ウィズコロナ時代に「自治」を考える ~「#墨田区マスクプロジェクト」と議会・行政~(上)

東京都墨田区議会議員
佐藤 篤

2020/8/3 ウィズコロナ時代に「自治」を考える ~「#墨田区マスクプロジェクト」と議会・行政~(上)
2020/8/5 ウィズコロナ時代に「自治」を考える ~「#墨田区マスクプロジェクト」と議会・行政~(中)
2020/8/7 ウィズコロナ時代に「自治」を考える ~「#墨田区マスクプロジェクト」と議会・行政~(下)


マスク不足に多くの国民が悩まされる中、「#墨田区マスクプロジェクト」がにわかに注目を浴びた。各種ネットメディアやテレビ報道で取り上げられたこのプロジェクトは「区民が発案し、区民がつくり、区民が売って、区民が使う」をコンセプトにした、マスクの地産地消プロジェクトである。

新型コロナウイルスの流行(以下「コロナ禍」と記す)で、さまざまな社会インフラが停止を余儀なくされる中、自治を通じて一つの結果を出すことができたこのプロジェクトを皮切りに、議会や行政の在り方について俯瞰しつつ、ウィズコロナ時代の自治の在り方を改めて検討してみたい。

#墨田区マスクプロジェクトとは

#墨田区マスクプロジェクトは、このハッシュタグが意味するように、SNS(インターネット交流サイト)のツイッター発の区民運動である。

私は、区議会議員として、このコロナ禍において、毎日山のように頂く相談に対応しながら、仕事を続けていた。そのような折、マスクが確保できないという区民の悲痛な叫びを耳にした。また、障害者雇用が失われている現状、同時に、本区の主要産業であるメリヤス業の厳しい現状を知ることとなった。これらを結び付けることができればマスクを作り、区民に供給し、障害者雇用を守ることもできる。まさに「三方よし」のスキーム(図式)ができるのではないか、と考えた。

マスクプロジェクトロゴ

#墨田区マスクプロジェクトのロゴ (關真由美製作)

アイデアをつぶやいてみた

区議会議員としては、このアイデアを形にするためには、議会で提案し、区の予算を確保し、これを区長により入札にかけてもらい、審議するというのが王道だろう。しかし、いかんせん時間がない。議会で提案するのに一定例会、また予算化に一定例会、とすると、おそらく今この原稿を書いている時点でも、マスクは区民に供給することができなかっただろう。仮にこの予算が確保されたとしても、地方自治法で規定された、一般競争入札の原則があるため、いかにコロナ禍であっても、地場産業支援として、必ずしもマスクの発注が区内企業になされるとは限らない(いわゆる「緊急随意契約」〈地方自治法施行令第167条の2第1項第5号〉という方法はあり得る)。行政は手続きの公正性の確保を、議会は民意の反映と行政の監視を目的とするので、そもそも民間の動きに比べて時間がかかることは、制度設計上やむを得ないのだ。

そこで、こうした方法ではなく、自分が取り得る方法は何か。区民が自らの手で行うことのできる方法を模索することとし、今の時代らしく、ツイッターフェイスブックといったSNSを使って、このアイデアを呼び掛けてみたのである。

共感する区民

一日で、多くの区民から反響があった。デザイナーやプランナー、障害者家族団体の関係者、メリヤス業者、行政書士、一般区民、さまざまな方々が連絡をくれた。そうしてSNS上でグループをつくり、アイデアを出し合った。同僚の坂井ユカコ議員、坂井ひであき議員、藤崎こうき議員も手伝ってくれた。

まず、製造については、区内メリヤス3社(小倉メリヤス製造所、オレンジトーキョーおよび和興)が手を挙げてくれた。生産ラインをマスク生産のために切り替えてくれた。

次に、販売者である。うち2社は自前の販売網を有していたが、1社はこれまで卸専門に行ってきたことから販売網を有していなかった。100枚単位の生産となることから、小売店を探すことが急務となった。

当初のアイデアでは、区役所1階において障害者団体主催で行っていたワゴンでの販売を考えたが、コロナ禍でこの事業自体が休止していて再開の目処が立たなかったこと、仮に再開しても、感染防止対策のためには、1カ所に行列ができるのは良くないことや、販売者に十分な感染防止策をとれないことから、断念せざるを得なかった。

そこで、SNSでさらに呼び掛けると、「私が売ります」という区民が続々と現れ、最終的には20人ほどになった。区内の歯科医院、薬局、銭湯、飲食店、カフェ、美容室、コンビニエンスストア、小売店、個人等である。

さらに、区内二つの町会(京島三丁目北町会および立花五丁目東町会)と一つのマンション管理組合がまとめて購入し、町会員・マンション住民に配布したいとの申し出があった。また、1000枚単位で、職員や入居者向けに配布したいという特別養護老人ホームからの購入希望も入ってきた。

町会配布のマスクをポストに入れる筆者

町会配布のマスクをポストに入れる筆者

 

マスクを区民に供給する手伝いをしたい、このことを通じて、地場産業の支援にもつなげたいという、区民の優しくも心強い思いを感じた。こういう区民がいることを、私は区議会議員として誇りに思う。

「中」に続く


プロフィール
佐藤篤さん写真佐藤 篤(さとう・あつし)
東京都墨田区議会議員
1985年東京都墨田区生まれ。麻布高等学校卒業。早稲田大学政治経済学部を3年次で飛び級し、同大学院法務研究科修了。法務博士(専門職)。米国外資系法律事務所に勤務、2011年墨田区議会議員選挙初当選、現在3期目、墨田区議会副議長を務める。子どもの事故予防地方議員連盟会長。マニフェスト大賞(早稲田大学・毎日新聞社)優秀政策提言賞受賞。地方議会改革、政策法務、生活困窮者支援に関心をもって活動中。

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