情報の連携や活用で住民福祉の増進を(後編)

情報の連携や活用で住民福祉の増進を
自治体にもCRMの視点を取り入れた施策の実施が必要

大阪府枚方市議会議員
木村 亮太

2020/11/11 情報の連携や活用で住民福祉の増進を(前編)
2020/11/12 情報の連携や活用で住民福祉の増進を(後編)


個人情報の取り扱いには慎重に対応

こうした個人情報を連携させて取り扱うことに関して、抵抗感をお持ちの方もおられると思います。情報連携をすることで対応し切れなかった問題と情報連携をすることで生じる問題のどちらもありますので、情報連携することで得られるメリットを最大化しつつ、デメリットを最小化していく必要はあります。私としては、しっかりと個人情報の取り扱いには留意しつつも、住民福祉の向上、課題への早期支援の観点で情報は活用していっていただきたいと考えています。このような個人情報を取り扱う場合にはシステムのセキュリティーを堅牢にしておくことや、取り扱う職員の意識の徹底も重要です。前述の箕面市や尼崎市においても情報連携をしていくに当たり、個人情報の取り扱いについては慎重に対応しています。尼崎市については、学びと育ち研究所を実施する際、市役所の中に、副市長を委員長、教育長を副委員長とする「尼崎市学びと育ち研究所倫理委員会」を設置しています。この倫理委員会で、個人情報の取り扱いや研究の倫理性等の審議、研究の実施および研究者へのデータ提供の可否を決定しています。箕面市においては、「人の心身、生活の保護又は支援を目的とした個人情報の収集目的外利用や外部提供」について、個人情報保護条例に基づき適切な情報連携ができるよう、2015年度に箕面市個人情報保護制度運営審議会に諮問し、条例の解釈で運用するのがいいのか、条例を改正するのがいいのかについて議論し、その結果、条例を改正することになりました。

情報の連携について国の考え

今後さらに施策の効果を高めていくためには、市町村などの基礎自治体が保有する公立小中学校の情報と、都道府県が保有する公立高校の情報を連携していくことなど、基礎自治体と広域自治体の保有している情報をシステム構築し、連携させていく必要があります。また同じ市町村でも、条例上は市長部局と教育委員会はそれぞれ別の実施機関という位置付けであり、二つの実施機関の情報を連携していく必要があります。本件に関しては、総務省が2017年5月19日に、オンライン上の情報の結合について通知を出しています。

個人情報保護条例の見直し等について(通知)」の一部を引用すると、

「個人情報保護条例におけるオンライン結合(通信回線を通じた電子計算機の結合をいう。)による個人情報の提供について、多くの地方公共団体では制限されているが、個人情報保護審議会等の意見を聴いた上で、公益上の必要があると認める場合などには、個人情報保護条例に基づきオンライン結合が認められている。一方、行政機関個人情報保護法では、オンライン結合を禁止しておらず、地方公共団体においても、ITの活用により行政サービスの向上や行政運営の効率化が図られていることから、オンライン結合制限については、行政機関個人情報保護法の趣旨を踏まえながら、その見直しを行うなど、各地方公共団体において適切に判断する必要がある」とあります。

そもそも自治体の個人情報保護条例では、情報の連携・結合は禁止となるように定めているところが多いです。そして、情報の連携・結合をするに当たってはその都度、個人情報保護審議会で諮問して許可を得る形になっています。そうした自治体の前提を踏まえて、この通知は、国の法律である行政機関個人情報保護法ではオンライン結合について禁止していないので、国の法律もベースに自治体でも条例を見直してはどうか、という内容です。もちろん、国が保有する個人情報と自治体が保有する個人情報には性質が違うものもあり、直ちに国の言う通りに条例を改正できるかどうかという問題はありますが、こうした国からの通知も踏まえて、各自治体としても住民福祉の向上という視点から個人情報保護条例の内容を再度審議する時期が来ていると感じます。

ビッグデータの活用も始まりつつある

また、余談になりますが、先述した総務省の通知は、個人情報保護法および行政機関個人情報保護法の改正に当たっての通知なのですが、この法律改正で「非識別加工情報提供制度」というものが始まりました。

非識別加工情報とは、特定の個人を識別することができないように個人情報を加工した情報です。もちろん、当該個人情報が復元できないようになっています。都道府県や市町村が保有している個人情報などを、この非識別加工情報に変換して、民間事業者に提供する制度を非識別加工情報提供制度といいます。企業の事業内容や情報の利用目的が(1)新たな産業(2)活力ある経済社会(3)豊かな市民生活の創出──のいずれかに該当する場合に限り、情報を提供することとなっています。

この制度に実際に取り組んでいる自治体はまだ少ないですが、事例として千葉県市川市が挙げられます(参考:「自治体ビッグデータ 千葉・市川市が民間に提供」日経新聞電子版より)。福祉関連の事業者向けに要介護者の心身の状態や介護度の推移を示すビッグデータを提供し、ケアプランの作成支援システムの開発を促すことなどが想定され、事業者側には1回の提供につき2万1000円とデータ人数分(1人1円)の料金の支払いを求めています。事業者からの提案書の内容は、介護サービス利用者の将来の介護費、医療費および要介護度を予測するための利用を目的とするものです。

ただし、この制度については、まだまだ手探りの状態です。市川市も2019年度に3社との契約を想定していましたが、実際は1社のみでした。報道によると、非識別加工にコストが掛かり過ぎることや、提供できるデータに限りがあることが課題となっており、企業が求めるデータを必ずしも市が持っているわけでもなく、企業側のニーズと合わないこともあるようです。ビッグデータの活用などもいわれ始めている時代で、まだまだ課題はありますが伸びしろのある分野だと考えています。

今後は教育・子育ての分野以外での活用も期待

個人情報の取り扱いというと、どうしても厳重に守るものという意識になりますが、もちろん取り扱いには十分意識しながらも、情報を活用することで住民福祉の向上につなげることができます。貧困状況にある子どもに対して、継続した支援をすることで貧困状況から脱することができているかどうかを調査することや、学力が低下傾向にある子どもに対して過去の学習状況を確認し、苦手分野をフォローしていくことなども考えられます。このように自治体が保有している住民の情報を分析し、民間企業が取り入れているCRMのような手法で住民福祉のさらなる向上を目指していくことが重要だと考えます。また、箕面市や尼崎市の取り組みはどちらも教育・子育て分野での活用事例となりましたが、この視点は高齢者の介護予防や健康寿命の延伸の分野や、住民の定住施策の分野でも取り入れていくべき考えであると思っています。

(おわり)


プロフィール
木村 亮太(きむら・りょうた)
大阪府枚方市議会議員
1984年大阪府枚方市生まれ、大阪大学経済学部を卒業し、ベンチャー企業に入社。2011年枚方市議会議員選挙に立候補しトップ当選。現在に至る。
2015年グロービス経営大学院 修了(経営学修士:MBA)
2018年京都大学大学院 公共政策教育部 公共政策専攻 修了(公共政策修士)
未来に責任を持った政治を掲げ、EBPM(証拠に基づく政策立案)、行財政改革、人事給与制度改革、教育子育ての充実、持続可能な社会保障制度の構築のために予防医療・介護予防、また、ICTを活用したまちづくりを提言している。

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