首長のセカンドキャリアとは ~元佐賀県武雄市長、現樋渡社中Founder & CEO・樋渡啓祐氏インタビュー(2)~

元佐賀県武雄市長、現樋渡社中Founder & CEO 樋渡啓祐
(聞き手)Public dots & Company 代表取締役/官民共創未来コンソーシアム代表理事 小田理恵子

 

2022/05/18 首長のセカンドキャリアとは ~元佐賀県武雄市長、現樋渡社中Founder & CEO・樋渡啓祐氏インタビュー(1)~
2022/05/20 首長のセカンドキャリアとは ~元佐賀県武雄市長、現樋渡社中Founder & CEO・樋渡啓祐氏インタビュー(2)~
2022/05/24 官民のルールを知り尽くした先に挑む事業展開 ~元佐賀県武雄市長、現樋渡社中Founder & CEO・樋渡啓祐氏インタビュー(3)~
2022/05/27 官民のルールを知り尽くした先に挑む事業展開 ~元佐賀県武雄市長、現樋渡社中Founder & CEO・樋渡啓祐氏インタビュー(4)~

得意分野を生かす

小田 ご自身の得意分野に集中するようになったとのことですが、これまで具体的にどんな取り組みをされてきたのですか?

樋渡氏 20年春に、愛知県の高校が新型コロナウイルス禍で一斉休校になったことがありました。その際、子どもたちの学びの機会が失われるから何とかならないか、という話になりました。僕は当時、愛知県に人脈はありませんでしたが、「スタディサプリ」(小中学生や高校生向けに、プロ講師の授業動画を配信するオンライン学習サービス)を提供する株式会社リクルートの方とのつながりは持っていました。だから、スタディサプリを県が購入し、無償で子どもたちに配れば課題が一気に解決すると考えました。

何とか愛知県と直接やりとりができないかと探っていたところ、この状態は非常にまずいと思った愛知県議の一人と僕の間に共通の知人がいることが分かりました。その知人経由で議員の方とつながり、教育委員会、そして何と愛知県知事ともつながってスタディサプリの導入に至りました。約14万人の子どもたちに学びの機会が提供できたんです。

このとき、僕の会社は行政から全く報酬を頂いていません。行政からお金を1円も頂かないのは僕のポリシーです。リクルートからスタディサプリの導入アカウント数に応じた手数料を頂きました。要するに「B to G」(行政とのビジネス)を仲介し、民間企業からお金を頂いたわけです。この「型」が僕にとって一つの勝ちパターンだと思いました。この件は実際に利用した愛知県の高校生や、その親御さんにとても喜んでいただきました。社会問題を一つ解決できたと感じ、うれしかったですね。

 

樋渡啓祐インタビュー
オンラインインタビューでこれまでの活動について話す樋渡氏

 

小田 「成功の型」をオープンにすることについて、特に抵抗はないのですか?

樋渡氏 全くないです。僕は武雄市長時代から「誰が代わりに実行しても応用可能」な形を貫いています。武雄市民病院は民間移譲(民営化)、武雄市図書館は指定管理者制度という手法を使っただけです。リクルートと自治体をつなぐプロセスもオープンで行いましたし、何か問い合わせがあれば惜しみなくノウハウを提供しています。

 

小田 他の事例も教えていただけますか?

樋渡氏 新型コロナの抗原検査キットの件をお話しします。僕の知人に東京大医学部を卒業した医師がいるのですが、彼からこんな話を聞いたんです。「通常のPCR検査は結果が出るまでに時間がかかるが、抗原検査であれば結果がすぐに分かる。米国製の抗原検査キットで精度の高いものがあるのだが、これを国内に導入できないか」という内容でした。

抗原検査キットは薬ではないので、広く一般の方も手にすることができれば感染症防止対策として有効です。しかし通常の薬事承認の手続きでは、医療機関の関係者しか取り扱いができません。そこで「治験枠」を医師と共に考え付きました。治験枠で承認されれば一般の方にも販売できるからです。ところが、いざ薬事承認を取ろうということになった段階で「海外製のものは先例がない」として、手続きが難航しました。いわゆる「役所の論理」ですね。でも何とか薬事承認を通して、国内に導入させることができました。

では、そこからどうやって一般に広めていくのかという話になったとき、自治体に購入してもらおうと考えました。一般の皆さんが購入するにはハードルがある。ただし、今はどこの自治体も財政難です。そこで思い付いたのが、国の地方創生臨時交付金を使うことでした。街中にモニュメントを作るよりも断然に良いお金の使い方ですよね。

幾つかの自治体にそのような提案をする中で、富山県南砺市長がチャレンジしてくださり、実際に抗原検査の名目で交付金が得られました。そういう意味では自治体に全く負担を掛けていないのです。その後、大阪府東大阪市や奈良市なども導入してくださったので、合計すると55万本くらいでしょうか。医療機関以外で抗原検査キットを国内に流通させることができました。

私がその先鞭をつけましたが、抗原検査キットと自治体の「組み合わせ」と言えるのかもしれません。「社会問題を解決したい」という素朴な思いで抗原検査キットの普及を進めることで、多くの皆さんの命を救ってくれたと自治体の担当者から言われ、本当にうれしかったことを覚えています。

繰り返しになりますが、いかにうまく組み合わせるかです。それが結果的にイノベーション(革新)となり、世の中が受け入れてくれるという構図ですね。これからは自分がつくったモデルを世の中に出していく作業をしたいと考えています。

 

禍福はあざなえる縄のごとし

樋渡啓祐・小田理恵子
インタビューは終始軽快なテンポで進んだ。

 

小田 樋渡さんの中で、成功する秘訣というものはあるのでしょうか?

樋渡氏 「TTP」です。成功事例を「徹底的にパクる」ですね。この考え方は、僕が大学生時代にNHK受信料を集金するアルバイトをしていたときに身に付けました。最初は断られて全く集金できなかったのですが、先輩の一人にとてつもなく結果を出す方がいたので、その方にひたすら付いて回り、どんどんまねしました。そうしたら、1カ月に数百万円の集金ができるようになったんです。これもいわゆる「型」ですね。

ただし僕の場合、成功したら次は大体失敗するというパターンがあります。武雄市長時代に実績を出したと思ったら県知事選で落選する。そこから講演でV字回復したと思ったら、投資で失敗する。今は「組み合わせ」「B to G」でかなり上り調子に来ているので、次はどんな失敗がやってくるのか、実はドキドキしています。

 

小田 「人間万事塞翁が馬」ですね。

樋渡氏 まさに「禍福はあざなえる縄のごとし」です。物事は順番にやってくるので、自分が死を迎えるときにプラスマイナスゼロになっていればいいと思っています。そう思うと、昔よりだいぶ謙虚になった気がしますね。

 

小田 第1回題2回のインタビューからは、樋渡さんのセカンドキャリアにおける試行錯誤の数々と、そこから得た気付きを具体的に知ることができました。次回からは、樋渡さんの今後の事業展開や、これまでのキャリアを振り返って感じる自治体運営の在り方などを伺います。

 

第3回に続く

 


【プロフィール】

元佐賀県武雄市長、現樋渡社中Founder & CEO・樋渡 啓祐(ひわたし けいすけ)

1969年佐賀県武雄市生まれ。93年総務庁(現総務省)に入り、大阪府高槻市市長公室長などを経て、2005年退職。06年、当時全国最年少の36歳で武雄市長に就任。3期目の途中に辞任し、15年1月の佐賀県知事選に出馬するも落選。現在は樋渡社中株式会社代表取締役として、まちづくり支援などを手がける。

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