広島県三次市 福岡誠志市長インタビュー(5)生活を豊かにするスマートシティー構想、ボトムアップで実現へ

広島県三次市長 福岡誠志
(聞き手)株式会社Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴

2020/12/17  広島県三次市 福岡誠志市長インタビュー(1)
2020/12/19  広島県三次市 福岡誠志市長インタビュー(2)
2020/12/21  広島県三次市 福岡誠志市長インタビュー(3)
2020/12/23  広島県三次市 福岡誠志市長インタビュー(4)
2020/12/25  広島県三次市 福岡誠志市長インタビュー(5)


市民が感じる課題を解決するためのスマート化

伊藤 三次版スマートシティー構想では、三つの重点分野を定め、2年以内の導入を目指す具体的なプロジェクトを五つほど設定するそうですね。その3分野を決める際に、市民アンケート(2023年度までの第2次三次市総合計画の検証・見直しのために行ったもの)や商工会議所などとの意見交換の結果を加味するということでした。さらには来訪者目線、そして先ほどから話題にしている職員目線ですね。生意気な言い方になってしまいますが、この辺りが実に地に足の着いた考え方だなと感銘を受けました。DX自体を目的化してしまわない。現場で拾い集めた課題を、どう解決するのか考える上で、DXで効果が見込める事業でDXを推進していく。こうした意識を持つ自治体は、実は少ない気がします。

福岡市長 DXといっても、デジタル化そのものは目的ではないので、全てをデジタル化する必要はありません。デジタル技術はあくまでツールですので、一つの手段として取り入れ、必要なところで活用するだけのことです。人と人とが対面でやっていくのが最も効果的な政策もありますので、その仕分けはきちんとしたいと思っています。

伊藤 行政サービスの〝顧客〟である市民の目線で考えるべきだということですよね。

福岡市長 おっしゃる通りです。行政サービスを提供する上で、その受け手である市民の思いや感覚は最も重要だと考えます。市民の思い描く未来というものを、今後はそれこそデジタルツールなども使って把握しながら、市の政策形成に取り入れていきたいと思っています。

広島三次ワイナリー(ワインバーカウンター)
広島三次ワイナリー(ワインバーカウンター)

 

伊藤 お話を伺っていて、思い出したことがあります。米グーグルがスマートシティーのプロジェクトで失敗して(2020年5月、グーグルの親会社である米アルファベット傘下の米Sidewalk Labs〈サイドウオーク・ラボ〉がカナダ・トロントのスマートシティー開発事業から撤退した)、話題になりました。グーグルも1998年に創業した当初は、顧客の視点で事業を展開していたと思うんです。インターネットの先にユーザーの姿をしっかり見て、どうすれば使いやすいだろうと考えて、検索エンジンを提供していた。ところが、スマートシティーの開発では、〝顧客目線〟の考え方を失っていたのではないかという見方があります。「われわれの技術でスマートシティーをつくればこんなにも便利になる」という考え方に変わってしまった、と。今回の失敗は、その街に実際に暮らす人の姿を思い描けなかったことが原因ではないか、という分析をする専門家の声を聞いたことがあります。住民の課題を自分たちの技術でどう解決するかという視点があれば、もっと違ったアプローチになっていたのではないでしょうか。

福岡市長 グーグルでも、そんなことがあるんですね。興味深いです。三次も今は市民目線を第一にできていると思いますが、それが何年か経って感覚がマヒするようなことはあってはいけないなと思いました。たとえトップが代わったとしても、このDX事業や、地域に暮らす人の視点(を大事にする考え)、職員の意識などは維持していくべきものだろうと思います。私自身も、これからも現場に出向いて自分の目で見て肌で感じて、市民目線をさまざまな政策の判断基準にし続けたいと思います。

インタビューを終えて

非常に柔軟な方、というのがインタビューの感想です。「市政運営はトップダウン型が向いているものもあれば、ボトムアップ型が向くものもある」とか「改革は前任者の全否定ではない。残すべきところは残し、変えるべきところを変える」など。そんな福岡市長の下、職員参加のボトムアップ型で進む三次市のDX計画は地方都市の一つのひな形になるのではないでしょうか。2021年3月の発表が楽しみです。

(おわり)


【プロフィール】

福岡市長プロフィール写真

福岡誠志(ふくおか・さとし)
昭和50年生まれ。広島県三次市出身。
広島国際学院大学卒業、広島修道大学大学院法学研究科修了。
平成10年湧永製薬株式会社広島事務所入社。
平成13年の初当選以降、三次市議会議員を5期務める。
平成31年、三次市長に就任(1期目)。
その他、全国若手市議会議員の会副会長、(一社)三次青年会議所第62代理事長。

 

伊藤大貴(いとう・ひろたか)伊藤大貴プロフィール写真
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。

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