アフターコロナ深圳レポート(3)~社会生活消費面でのデジタル化~

日本の隣国であり、長く相互交流を続けてきた中国。今回の新型コロナウィルス騒動は武漢が発生源と考えられています。中国は今回の騒動においては最初の被害国であり、結果として社会全体の潮流や方向性に大きな影響を与えることになりました。

その中で近年注目を浴びてきた中国のイノベーションがいかに国際社会に影響を与えるに至ったかをレポートさせていただきます。

FIND ASIA華南地区責任者
スタートアップサラダ(Startup Salad)日本市場オーガナイザー

加藤 勇樹(余樹)

中国におけるEC市場

新型コロナウィルス騒動によって、物理的に制限のある中でも、多くの点で社会生活は営みを続けていきます。衣食住はもちろんのこと、人々には娯楽等が必要であり、元来中国の消費市場におけるデジタライゼーションの規模は耳目に値するものでした。特にEC、インターネット販売の規模においては、世界最大を誇っており、日本はもとより2位のアメリカに大きく差をつけています。従来の小売店舗での消費金額の増加よりも、オンラインでの消費金額増加率が上回っており、体験型消費であるコンテンツ産業などにおいても同様の傾向がみられていました。

中国EC年度別売上、FIND ASIA作成、中国电商研究所のデータより作成

EC市場の第二次成長期

今回の新型コロナウィルス騒動では、従来の電子化されていない消費活動‐オフラインでの消費から、オンライン消費へのより一層の移転が進むことになりました。2009年には80%以上の成長率を誇っていたEC産業は、 2019年には成長率が20%ほどに数字が落ち込んでいましたが、2020年1月‐3月末のEC消費額は2019年度の同時期の4倍に激増しました。特に鮮度の問題や消費者が自身で目利きをしていた生鮮食品において消費額が伸びています。必要に駆られた結果、今までECを利用していなかった層もサービスを利用するようになり、「多点」をはじめとするECアプリのダウンロード者数も3倍に増加しています。

2019年2月と2020年2月の生鮮食品EC利用者数の変化、个推大数据より引用

中国内で見られる日常風景。出前事業を行う宅配会社が、小売店や飲食店から商品を受け取り、消費者へ届ける光景。FIND ASIA撮影

ECサービスの需要増に伴い、従来の店舗や配送サービスにも変化が現れたようです。中国国内のEC業界ではこれまで、新型コロナウィルス騒動前からの物流量の増加による現場への負担や、消費者側への配送時間の増加をいかに短縮するかという課題を抱えていました。

中国ではこの課題を、「小売店の倉庫能力機能の追加」という方法で解決しました。小売店などに保管機能を設けることや、消費者がアプリなどを通じて受け取れるようにした結果、配送上の効率化が進んだのです。それが今回の新型コロナウィルス騒動によって、より一層浸透することになりました。

FIND ASIA作成、近年注目を浴びた新小売りの盒马鲜生等も同様の配送モデルである

デジタライゼーションによって店舗運営等が効率化したことから可能になったことといえます。また感染防止の観点から、個人宅への配送が難しくなった一方、住宅地の宅配BOXなどを中心に受け取り環境が整備されたことも、一層のサービス改善につながりました。

もちろんこの改善には、宅配BOXの設置や物流にかかわる人員の手配といったハード面、つまりオフラインでの取り組みも重要です。オンラインで集めた情報を最適化し、オフラインの物流業務を支える。消費者に最適なサービスを提供することができるようになったデジタライゼーションの一例といえるでしょう。

サービス形式の変化とデジタライゼーションの複合化の試み

体験型のコンテンツ産業や、多くの産業やビジネスも今後のデジタル化への目標を掲げています。対面販売が顕著な例といえます。自動車販売や高級家具販売では従来、消費者が店舗に足を運ぶことで商品を理解し、購入するのがビジネスモデルでした。今回、多くの消費者が実店舗に来店できなくなったため、店舗側が始めた取り組みは「オンライン中継による販売」です。販売員が店舗にて商品の説明や使い勝手を実況中継し、視聴者である消費者からの質問や要望にその場で対応するという、臨場感を持った販売方法が試みられています。このビジネスモデルは、従来のネットアイドルによるマーケテイングや販売で培われたノウハウが実装されており、オンラインビジネスの新たな拡大例といえるでしょう。また今後は展示会のデジタル化も想定されており、20万人の視察者が訪れる中国最大の貿易博覧会、「広州交易会」も完全にオンラインで行うことが目標になっています。

ユーザー目線のサービス改善に向けて

中国国内の熾烈な競争と、外資規制によって中国のデジタル産業が発達したのは事実ですが、日本を上回る規模で進化を遂げているのは間違いありません。今後は規模だけではなく、消費者目線でのサービスの改善と、さらなる応用や異業種との組み合わせが生まれつつあります。「生活サービスの改善」という本質を見据えた先に、日本でも同様の進化がアフターコロナの時代に誕生するかもしれません。


筆者プロフィール
加藤 勇樹(余樹)
FIND ASIA華南地区責任者 、スタートアップサラダ(Startup Salad)日本市場オーガナイザー
2015年より「FIND ASIA」にて、広州・深セン・香港で人材紹介‐企業へのコンサルタントサービスを展開。17年よりFIND ASIAにて中国・大湾区の動向や、イノベーションアクセラレーター「スタートアップサラダ‐Startup Salad」との協業で活躍中

スポンサーエリア
おすすめの記事