ワクチン接種の予約システム、東京の民間企業と開発 ~堀江和博・滋賀県日野町長インタビュー(2)~

堀江和博・滋賀県日野町長
(聞き手)株式会社Public dots & Company

 

2021/11/2  ワクチン接種の予約システム、東京の民間企業と開発 ~堀江和博・滋賀県日野町長インタビュー(1)~
2021/11/5  ワクチン接種の予約システム、東京の民間企業と開発 ~堀江和博・滋賀県日野町長インタビュー(2)~
2021/11/9  組織の心理的安全性の上に成り立つ挑戦 ~堀江和博・滋賀県日野町長インタビュー(3)~
2021/11/12   組織の心理的安全性の上に成り立つ挑戦 ~堀江和博・滋賀県日野町長インタビュー(4)~

誰が課題を解決するか? は手段

PdC 以前、全国の公務員向けに官民共創に対するアンケートを行ったことがあります(アンケート結果は「官民共創に関する自治体意識調査2021〜熱意と推進力の差が生まれる要因とは〜」として公表。こちらのURLよりダウンロード可 https://www.publicdots.com/documents/)。

そこで明らかになったのが、「思いはあるものの、官民共創をどう進めていいのか分からない」という声の多さでした。特に小規模な自治体ほどです。

もちろん、全国1700の自治体がすべて官民共創をせねばならないという話ではないにせよ、改めて生の声を目にすると、悩んでいる自治体職員の方は多いのだと感じました。

堀江町長 今のお話を一段、視点を上げて考えると、重要なのは課題解決にフォーカスすることです。誰が課題を解決するか? というのは手段の話になります。

公務員の方が課題を解決するに当たり、必ずしも公務員組織を使わなければならないわけではありません。役所を介さずに、ボランティア(住民という立場)やNPO(民間組織という立場)から課題解決にアプローチすることもできます。もちろん、公務員の副業に関しては制限が強いですが、営利目的でなければ参画はできます。

そういう広い視点を持てるかどうかは重要だと思います。

町の総合計画を旗印に

PdC 今回、日野町では堀江町長の指揮の下、東京の民間企業と新型コロナワクチン接種のウェブ予約システムを共同開発されました。このような官民共創の姿は全国的に見てもレアケースです。

きっと日野町の職員の方にとって、初めての体験が多かったと思うのですが、現場での戸惑いはありましたか?

堀江町長 職員の皆さんには頑張っていただきました。皆さん、行政のプロですから、元々の能力自体も適応力も高いです。それはどこの自治体も同じだと思います。ですから、何か新しいことに適応する力はどの自治体にもすでに備わっていて、あとはやるか、やらないかの問題だと思います。

 

PdC 民間企業との協業で、堀江町長ご自身に何か気付きはありましたか?

堀江町長 やはり、餅は餅屋だなと感じました。特にシステム設計の部分に関しては、われわれは専門外です。いろいろとお話を伺ってみると、こちらが仕様を細かく指定して一方的に発注したところで、良いものはできないだろうと思いました。ですから、こちらの希望と民間企業の方の専門的なご提案を丁寧に擦り合わせるような形でつくりました。

その結果、使いやすく抜け漏れのないシステムに仕上がりましたから、民間の方の力を最大限生かすことは、行政にとって非常にありがたいことだという気付きがありました。

 

PdC 今回のワクチン接種予約システム開発の裏側を深掘りするという意味で、あえての質問をします。

このプロジェクトに携わった職員の方の工数は、イレギュラーですよね。本来の業務の外で行われた作業について、皆さん、どのように捉えているのですか?単に業務量が増えたと捉えるのか、それとも新しいことに挑戦していると捉えるのか。この差は結構大きい気がするのですが。

堀江町長 もちろん、私が知らないところで苦労していただいた面はあると思います。そこは本当に感謝しています。

少し視点を変えて日野町職員としての姿勢という点でお話をすると、町の総合計画(第6次日野町総合計画=2021年6月16日に発表され、21年度から30年度までの10年間におけるまちづくりの指針が記載されている)の中にポイントがあります。

この計画は、私が就任する以前から住民の方も交えて作っていたものですが、テーマは「持続可能性」と「多様性」と「共創」です。「時代の変化に対応し だれもが輝き ともに創るまち〝日野〟」という文言を先頭に掲げており、共創することが大前提だと示しているのです。

 

日野町総合計画の表紙(出典:日野町Webサイト)

 

コロナ禍や人口減少など時代の変化に柔軟に対応しながら、どんな方でも暮らしやすく、住民、企業、NPO、行政が垣根を越えて共に持続可能な町をつくる。こういったことを、私が言うまでもなく住民の皆さんが紡ぎ出してくださいました。

われわれはこの総合計画を基に政策を進めなければならないのです。ですから常に職員の皆さんにはこの方針を伝えています。

ただし、共創の名の下に何にでも手を着けてしまうと業務がパンクします。ですから担当課の意見は最大限尊重しますし、私自身も一つ一つの取り組みに対し、「それは実施する意義があるのか?」と問うようにしています。

その上で意義があるものに関しては、しっかりとこちらの思いを職員の方に伝え、実施するようにしています。

 

PdC 職員の皆さんとは、日野町総合計画という町の理念を共有しているのですね。

そういえば最近の出来事なのですが、とある自治体職員の方から「日野町はなぜ、あんなに官民共創が進んだのか?」という質問を受けました。恐らく、どのようにして情報をつかんだのか?という意味と、情報をつかんだ一担当職員がそれをどのようにしてトップに上げたのか? という二つの意味が込められた質問だと思います。

堀江町長 意見や情報の通りやすさについては、組織風土が大きく影響しますよね。

日野町の場合は、私が副町長や課長などと組織としての理想像を共有していることが大きいと思います。理想は、職員の皆さんからどんどんアイデアが上がってくることだと伝えています。特に若い世代の職員の方は、官民共創のような企画系のプロジェクトに対して「楽しそう」という感覚をきっと持つと思います。

その純粋な感覚を素直にトップに上げられる組織風土をつくろうと、日々意識していますね。

 

PdC ここまで堀江町長のお話を伺っていて感じたのが、真の目的を見定める力と、発想の柔軟性です。特に「重要なのは課題解決にフォーカスすることであって、誰が課題を解決するかは手段」という言葉にハッとしました。

昨今は官民連携や共創といったワードが注目される傾向がありますが、それも手段の話です。行政と民間企業がただ単純に手を取り合えばよいということではなく、誰がどんな立場で何に関われば課題が解決するのか?目的にフォーカスしながら逆算し、適切な座組み(メンバー構成)をデザインすることこそが重要です。

そして、一つの目的達成に向かってあらゆる立場の人たちが集うのであれば、そこに必要なのは指針です。つまり、共通のビジョンということですね。

日野町の場合は、総合計画が町民全員のビジョンを具現化したものであり、それを日々、堀江町長が職員の皆さんに伝え続けることで、庁内に一体感をもたらしているのだと感じました。

次回からでは、新型コロナワクチン接種のウェブ予約システムに対する町民の方々の反応や、変化に柔軟に対応するための組織風土のつくり方について、さらに詳しく伺います。

 

第3回に続く


【プロフィール】

堀江 和博(ほりえ・かずひろ)
滋賀県日野町長

1984年生まれ。滋賀県出身。立命館大卒業、京都大公共政策大学院修了。民間企業、町議を経て2020年7月に第6代日野町長に就任(県内最年少首長)。住民、企業、NPOなどとの共創関係を築き、新しい発想で課題にアプローチしている。

スポンサーエリア
おすすめの記事