「ワーケーション」にどう向き合っていくべきなのか?(後編)

一般社団法人日本ワーケーション協会特別顧問
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム理事
元総務省大臣官房サイバーセキュリティ・情報化審議官
箕浦 龍一

2021/07/27  「ワーケーション」にどう向き合っていくべきなのか?(前編)
2021/07/29  「ワーケーション」にどう向き合っていくべきなのか?~(後編)

地方にとってのワーケーションの可能性

Work(仕事)とvacation(余暇)の複合語であるワーケーションの語感から、「遊び」とか「観光」を想起させるワーケーションですが、前述したように、組織主導型の場合には、仕事が目的ですから、地域に訪れてもらう目的のデザインの形は、「遊び」や「観光」以外の要素を組み合わせることが必要でしょう。

その意味では、ワーケーションの「-tion」として、「education(教育・研修)」や「innovation(価値創造)」や「collaboration(協働・共創)」などを想定して、出張先での付加価値提供を考えていく必要があるでしょう。

出張の主目的であるビジネスに加えて、旅先で別途の付加価値が期待できれば、旅行先としてのプライオリティの判断にインパクトがあるのではないでしょうか?

 

と同時に、このような付加価値を考えると、ワーケーション受け入れについては、従来、地方創生という軸で取り組んできた様々な施策(観光・産業振興、新規事業創出、関係人口創出、雇用政策、移住促進など)にも関連する非常に裾野の広い可能性を秘めていることが分かります。

いかに、その地域に足を運んでもらい、リピートしてもらうか。そして、その地域を好きになってもらうか。地域経済の活性化につなげられるか。その地域の抱える様々な課題解決にプラスの効果を生み出すか。

これらの視点には、これまで各地域や自治体が悩み取り組んできた知恵が十分活用できると思います。

 

現在ワーケーションを推進されようとしている自治体においても、担当する部局は多様性に富んでいますが、重要なことは、効果的に地方創生につなげていく上でも、戦略立案と相談窓口を一元化して、行政一体として取り組む体制を構築することではないかと思います。

政府においては、観光戦略推進実行会議が観光戦略全体の中で提唱し、まち・ひと・しごと創生本部で地方創生の戦略としても位置付けられるなど、総合的な取組として動き出しつつあります。

地方自治体でも、総合政策企画部門を総括としつつ、関係部局等が横断的に参画し、しっかりとしたグランドデザインを描くとともに、推進体制としては、縦割りに堕するのではなく、関係部局の責任ある担当者が積極的・主体的に関わるタスクフォースとかプロジェクトチームで進めるのが望ましいのではないでしょうか。

 

これからワーケーションを地方創生の軸として導入を検討される自治体におかれては、2019年に結成された「ワーケーション自治体協議会」(通称WAJ)への参加をお勧めします。和歌山県や長野県、鳥取県などワーケーションの先進自治体が結成した任意団体ですが、会費等の負担を伴わず、自治体間での情報交換や連携などの枠組みとして有効だと思います。(連絡先は和歌山県情報政策課)

ワーケーション自治体協議会ロゴ(出典:ワーケーション自治体協議会公式Facebookページ)

 

受け入れを進める上での課題

ワーケーション誘致の際に、まずはテレワークが可能な施設(シェアオフィスやコワーキングスペース)を整備しようとするアプローチを考える自治体や事業主体もみられますが、ここで二つの点を申し上げたいと思います。

一つは、デジタル時代の旅の変化に対応したワーク環境整備は必須だとは思いますが、これを実現するには、個々の施設単体で考えるのではなく、エリア全体でデザインすることが適当であろうということです。

出張も含め、旅行者は、訪問先で様々な場所を移動しますから、ホテルの部屋の空間だけがワークに適していても、足りないのです。滞在中、ずっとシェアオフィスに留まる人は必ずしも多くないでしょう。

 

前述したように、テレワークは移動中も含め、様々な場所で行われるものです。

駅や空港で降り立った時からテレワークのニーズは発生していますし、エリア内を移動する先々でもテレワークが行われます。民間施設も含めた様々な既存の施設や導線も含めて、現代人のワークのニーズに対応するようなサポートが提供されることが望ましいと思います。

例えば、従来の宿泊施設やレストランは、ゆったりくつろぐのには適した空間であっても、そこでワークを行うには足りないものがあるかもしれません。公共施設の待合室なども、単に座る場所があるだけでなく、そこで待ち時間にワークが行われる前提でデザインし直すことも必要でしょう。

Wi-Fiはもとより、忘れられがちな電源(コンセント)の確保、照明の確保、そして、最近では、リモート会議を行うための個室ブースなど、外出先でのワークに求められる様々なニーズに対して、エリア全体で施設の目的に即したサービス・サポートの提供(レンタルサービスも含む。)が行われるのが理想ではないかと思います。

 

その際、行政や地域のDMOに期待される役割の一つとして、エリアで整備しようとするサポート環境に関して、民間事業者向けのガイドラインなどを用意することが挙げられます。

例えば観光地での宿泊施設などでは、思い思いにWi-Fiなどのワーク環境が用意されていますが、電源が十分に用意されていなかったり、照明が薄暗かったりと、ワークを行うに相応しいサポートが必ずしも十分に用意できていない施設もみられます。

ガイドラインに沿って、エリア全体として一定水準のワークのサポート環境を整えていくことで、ワーケーションに限らず、デジタル時代の旅行者の受入れ環境の充実を進めていくことが必要でしょう。

 

そして、もう一つ。これらの技術的、物理的なサポート環境もさることながら、実はそれ以上に大事な要素は、地域を訪れる関係者に、様々な企画提案や情報提供、滞在中のサポートなどを提供する地域人材、「ワーケーション・コンシェルジュ」の存在です。

地域への誘客を目的に、自然環境や観光資源の素晴らしさや素敵さをアピールすることは、あまり意味がありません。綺麗な海や川、神社仏閣、お城、温泉など、素晴らしくて素敵なものは、実は全国至る所に存在するのですから。

と同時に、ワークスペースやWi-Fi環境など、魅力的なワークサポート環境を整えても、これまた、他の地域に対して決定的なアドバンテージにはなりません。

もちろん、それを目当てにリピートしてくれる人もいるかもしれませんが、さらに重要なのは、旅先で出会う「人」との「ご縁」ではないでしょうか。

 

旅先で地元の方から受けたおもてなしの温もりがなかなか忘れられないのと同じように、ワーケーションで訪れた土地で、地域の素敵な人、面白い人との出会いが生まれれば、「楽しい思い出」が生まれ、旅の満足度が高まりますし、またその人に会いに行きたい、という動機につながることが期待できます。

知らない土地を旅する際に、その土地の素敵な人、面白い人と出会えるかは、運次第です。しかし、その土地を訪れた旅行者に対して、その土地の素敵な人、面白い人をつないでくれる「コンシェルジュ」がいれば、価値ある出会いを効果的に得ることが可能となります。

ビジネス目的での旅の場合には、旅行者の事業内容や目的に照らして、効果的な旅行プランの提案を行ってくれたり、ワーク環境の整った宿泊施設やコワーキングスペースなどの情報提供も有益でしょう。

こういう役割を担ってくれる「ワーケーション・コンシェルジュ」のサポートが得られれば、ワーケーションでの旅の魅力が何倍にも膨らむことは間違いないでしょう。

 

地元の情報提供や地元の人とのネットワーク作りという役割なのですから、ぜひ、「ワーケーション・コンシェルジュ」には、ぜひ地元の地域人材が担っていただくのが望ましいと思いますし、場合によっては地域おこし協力隊を活用することもあるかもしれません。

草創期には、自治体の職員がある程度この役割を担うのはやむをえないと思いますが、行政の職員は多忙である上、このような役割は属人的な要素も大きいと思いますから、こういう分野こそ、民間の活力を育て、活用すべきだと思います。専任でなくても、地元の事業主やワーカーが兼任で対応いただくのでも構わないと思います。

彼ら自身にとっても、外部の人との人脈形成・拡大の大きなチャンスになるのではないでしょうか。と同時に、こういう活動を通じて、外の人とのネットワークが広がることは、地域にとっても高い価値につながるのですから、行政や地域DMO、商工会なども、ワーケーション・コンシェルジュを積極的にサポートし、関わりながら盛り上げていただきたいと思います。

 

こういうワーケーション・コンシェルジュが増えていくことが、地方創生の実効性を高め、地域での様々な課題解決、イノベーション創出にもつながっていくのではないかと思います。

おわりに

 

ICTなどのテクノロジーの進化が、地方に新たな可能性を創出しています。本稿で概説した「ワーケーション」に留まらず、テレワークという可能性は、リモート人材の活用による人材確保やクラウドソーシングの手法を通じた雇用問題へのアプローチなど、地方にとって大きなチャンスをもたらしています。

テレワークにより「職住分離」が可能となったことで、地域に企業・事業所を誘致しなくても、地元に雇用(職)を創出することが可能な時代を迎え、かつ、優秀な人材を、地域のためにリモートで活用しうる時代を迎えているのです。

 

新型コロナウイルス感染症問題を契機に、ようやく国の政策課題としても、ワーケーション推進が明示的に挙げられる時代となりました。

デジタルが実現する新しい社会のRe-designの一つとして、これからの地方創生に、ワーケーションという新しい可能性を選択肢として加えていただき、人々が生き生きと活躍し、地域が輝く未来に向けて、各地のチャレンジを期待します。

(おわり)


【プロフィール】

箕浦 龍一(みのうら・りゅういち)
一般社団法人日本ワーケーション協会特別顧問
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム理事
元総務省大臣官房サイバーセキュリティ・情報化審議官
箕浦龍一

元総務省大臣官房サイバーセキュリティ・情報化審議官、一般社団法人日本ワーケーション協会特別顧問、一般社団法人官民共創未来コンソーシアム理事。行政管理局時代に取り組んだオフィス改革を中心とする働き方改革の取組は、人事院総裁賞を受賞(両陛下に拝謁)。 中央省庁初の、基礎自治体との短期交換留学も実現するなど若手人材育成にも取り組んだ。幅広い人脈を生かし、働き方、テレワーク、食と医療など様々プロジェクト・コミュニティに参画する。

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