・としあき)

1962年生まれ。97年5月群馬県大泉町議となり、2005年5月から07年5月まで同町議会議長を務めた。

13年5月大泉町長に就任し、現在3期目。

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