常に直接対話で合意形成~山梨崇仁・神奈川県葉山町長インタビュー(4)~

神奈川県葉山町長 山梨崇仁
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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2023/04/14 常に直接対話で合意形成~山梨崇仁・神奈川県葉山町長インタビュー(4)~

 

職員とのコミュニケーション

小田 町長就任後に人材育成や組織づくりの面で工夫されたことはありますか?

山梨町長 私自身、何か特別なことができるわけではありません。直接つながることが唯一のスタイルです。

 

小田 職員一人一人と直接コミュニケーションを取るということでしょうか?

山梨町長 各部署に出向き、状況を確認することは何度も行いました。

就任当初の役場は、いわゆる縦割りの意識が強くありました。例えば、現場に出る技術部門と計画を作る事務部門の間に心理的な距離があったり、町外から働きに来ている職員が組織になじみにくかったりといった具合でした。縦割りの組織にもメリットはありますが、私が目指すまちづくりには組織間の連携が必須でした。

そこで役場内に一体感を出すため、とにかく私から話をしに行きました。現場で起こっていることを理解するとともに、町の職員としてやるべきことを、組織論を抜きにして一人一人に伝え、つながることを大切にしてきました。

 

小田 個人的に今後10年の取り組みが、その自治体の50年先の将来を決めると考えているので、今の首長が果たすべき責任は大きいと思います。

山梨町長 そうですね。ちょうど年頭に「先延ばしにしない、決める政治」という趣旨を発信したばかりです。

先延ばしにして、どんどん深刻化してしまう問題はたくさんあります。火中の栗を拾うつもりで、たとえ立場を失ったとしても今の時代の政治を任されているのですから。政治でサラリーをもらっている人間の仕事として、決めなければならないと考えています。

 

町制100周年に向けて

小田 「規模が小さいからできない」と考える自治体がある一方で、人口約3万3000人の葉山町のように「小さいからこそできる」と考え、取り組みを進める自治体もあります。逗子市と検討中の「下水道事業の広域化・共同化とコンセッション方式による運営」も今後、注目されていくでしょう。ところで、2年後に町制100周年を迎えるそうですね。

山梨町長 周年事業は、行政の自己満足で終わってはなりません。例えば記念誌を作るという事業をよく聞きますが、大きな予算を投下した結果、辞書のような分厚い本が出来上がり、図書館などに並べて終わりというケースも多いようです。

それも必要ですが、行政が盛り上がるだけでなく、住民も巻き込みながら町全体で楽しめる事業にしたいと考えています。

そのためには、まず企画のたたき台が必要です。そこで昨年は職員からイベント案を募集しました。楽しむこと、面白いことに主眼を置いた企画を練ることができそうです。

 

小田 それを住民に知らせていくのですね?

山梨町長 まずは、わくわくするような取り組みのたたき台を作り、議会経由で住民にお知らせする予定です。それから住民に参加していただき、一緒に擦り合わせができればと思っています。

 

小田 100周年に向け、今から住民と一緒につくるのですね。

山梨町長 100周年の日だけ、何かを行うのではなく、その日までにできることをどんどん実行していきます。2022年度も既に補正予算で100周年記念事業の枠を設けました。今後2年間は「もうすぐ100周年!」をニュースにする期間にし、実際の100周年の日は大きな式典で締める流れを想定しています。

 

小田 住民のシビックプライド(地域を誇りに思う気持ち)が、ますます醸成されますね。

山梨町長 私たちは住民を信頼しています。町全体で取り組める事業になるだろうと、今から楽しみです。

 

小田 町と住民の間に培われた信頼関係は磐石ですから、町制100周年も盛り上がりそうですね。最後に山梨町長が考える「行政の役割」について、お聞かせください。

山梨町長 かつて、政府が地方分権と構造改革を推し進めた頃に「国と行政のシュリンク(収縮)」「民間にできることは民間に」といわれており、私もそうなるのだろうと思っていました。しかし、どんどん複雑化する時代において、最終的に皆が頼りにするのは行政です。

人数という意味での規模は縮小するかもしれませんが、専門家が集まる組織として、これまで以上に行政の果たす役割は大きくなっていくのではないでしょうか。

 

小田 普段から住民に頼りにされていると肌で感じているからこその言葉ですね。「先延ばしにしない、決める政治」と合わせて、行政の果たすべき役割と責任の大きさが伝わってきました。

山梨町長 これからも住民と対話を重ねながら、町の将来を形にしていきたいと思います。

 

【編集後記】

首長のカラーで自治体の姿は変わります。山梨町長のお話から終始にじみ出ていたのは「素直さと柔軟性」です。どのステークホルダー(利害関係者)とも胸襟を開いて対話し、間違いがあれば素直に認めて改善する。この繰り返しが役場内に一体感を醸成し、住民の信頼を集め、自治体間で連携するという成果を挙げられたのでしょう。

官民や自治体間の連携に際し、課題となるのは合意形成です。これまでに行った首長へのインタビューでも「腹を割って話す」「直接対話する」「何度も伝える」といったキーワードが幾度となく語られました。

合意形成を図るために必要なのは、コミュニケーションを諦めない姿勢です。

 

(おわり)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年2月27日号

 


【プロフィール】

神奈川県葉山町長・山梨 崇仁 (やまなし たかひと)

1977年生まれ。東京都渋谷区出身。大学卒業後に3年間、ウインドサーフィン選手として活動。ベンチャー企業勤務、神奈川県葉山町議を経て、2012年1月葉山町長に就任。現在3期目。

 

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