県民の未来にフォーカスした「愛媛県デジタル総合戦略」(1)〜戦略策定の裏側にある丁寧なアナログコミュニケーション〜

愛媛県企画振興部デジタル戦略局 デジタルシフト推進課 企画グループ担当係長 森俊人
(聞き手)株式会社Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴

2021/08/03  県民の未来にフォーカスした「愛媛県デジタル総合戦略」(1)〜戦略策定の裏側にある丁寧なアナログコミュニケーション〜
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2021年3月25日。「デジタルでつなぎ切り拓く、活力と安心感あふれる愛顔のえひめ」。この理念が冒頭に掲げられ、「愛媛県デジタル総合戦略」は発表されました。

また、同時に、「愛媛県・市町DX協働宣言」(県と20の市町が積極的に連携し、協働してDX〈デジタルトランスフォーメーション〉を推進する旨が明記された宣言)の発表もなされ、愛媛県は文字通り、県全体が一体となってDXに取り組む姿勢を示した形になります。

公表された戦略資料には、行政、暮らし、産業の三つの分野にわたって県民本位のデジタル活用の戦略や戦術が書かれており、その総数は81に及びます。

今回から4回に渡り、この総合戦略の策定を行政サイドからリードした、愛媛県企画振興部デジタル戦略局の森俊人氏へのインタビューをお届けします。

約1年間に及ぶ戦略策定プロセスにおいて、DXという未知の分野をどう捉え、どのように庁内に浸透させていったのか?また、協働宣言を出せるほどの連携を、県下20の市町とどう築いていったのか?今後もますます加速するであろう自治体DXのリアルを、記事から汲み取っていただければと思います。

全国に先駆けたデジタル活用を3年前から実施

伊藤 愛媛県がデジタル総合戦略の策定に取り組み始めたのが、2020年の7月からでしたね。そこから約1年が経とうとしていますが、振り返ってみて、率直にどう感じておられますか?

森氏 「県全体でDXに本気で取り組む」という意思統一がされ、ようやくスタートラインに立ったと思っています。戦略策定から1カ月後の4月27日には、第1回デジタル総合戦略本部会議が開催されまして、幹部が全員揃う中、知事から、常に社会変化の一歩先を見据え、大胆かつスピーディーに挑戦する姿勢で取り組むよう指示がありました。

コロナをきっかけに、国の方ではデジタル庁創設や自治体DX推進計画の話が加速してきていますが、愛媛県の場合は、中村時広知事がそれよりも少し先んじてDX推進の姿勢を示していました。コロナ禍になる前に戦略策定に向けて着手できたこともあり、過剰に慌てることなく進めてこられたような気がします。

これからは立てた戦略を実行し、行政として結果を出していかねばなりませんので、身が引き締まる思いです。

 

伊藤 戦略というのは、作って終わりになりがちな面もあると思います。それが愛媛県の場合は、新年度が始まってすぐに戦略本部会議が開催され、一丸となって進んでいる様子がうかがえます。この1年、庁内でどのような取り組みをしてきたらそうなったのか、教えていただけますか?

森氏 愛媛県の場合は、知事が約3年前から「地域の持続的発展に繋げるデジタル活用」の考えを示しており、2018年には、まずはプロモーションの分野でデジタルマーケティングの手法を取り入れていったという背景があります。

このように、全国に先駆けるような形でデジタル活用を進めてきたわけですが、昨年度からは、全庁的な横串の組織となる「デジタル総合戦略本部」を立ち上げ、県政全般のDXを進めてきました。具体的には、外部の専門人材とオンラインで繋がり知見を頂きながら、庁内の業務効率化や、デジタル技術を使った教育・保健福祉サービスの質の向上などに取り組んできました。

目的は「愛媛県の未来をデジタルで切り拓く」こと

外部の有識者らとオンラインでのディスカッション(出典:愛媛県)

 

伊藤 コロナ禍をきっかけに、行政が有識者とオンラインで繋がるようになりました。時間や距離の制約がなくなり、より多くの有識者とディスカッションができる環境になったと思うのですが、この繋がり方は今後も定着していくと感じますか?

森氏 現状、首都圏を拠点に活動している有識者の方が多いので、そのような方々とオンラインで繋がれるようになったのは、我々地方自治体にとっては大きなメリットだと思います。しかし、オンライン一択かといわれるとそうでもない気がします。やはり、オンラインとオフラインのハイブリッドで繋がりを築いていくのがよいのではないかと思います。

さまざまな方々と柔軟に繋がっていけるように、我々の働き方も変化させていかなければなりません。

 

伊藤 「変化」とおっしゃいましたが、デジタル総合戦略を作るプロセスにおいて、森さん自身に気付きやマインドの変化などはありましたか?

森氏 変わった部分と、あまり変わっていない部分と、両方あります。

変わった部分に関しては、より「共創」の意識が強くなりました。「県のDX戦略を描く」というのが私たちに課せられたミッションでしたが、綺麗に整った戦略を描くことが目的ではなく、「愛媛県の未来をデジタルで切り拓く」ことが目的です。

そのために、県民の方々はもちろん、他の県庁職員や県内の基礎自治体にデジタル活用の意義を分かりやすく伝えることを常に考えていました。その上で、それぞれの意見も反映させていく必要がありましたから、とにかくコツコツと意見交換と議論を重ねてきました。この経験を通じて、多くの方々の声を集約しながら一緒につくるという意識は強まりましたね。

一方で、以前とあまり変わっていない点は「県民目線で考える」ということです。

私は2017年に、愛媛県で64年ぶりに開催された国民体育大会の企画運営に携わった経験があります。そこでは県民の総参加を目指して機運を醸成する役割を担っていましたが、「どうすれば、多くの県民の皆さまがそれぞれの立場で楽しめるか?」ということを中心に置き、施策を設計しました。

この経験をもとにDX戦略にも取り組みましたので、DXはあくまで手段であって、大切なのは「愛媛県民全体の暮らしに価値をもたらすこと」だということは、念頭に置いていました。

 

第2回に続く


【プロフィール】

森俊人(もり・としひと)
愛媛県企画振興部デジタル戦略局 デジタルシフト推進課 企画グループ担当係長
2017年開催のえひめ国体にて、広報分野の企画運営に従事し県民総参加の機運を醸成。2018年からは前身のプロモーション戦略室において、デジタルマーケティングの導入に携わり、2020年には改組されたデジタル戦略室にて、民間企業と共創しながらデジタル総合戦略策定に従事。現在も同戦略に掲げる各施策を実行すべく、DX関連の業務に携わる。

 

伊藤大貴(いとう・ひろたか)伊藤大貴プロフィール写真
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。

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