
福島県本宮市長・高松義行
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事・小田理恵子
2025/01/14 「住みよさ県内No.1」を支える独自の地域連携~高松義行・福島県本宮市長インタビュー(1)~
2025/01/17 「住みよさ県内No.1」を支える独自の地域連携~高松義行・福島県本宮市長インタビュー(2)~
2025/01/21 まちづくりへの思いと政治哲学~高松義行・福島県本宮市長インタビュー(3)~
2025/01/23 まちづくりへの思いと政治哲学~高松義行・福島県本宮市長インタビュー(4)~
長期政権の先にある本宮市の未来像
小田 高松市長は現在4期目を務めていらっしゃいますが、振り返っていかがですか。
高松市長 市長就任1カ月後に発生した東日本大震災や、その後の台風災害、そして新型コロナの感染拡大など、次々と大きな課題に直面したことで、当初やりたかったことが十分にできないまま時間が過ぎてしまったという側面もあります。しかし一方で、復旧復興に合わせて、災害対策や安全なまちづくりにしっかり取り組むことができました。
一生懸命に取り組んでいるうちに4期目を迎えることになりましたが、これ以上長く務めるつもりはありません。むしろ、次の世代にバトンを渡す準備をしているところです。
小田 4期を務めてきて感じる、長期政権の利点と課題についてお聞かせください。
高松市長 長期政権の利点は、一貫した政策を継続的に実施できることです。特に、まちづくりのような長期的な取り組みには、ある程度の期間が必要です。その意味で、ある程度の長さの任期は有効だと思います。しかし、同時に課題もあります。例えば、自分のやり方が唯一の正解だと思い込んでしまう危険性があります。また、新しい考えや手法を取り入れにくくなる可能性もあります。
小田 長期政権の是非については、さまざまな意見がありますね。
高松市長 そうですね。実際、集中できる期間には個人差があると思います。私の場合、市長に就任したのは56歳でした。その時は体力も気力も充実していましたし、新しいことにチャレンジする意欲に満ちていました。しかし、70歳を迎えようとしている今、少しずつ集中力に衰えを感じています。
私は常に、市民の方々のために全力を尽くすことができるかを自問自答しています。市民の方々に何をサービスできるか、何を提供していけるのかを考え続けられるから、市民の方々と一緒にまちづくりが可能になります。そのため、その考えが薄れてきたら、辞めた方がいいと思っています。
小田 高松市長は、次の世代へのバトンタッチについてどのようにお考えですか?
高松市長 次に誰が市長になっても、基本的な思いは、皆さんそんなに変わらないと思います。やはり市民のために尽くすという点では同じでしょう。違いが出てくるのは、その実現に向けてどういう手法を取るかということだと思います。
例えば、私たちは21年3月、50年までに二酸化炭素(CO2)排出量実質ゼロを目指す「本宮市2050ゼロカーボンシティ」宣言をして、さまざまな取り組みを始めました。東日本台風災害の経験から、率先して地球温暖化対策に取り組み、環境問題への対応をしないといけないと感じて開始した施策です。
これは次の世代、その次の世代にもしっかりと引き継いでいってほしいですね。
小田 次の市長に特に引き継いでほしいことはありますか?
高松市長 市長としてやっていかなければならないことの大枠はあると思います。ただ、それをどう実現していくかは、次の市長さんが自分の色を出していってほしいですね。私からは、あれもこれもどれも引き継いでくださいと言うつもりはありません。
ただ一つ、最も大切にしてほしいことがあります。それは、元気な本宮市のまま、市民の皆さんが安心して住める、そういう地域づくりを第一に考えてほしいということです。
後は新しい市長が、そのために何をしてくれるか。それを見守りたいと思っています。自分なりの方法で、より良い本宮市をつくっていってくれることを期待しています。
小田 高松市長のまちづくりの哲学の背景には、僧侶であることも影響されているのでしょうか。
高松市長 確かに私の原点はそこにあるかもしれません。実家がお寺だったので、家に帰ると、知らない方が一緒にご飯を食べていたりすることがよくありました。
「旅の途中です」と言って立ち寄る方など、本当にいろいろな方がいらっしゃいました。
そういう経験が、今の自分の原点にあるのかもしれません。
実は、私がやりたかったのは議員でも市長でもなく、まちづくりだったのです。結果としてこの立場になりましたが、その思いは今も変わっていません。
バランスの取れた住みやすさ「本宮市」
小田 改めて本宮市の魅力をPRしていただけますか。
高松市長 本宮市の魅力を一言で表すなら、「バランスの取れた住みやすさ」でしょう。
前回も申し上げましたが、突出して良いところはありませんが、極端に悪いところもありません。自然環境と都市機能のバランス、交通の利便性と静かな生活環境のバランス、そして人と人とのつながりの適度な距離感。こういったバランスの良さが、多くの人にとっての「住みやすさ」につながっているのだと思います。
出典:本宮市移住定住ポータルサイト「みやもとぐらし」
また、四季の変化がはっきりしていて、自然の美しさを楽しむことができます。川が流れ、山があり、どこに行くにも便利な立地。人々は優しく、温かい雰囲気があります。刺激は少ないかもしれませんが、穏やかで充実した生活を送りたい方には最適な環境だと自負しています。
小田 最後に、本宮市の魅力を発信する上で大切にしていることはありますか?
高松市長 まず大切なのは、私たち自身が本宮市の良さを再認識し、楽しみながら生活することです。自分たちが楽しくなければ、他の人を引きつけることはできません。その上で、Webサイトや移住体験などさまざまな手段を使って情報を発信していきます。最も大切なのは、市民の皆さんが「本宮市に住んでいて良かった」と実感できるまちづくりを進めることです。その実感が自然な形で外に伝わり、新たな人々を引きつける力になると信じています。
小田 高松市長、長時間にわたり貴重なお話をありがとうございました。
高松市長 こちらこそ、ありがとうございました。
【編集後記】
本宮市の人口推移を見ると、15年から20年にかけてわずかな減少傾向にありますが、社会動態では転入超過を維持しています。特に注目すべきは、本宮市ふるさと暮らし体験住宅「和暮和暮」の高い稼働率です。この施設は移住検討者に本宮市の魅力を体感する機会を提供し、実際の移住につながっています。
高松市長が強調する「バランスの取れた住みやすさ」は、「住みよさランキング」で福島県内No.1を12回獲得していることからも裏付けられています。一方で、自然動態の課題や都市部からの移住者への交通手段確保など、直面する問題にも正面から向き合っています。
「楽しみながら悪あがき」という高松市長の姿勢は、厳しい状況下でも前向きにまちづくりに取り組む原動力となっており、本宮市の持続可能な発展に向けた取り組みの基盤となっています。今後の本宮市の展開は、引き続き注目されることでしょう。
※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年12月2日号
【プロフィール】
高松 義行(たかまつ・ぎぎょう)
1954年生まれ。大正大仏教学部卒。
1995年から旧本宮町議を3期、2007年から本宮市議を2期務める。
11年1月の市長選で初当選。現在4期目。