全国初「移動式脳ドックサービス」の実証実験 ~水谷俊郎・三重県東員町長インタビュー(2)~

三重県東員町長 水谷俊郎
(聞き手)Public dots & Company 代表取締役 小田理恵子

 

2022/1/31 全国初「移動式脳ドックサービス」の実証実験 ~水谷俊郎・三重県東員町長インタビュー(1)~
2022/2/3 全国初「移動式脳ドックサービス」の実証実験 ~水谷俊郎・三重県東員町長インタビュー(2)~
2022/2/7 50年後を見据え、挑戦繰り返す〜水谷俊郎・三重県東員町長インタビュー(3)〜
2022/2/10 50年後を見据え、挑戦繰り返す〜水谷俊郎・三重県東員町長インタビュー(4)〜

応募数は予想の1.7倍

小田 東員町が官民共創で実証実験を行った「スマート脳ドック」のような比較的新しいサービスは、企業が単独で市民権を得ていこうとすると、なかなかに骨が折れます。今回のように自治体がバックアップすることで、住民の皆さんの信頼や安心が獲得しやすくなるでしょう。

水谷町長 行政が関与することで、民間企業の認知度や信頼性の向上に一定程度の効果があることは間違いないと思います。民間企業にとって、官民連携の大きなメリットの一つはそれです。行政は住民サービスを手厚くでき、企業は信頼性を上げられる。このように、お互いの「ウィン」をつくっていくことが重要です。今回の実証実験で、東員町は広報面でもバックアップしました。その影響なのか、住民の皆さまの応募数は予想以上でした。

 

図 町民に向けた広報 出典 東員町Webサイト

 

小田 どのくらいの応募があったのですか?

水谷町長 当初の予想より1.7倍の応募がありました。スマート脳ドックを受けるための料金は2万円近くしましたから、最初は「本当に応募があるのか」と懸念していましたが、ふたを開けてみたら非常に好評でした(写真2、3)。実証実験が終わってからも、スマート脳ドックの今後の予定について、住民の方から問い合わせがたくさん寄せられています。まだまだ需要があります。

 

写真2 受け付けはコロナ禍に配慮し、仮設テントで
対応した(出典:東員町Webサイト)

 

写真3 車両内で受診する様子
(出典:東員町Webサイト)

 

小田 次回の予定について質問が寄せられているということは、住民の皆さんは今回の実証実験を好意的に受け止められたのですね。

水谷町長 コロナ禍での実証実験でしたが、クレームは全くありませんでした。「なぜもう終わるのですか」というご意見は頂きましたが、実証実験を行ったことに対するご指摘や批判は頂いていません。議会も住民の皆さんのためになったと喜んでいましたね。ですから、出光興産とスマートスキャンには来年も来ていただけるよう、お願いしました。町内で実績ができましたから、来年も実施することについては何ら抵抗はありません。

 

小田 それは、実証実験ではなく事業として、という意味でしょうか?

水谷町長 需要があることは分かっていますから、事業として行っていただいて問題ありません。健康増進や疾病予防を推進する東員町の目的ともぴったり一致しますので、積極的に展開していただきたいです。

 

構想を実現するための行動

小田 私はこのインタビューの前に、全国の脳神経外科や脳ドックの数を医療圏別に調べてみました。すると、東員町のある三重県北勢エリアは全国的に見て、そこまで悪い数字ではありませんでした。にもかかわらず、今回のスマート脳ドックの需要が高かったということは、全国的には脳神経系の医療需要に対し、まだサービスが十分に満たされていない可能性があると感じました。

水谷町長 需要に対する供給の不足もあると思いますが、病院の待ち時間の長さに不便を感じ、受診しない人も多いと思います。その他にも、病院に問い合わせたものの、希望の日時の予約がいっぱいで受診できないといったことなども考えられます。

今回の実証実験をきっかけに何度か、そのような声を耳にしたことがありますので、スマート脳ドックのようなサービスが不便の解消につながるといいと思います。

 

小田 移動式脳ドックという柔軟性の高いサービスで、一人でも多くの方の脳疾患リスクが下がるといいですね。東員町で来年もスマート脳ドックが行われることを期待します。さて、先ほど水谷町長は「他の民間企業とも連携している」とおっしゃいましたが、住民の皆さんに対して直接サービスを提供するような実証実験は、今回が初めてですか?

水谷町長 現在、サービス化に向けて取り組んでいるものはありますが、本格的なサービスに至ったのは今回のスマート脳ドックが初めてですね。

 

小田 では、他にも住民サービスに寄与するような構想がおありなんですね。

水谷町長 「ネタ」段階のものも含めて、たくさんありますね。

 

小田 きっと水谷町長だけでなく、職員の皆さんの中にも「ネタ」がたくさんあると思います。ちなみに、そのような構想を実現するためにどんな行動をされているのですか?

水谷町長 いろいろと研修を開催したり、視察に行ったりしています。構想段階で規模が大きくなりそうなものについては、法律や各種制度の範囲内で実現可能かどうか、実現するにはどんな方法があるかなどを国に確認しに行きます。気になった民間企業とは接点を持つために直接、連絡することもありますね。

 

小田 あらゆる手段を使い、構想の実現性を高めていらっしゃるのですね。

ちなみに、民間企業と接点を持つための方法の一つとして、マッチングプラットフォームのようなものがあります。自治体がかなえたいことを登録しておくと、それを見て連携したいと思った企業がプラットフォームを通じてコンタクトするような仕組みなのですが、東員町はそのようなものを利用していますか?

水谷町長 マッチングプラットフォームは使ったことがないです。そういう仕組みで企業との接点を広げられるのであれば、活用の余地はありますね。ただし自治体も民間企業も、お互いにある程度の構想は持っているでしょうから、本当にマッチするには最終的に膝を突き合わせて話す機会が必要だと思います。

 

小田 そうですね。プラットフォーム上だけのやりとりですと情報が限定されるので、お互いの「本当はこうしたい」という形が見えない可能性がありますね。私も自治体と企業がしっかりと話し合い、ウィンウィンの設計と共有ができた時点で初めて、マッチングが成功したと言えると思います。

水谷町長 そういう意味では、こちらの構想をダイレクトに伝えて企業の反応を見る「直接交渉」は、アナログではありますが、深い話に進みやすいと思います。

 

小田 ありがとうございます。今回のインタビューでは、2021年6〜7月に東員町で行われたスマート脳ドックの実証実験をテーマにしながらも、端々で水谷町長の官民連携に対するお考えをうかがい知ることができました。

水谷町長は「関係施設に自ら連絡し、調整した」「実証実験を行う場所は職員が指定してくれた」と、さらりとおっしゃいましたが、誰が何を担えば事がスムーズに進むのか、民間企業のカウンターパート(交渉相手)は誰が務めるのかといった点などが、暗黙の了解として庁内に根付いていなければ、ここまで円滑な官民連携はかなわないと思います。

これはひとえに、水谷町長が就任当初から官民連携によるまちづくりをイメージし、地道に職員の方々に自らの行動で範を示してきたからではないでしょうか。

次回からは、スマート脳ドックの他に現在進められている官民連携の事例や、水谷町長が職員の方に示すマインドセットについて詳しく伺います。

 

第3回に続く


【プロフィール】

水谷 俊郎(みずたに・としお)
三重県東員町長

1951年生まれ。東京工業大工学部を卒業後、三重県庁、大成建設株式会社での勤務を経て、91年4月に三重県議会議員に初当選。3期の間に県監査委員、県議会行政改革調査特別委員長、同PFI研究会座長などを歴任。2011年4月に東員町長に就任し、現在に至る。

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