官民のルールを知り尽くした先に挑む事業展開 ~元佐賀県武雄市長、現樋渡社中Founder & CEO・樋渡啓祐氏インタビュー(3)~

元佐賀県武雄市長、現樋渡社中Founder & CEO 樋渡啓祐
(聞き手)Public dots & Company 代表取締役/官民共創未来コンソーシアム代表理事 小田理恵子

 

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2022/05/20 首長のセカンドキャリアとは ~元佐賀県武雄市長、現樋渡社中Founder & CEO・樋渡啓祐氏インタビュー(2)~
2022/05/24 官民のルールを知り尽くした先に挑む事業展開 ~元佐賀県武雄市長、現樋渡社中Founder & CEO・樋渡啓祐氏インタビュー(3)~
2022/05/27 官民のルールを知り尽くした先に挑む事業展開 ~元佐賀県武雄市長、現樋渡社中Founder & CEO・樋渡啓祐氏インタビュー(4)~

 


 

第1回第2回に引き続き、元佐賀県武雄市長の樋渡啓祐氏(現・樋渡社中株式会社代表取締役)のインタビューをお届けします。

当時全国最年少の36歳で市長に就任し、武雄市図書館(通称・TSUTAYA図書館)の改革など、従来の枠組みにとらわれない大胆な施策を推し進めた樋渡氏。しかし2015年の佐賀県知事選に落選したことで、キャリアは一変します。前回までは、首長から民間企業の経営者に転身し、事業を軌道に乗せるまでの試行錯誤や、その中で発見した「勝ちパターン」をめぐるエピソードが非常に印象的でした。

今回は、経営者として7年を過ごした現時点で考える「樋渡流」の理想のキャリアや、在るべき地方自治体の姿について伺います。(聞き手=Public dots & Company 代表取締役/一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

ようやくスタートラインに

 

小田 これまでのお話を伺っていると、既存の官民のルールを知り尽くした上で、その先の事業展開に挑まれているとの印象を受けました。やはり首長のご経験があるからでしょうか?

樋渡氏 おっしゃる通り、僕は法令や政令、制度に関しては一通り頭の中に入っており、既存の枠組みの「キワ」を攻めています。

 

小田 法令や政令、制度を知り尽くしているからこそ、「キワ」が攻められるわけですね?

樋渡氏 その通りです。制度の外側の話をしたり、思い付きの提案をしたりしても役所は動きませんから。

今は民間出身の首長も多いと思いますが、一つ助言をするとしたら、副市長には法律や条例、制度に精通した人材を置くことです。僕が武雄市長を務めていたときの副市長は、法令に詳しい上に地元の声もよく知っていましたから、とても助かりました。しかも部屋が一緒でしたから、「市長派」「副市長派」のような派閥もできませんでした。

きょう同席している秘書とも同じような環境で仕事をしており、ほとんど同じ空間にいます。ただし、公共交通機関に乗る際は離れた席を予約されるのですが。でも彼とはとても好ましい関係を築けていると思っています。距離が近過ぎると、悪いところに目がいきがちになりますからね。秘書のことは信頼も尊敬もしています。

 

小田 佐賀県知事選に敗れた後に唯一残ってくれた関係者が、今の秘書さんですね?

樋渡氏 そうです。彼はビジネス感覚が非常に優れているので、僕にたくさん助言してくれます。事業の整理も随分とやってくれました。

僕は起業した当初、ビジネスのアドバイスをできるものが何もなかったので、ひたすら相談に来た方のお話を伺っていました。そうしていくうちに何をしたら成功し、何をしたら失敗するのか、傾向が分かるようになりました。その間、7年です。失敗もたくさんしましたが、「聞く力」が身に付いたのかもしれません。

やはり何かの感覚をつかめるようになるためには時間が必要です。僕自身は役人を12年、首長を9年、経営者を7年経験しました。場数を踏むことは本当に大事です。最近ようやくスタートラインに立てたと思っています。

 

小田 樋渡さんのように国や地方のルールだけでなく、民間取引についても知見のある方は珍しいですよね?

樋渡氏 そういう人たちが今後どんどん出てくればいいと思っています。そういう意味では、首長や議員にチャレンジするには早い方がよいのです。

僕は36歳のときに当時の全国最年少市長として武雄市長に就任しました。それから46歳で知事選に落選し、民間のキャリアがスタートしました。一般的に民間のスタートが46歳というのは少し遅いですよね。しかし、違う世界で経験を積んだ上でのスタートという意味では十分に早い。

人生100年時代といわれますが、体力面なども考えると40代、遅くても50代のスタートが望ましいというのが実感です。

 

小田 官僚や首長を務める方は、早いうちに新しい分野の経験を積んだ方がいいということですね?

樋渡氏 そうです。だから僕自身が「選挙に負けてもセカンドキャリアとして、こういう枠組みがあるよ」と提示していきたいのです。それが今の役割だと思っています。

 

小田 政治家のセカンドキャリアもそうですが、チャレンジするすべての人たちに対し、きちんとセーフティーネットをつくるべきだと思います。それが充実していれば、もっとたくさんの人がチャレンジできるはずです。

樋渡氏 そうですね。人材の循環型社会をつくりたいですよね。

 

誰もが応用できる事業スキームづくり

小田 今後はどのような事業展開を予定しているのですか?

樋渡氏 基本的には、自治体も民間企業も応用できるようなスキーム(枠組み)をつくろうと思っています。

具体的には、新型コロナウイルスワクチンを手掛けようとしています。自治体が製薬会社からワクチンを直接購入できるようにしたいと思っています。国から配布されるのを待っていては時間がかかりますし、数も足りませんから。もちろん自治体の財政状況も理解していますから、国の地方創生臨時交付金で買えるようなスキームをつくっています。

 

小田 この話もオープンにしてよいのでしょうか?

樋渡氏 大丈夫です。具体的には、自治体がワクチンの種類を選べるようにしたいと思っています。米ファイザー社製に米モデルナ社製、もう少ししたら米ジョンソン・エンド・ジョンソン社製も認可されますが、それらを自治体が自由に選べる形です。僕はそのプラットフォームをつくりたいと考えています。

プラットフォームとしてきちんと機能させるためには多くの人たちの参加が必要です。ですから、自治体の方には積極的に参加していただきたいと思っています。

各製薬会社には、備蓄型のワクチンを提供するよう交渉します。少なくとも1年以上、できれば2年以上の保存が利くようなワクチンです。新型コロナはいつ波が来るか分かりませんから、いざというときに備蓄されたワクチンを速やかに接種できるような体制を整えたいのです。

 

小田 素晴らしい構想です。他の分野にも応用できますね?

樋渡氏 僕は日本史が好きなのであえてそれで例えますと、幕末時代に長州藩や薩摩藩が列強から武器を直接買っていた様子に似ています。

住民を守るために自治体や僕たちがワクチンをつくることはできませんが、良いものがあるならば、それが海外のものであっても直接買うという考え方です。ただし幕末と違うのは、地方創生臨時交付金を使って国が支払うスキームにすることです。

これまで日本では地方創生や地方分権が叫ばれてきましたが、大きな達成はいまだに得られていないと感じています。それは恐らく「成功の型」がなかったからではないでしょうか。僕がこれからつくろうとしているのは、その「型」の一つです。

ただし、このプラットフォームが最終形だとは全く思っていません。むしろスタートです。まずはスタートを切ってみて、それからどう改善していくかの方に重きを置いた方がいいと思います。

 

第4回に続く

 


【プロフィール】

元佐賀県武雄市長、現樋渡社中Founder & CEO・樋渡 啓祐(ひわたし けいすけ)

1969年佐賀県武雄市生まれ。93年総務庁(現総務省)に入り、大阪府高槻市市長公室長などを経て、2005年退職。06年、当時全国最年少の36歳で武雄市長に就任。3期目の途中に辞任し、15年1月の佐賀県知事選に出馬するも落選。現在は樋渡社中株式会社代表取締役として、まちづくり支援などを手がける。

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