【自治体DX(1)】自治体経営でも看過できないデジタル変革の波

デジタルファースト法の制定、Society5.0の推進など、テクノロジーに係る政府の取り組みが活発化しています。この影響を受け、自治体でもさまざまなテクノロジーを活用した取り組みを先進的に行うところが増えてきました。これらのアナログからデジタルへのシフトをデジタル変革(DX)という言葉で表すことも増えています。


一方で、テクノロジーについての話は、人工知能(AI)やブロックチェーンなどの個別技術の話から、スマートシティーなどの大局的な街づくりの話まで多岐にわたるため、行政関係者の理解が追い付いていない部分も見られます。


この連載では、住民目線に立った自治体のデジタル変革の意義、課題そして展望について、民間の事例にも触れながら、述べていきたいと思います。

デジタル変革の意義

デジタル変革とは、英語のDigital Transformationのことであり、DXと略されたりしています。「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念であり、国外では2000年代前半から提唱されるようになってきました。日本でも民間部門では一般的に使用される頻度が高くなってきた用語です。

デジタル変革が叫ばれる背景

デジタル変革が叫ばれる背景には、急激に発展するテクノロジーがあります。以下で、その背景をより詳細にご説明します。

最初の背景は、テクノロジーの利用コストの劇的な低下です。例えば、私たちが使うようになったスマートフォンは、2030年前のスーパーコンピューターと同程度の演算処理能力を有しているといわれています。その当時数十億円はしたであろう物を、現代では数万円で手に入れることができるようになりました。このコストの低下は急激に生じています。以前は、ちょっとしたシステムを導入するためにも、大手のベンダー企業に高いコストを支払わなければなりませんでした。


次の背景は、テクノロジーの利用しやすさの劇的な向上です。テクノロジーは人々が利用しやすい形に転換されて、初めて世の中に普及します。特にスマートフォンやタブレットは、ユーザーインターフェースが直感的に操作できるように設計されているため、さまざまな複雑なテクノロジーが身近になりました。さらに、音声による認識も普及し始めており、テクノロジーを活用するための障壁は年々低くなっています。以前は、テクノロジーを扱うためには専門人材が必要でした。


最後の背景は、テクノロジーの選択肢の劇的な増加です。生活や仕事のさまざまな機能が、テクノロジーに代替され始めています。例えば「移動」という機能は、以前であれば自家用車か公共交通機関にしかありませんでしたが、現在はテクノロジーを活用したカーシェア、ライドシェアサービスがその機能を代替し始めています。以前は、既存の社会資源の中でしかサービスを選択することができませんでした。


このように、テクノロジーの利用コストの低下、利用しやすさの向上、選択肢の増加が同時多発的かつ急速に起こっていることが、テクノロジーの活用が声高に叫ばれている背景にあります。

民間企業におけるデジタル変革の必要性

デジタル変革の必要性は民間部門で生じました。デジタル変革をしなければ、厳しい企業間競争で生き残ることが難しくなってきたためです。例えば、20199月末時点での世界の時価総額上位10社のうち、7社はアマゾン、アルファベット(グーグル)、フェイスブック、アリババ、テンセントといった米国、中国のデジタルネーティブ企業またはマイクロソフト、アップルといったデジタル変革の成功企業で占められています。


一方で、30年前のバブル経済全盛期に、世界の時価総額ランキングの半数以上を占めた日本企業は、トヨタ自動車がかろうじて40番台に位置するだけです。これは、日本でデジタルネーティブ企業が大きく育っていないか、既存の企業のデジタル変革が遅れていることの表れでもあります。


特に近年はデジタルネーティブ企業が、既存の企業を脅かすようになってきており、時には非デジタルネーティブ企業を破綻に追い込むまでになっています。例えば、ライドシェア大手のUber(ウーバー)などの登場によって、競争が激化し、米サンフランシスコの大手タクシー会社が破綻に追い込まれました。このようなデジタルネーティブ企業と非デジタルネーティブ企業の競争が世界中のあらゆる地域で起こっており、日本も例外ではなくなってきました。つまり、デジタル変革が企業存亡の必須条件に変わりつつあることの表れです。


従って、2010年代から、デジタル変革を推進するCDOChief Digital Officer)という役職を設置する企業が国外では増え始め、近年は日本でもその動きが顕著になってきています。

 

次回は、自治体におけるデジタル変革の必要性と課題についてご説明します。

 

デジタルネーティブ企業とは創業期から企業価値の創出のためにデジタル技術を前提として用いる企業のことであり、デジタル変革の成功企業は事後的にデジタル技術を前提として用いるようになった企業です。

 

 

(株式会社Public dots & Company取締役(介護福祉士)福島県磐梯町CDO(最高デジタル責任者)一般社団法人Publitech代表理事・菅原直敏)

 

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