緻密すぎるコミュニケーション戦略の裏にあった“小金井への想い”

従来型政治への「怒り」。これをパワーの源に、ストイックに活動する白井亨・小金井市議会議員。マニフェスト大賞の実行委員長という大役を引き受けられた理由を中心に、昨年秋にインタビューを行いました。(2020年11月13日掲載:マニフェスト大賞実行委員長が語る「僕が政治にストイックに取り組む理由」)さて今回はその続編として、怒りの先にある「緻密すぎるコミュニケーション戦略」についてお伺いします。白井議員が、小金井市民とのきめ細やかなコミュニケーションを大切にする理由と方法を探ります

(聞き手=PublicLab 編集長 小田理恵子)

*インタビューは、2021年1月14日に実施

市民連携+公民連携

前回のインタビューでは、「マニフェスト大賞」など、地域という枠組みを越えての活動についてお伺いしましたが、今回は小金井市での取り組みについてお伺いしていきたいと思います。白井さんが思っている小金井市のビジョンとしては、どのようなイメージを持たれていますか。

 

一言で言えば、「市民連携+公民連携」です。多様な市民ニーズに行政がすべて応えられなくなってきているので、民間の活用はもう普通ですが、さらに市民で担えるところは市民に楽しく担っていただく、という風土をつくりたい。小さな公園の管理など、役所の業務を少しずつ手放していって、いろんな分野で市民の裁量を増やして、自由な使い方と適正な管理の両立ができる仕組みをつくりたいと考えています。やり方によってはお互いにとってWin-Winになれると思うんですよね。

僕は、議員になる前、もう10年前のことですが、「市民協働のあり方等検討委員会」に市民として参加していたんですね。それが市政への入口だったので、市民協働を進めたいという気持ちは強いです。でもそれって、押し付けじゃなくて、楽しくできる環境をセットで考えないとうまくいかないと思うんですよね。一緒に街をつくっていく、投票率を上げるとは、そういうことです。時代の流れとしては、投票率は下がっていく状況だけれども、「なんか投票率上がってる街があるぜ」ってすごくおもしろくないですか?

 

おもしろいと思います!市民協働や市民参加といいますと、具体的にはどんな分野でイメージされていますか?

 

子どもと若者が、参加ではなく参画してもらえる仕組みづくりをしたいと考えています。若者でいうと、愛知県新城市の「若者議会」が有名です。一般的な子どもや若者の市民参加って、場を用意して声だけ聞いて、報告書を出して終わりというパターンが多い。でも新城市は、年間1000万円ほどの予算があって、定例の会議や調査もして、1000万円の使い方まで提案するんです。小金井市でも似たようなことをやりたいです。子どもだって、赤ちゃんだって、それぞれが一人の主権者です。主権者として尊重し、声を反映していくべきだと思います。子どもにも常設の会議をつくるべきです。子どもに関わる計画、例えば公園をつくるときにマジで意見を聴く。そういうことをルール化したいですね。北欧などでは、当たり前にやっているんですよ。

 

マジで意見を聴く。いいですね。新城市の予算のお話も出ましたが、小金井市の予算の使い方についてはいかがですか?

 

基本的には、今のままでは財政運営が難しくなっていくので、根本的に行政組織そのものの仕組みを変えないといけないと思います。人でしかできない必要な事業をしっかり担保しつつ、自動化できるところは徹底的にデジタル化を進めるなどして市役所はもう少し小さくても大きなサービスを提供する組織にできます。将来的には役所職員や議員の人数を減らすことも可能になります。

市民の生活レベルが上がってきていますから、今後はお金の使い方の満足感・納得感が大事になってくると思います。まず現状を説明して理解してもらわないと、納得できるわけがないですから、そういう“伝わる”コミュニケーションが重要になります。旧態依然のやり方では、もうダメだと思っています。

市政は一部の人のモノじゃない

いま「コミュニケーション」というお話もありましたが、白井さんは情報発信に力を入れていらっしゃいますよね。

そうですね。地方議会や地方議員の仕事って、いかに重要なのかをもっと知ってもらいたいというところが大きいです。国がつくる法律や制度もそうですが、市でつくる条例によっても市民の暮らしが変わることがあるし、お金の使い方で市民生活の満足度が大きく左右されます。そこに気づいていない人が多いように感じます。難しいのはその「伝え方」なんですよね。

高校生や大学生をインターン生として迎えることがあるのですが、いつも「地方議員の仕事って、どんなイメージ?」って聞くんですね。そうすると、だいたい次の3つが返ってきます。

1、駅前でしゃべっている
2、式典の来賓
3、お祭りを手伝っている

これら3つは、すべて市民との「接点」の部分。議員の仕事という意味では決してハズレではないですが、最も重要な部分が抜けています。私たち議員にとって、最も重要な仕事は「市のルール作り」や「予算」に関する意思決定です。やっぱり、地方議員の重要性って分かりにくい。だからこそ「情報発信に力を入れないと!」と思うんですよね。もちろん、お祭りに行くことで、新たな気づきや出会いもあるので有難い部分はあります。ただ、それらの接点じゃない、重要な部分にも目を向けてほしいんです。

議員インターンシップの様子。左は2019年地域のお店訪問、右は2017年議場見学

議員インターンシップの様子。左は2019年地域のお店訪問、右は2017年議場見学

 

白井さんからは、情報発信をきっかけに、市民と一緒に市政をつくっていきたいという、熱い想いを感じます。

 

そうですね。市政も、行政も、市議会も、一部の人のモノじゃないんです。僕が議員になる前のことですが、2012年、小金井市議会では、市議会に対する市民の意識調査(アンケート)を実施しました。このアンケートは、無作為に抽出した満20歳以上の市民2000人に依頼して、4分の1にあたる506人から回答がありました。おそらく市議会に少しでも興味のある人が回答してくれたのではないかと推測しています。

 

 

例えば、「市議会議員がどのような活動をしているか知っていますか?」という質問に、4割の人が「知っている」と答えているのですが、普段市内で活動している実感値からすると、4割もいないように思います。「市議会議員に自分の意見を伝えていますか?」という質問には、1割の人が「伝えている」と答えていますが、これも1割もいないように感じています。「市議会議員選挙に行きますか?」という質問に対して、「毎回行く」人が65%、「だいたい行く」人が20%という結果なのですが、このアンケート直後の選挙の投票率は、42%なんですね。アンケート結果と投票率が合わないということは、やはり意識や関心の高い人が回答しているアンケートになっている証拠です。

つまり、実際の数字を知るには、アンケート結果の数字から、一定の割合を差し引いて考えなければならない。だとすると、市議会議員の活動を知っている人は4割もおらず、実際は2割ほど。市議会議員に意見を伝えている人は1割もおらず、実際は5%くらいだと推測しています。

こういう結果を見ると、いかに市議会議員の仕事が伝わっていないかが分かります。また、議員に意見を伝えられていない(その理由の1位は「伝える手段が分からない」)ということは、議会としての広報や、市議会議員として裾野を広げる活動や敷居を下げていく取り組みが足りてないと思うんです。

議員の仕事内容や議会の役割がまったく伝わっていない中で、それを知らない人からすると、「議員って必要なの?」と思うのは当たり前のことです。本来であれば、これを解消し、投票率を上げるための抜本的な取り組みをやるべきなのですが、それができていないのが現状です(議会の広報改革を提案しても賛同してくれない会派があるんですよね)。

暮らしを良くしていくには、市民生活の満足度を上げるには、市民が議員に意見を伝え、投票することで意思を表明し、「自分たちの思いが、住みやすい小金井市をつくるんだ」と考えてもらえたら。ぜひ地域のみなさんに、そういう認識をもってもらいたいと考えています。

スポンサーエリア
おすすめの記事