広島県三次市 福岡誠志市長インタビュー(2)スマートシティー構想の三次市、観光は近隣都市と広域で

広島県三次市長 福岡誠志
(聞き手)株式会社Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴

2020/12/17  広島県三次市 福岡誠志市長インタビュー(1)
2020/12/19  広島県三次市 福岡誠志市長インタビュー(2)
2020/12/21  広島県三次市 福岡誠志市長インタビュー(3)
2020/12/23  広島県三次市 福岡誠志市長インタビュー(4)
2020/12/25  広島県三次市 福岡誠志市長インタビュー(5)


観光は市域に限定せず「備北エリア」で勝負を

伊藤 三次市ではワインも生産されているとか。ワイン用のブドウは涼しい地域で栽培されるイメージがあったので、意外でした。

福岡市長 実は、三次の気候風土はブドウの栽培に適しているんです。東京へはまだあまり出荷できていませんが、「三次ピオーネ」という贈答品になるようなブランドブドウの生産も盛んです。収穫は7〜9月ごろで、今年はコロナ禍の影響を心配していましたが、例年通りに完売しました。

ワイン用のブドウも生産していて、市内にワインの醸造所(広島三次ワイナリー)もあります。ワイナリーは観光スポットにもなっていて、工場を見学したり、ワインを買ったり、バーベキューを楽しんだりできます。赤ワイン用の黒ブドウ品種のピノ・ノワールを使った白ワインの「白夜」など、ユニークな新商品も誕生していますよ。

広島三次ワイナリー
広島三次ワイナリー

 

また、三次には有名なチーズ工房(三良坂フロマージュ)もあって、国際コンクールで表彰を受けたり、日本航空の国際線ファーストクラスに採用されたりしているんです。

それから、地元の物産館やレストランでジビエ(狩猟で獲った野生鳥獣の肉)を提供しています。地域によっては野生のイノシシやシカによる農作物被害が年々ひどくなっているので、農家や住民の皆さんの安心・安全のために鳥獣を捕獲し、その肉を利用して名産品を開発しようという取り組みが始まっています。一方、養豚では「霧里ポーク」というブランド豚も誕生しました。また、三次産の和牛のブランド化にも取り組んでいるところです。

市が「みよしブランド」を認定する事業などの推進によって、三次ならではの商品を使って街の魅力を発信し、観光振興に結び付けていく考えです。

伊藤 お話を伺って、観光に結び付きやすいコンテンツがそろっていると感じました。ワインにチーズ、ジビエなら一緒に楽しみたい人が多いでしょうし、十分アピールできますよね。後は、いかにその情報を行き渡らせるかがポイントでしょうか。

福岡市長 おっしゃる通りで、情報発信とはいっても、発信する側と受け取る側で温度差があるのは否めないところです。シティープロモーションをどう強化していくかは課題ですね。情報発信のノウハウを、もっと研究する必要があります。

伊藤 観光に資するコンテンツは豊富なので、多くの人に情報を届けることができれば、遠方から単価の高い泊まり客を呼び込めそうです。

福岡市長 最近では宿泊ニーズの高まりを感じています。昨年あたりから三次盆地へ冬キャンプに訪れる人が増えて、どのキャンプ場も予約がなかなか取れない状況のようです。コロナ禍でキャンプ自体のニーズも増していて、オートキャンプ場のにぎわいは大きなうねりになってきました。

一方で、(市内には温泉宿や旅館、ビジネスホテルはあるものの、ラグジュアリーホテルなどがないため)今後は宿泊施設をいかに誘致するかといったことも課題です。

三次だけで観光を完結させようとすると、やや〝しんどい〟ところもありますので、備北(三次市・庄原市)エリアで広域連携を図っていくつもりです。備北でコンテンツをそろえて備北に泊まっていただくことで、エリアの観光消費額を増大させていけたらと思っています。

伊藤 いや、驚きました。確かに、観光は市町村が単体で考えるよりも、面を広く取って、(観光客の)滞在時間を長くした方がその圏域の自治体みんなが潤うだろうと思います。ただ、ありていに言えば、首長は地元の支持を得て選挙されるので、自身が首長を務める自治体以外も含めた広域連携でウィンウィンに、という発想にはなりにくいかと思っていました。

福岡市長 観光にしても、その他の行政にしても、広域で取り組んだ方が効率的であったり大きな効果が見込めたりする事業では、スケールメリットを出す取り組みを大事にしていきたいと思っています。

西隣の安芸高田市とは、基幹システムを共同化する協議を進めていて、間もなく協定を締結する予定です。東隣の庄原市とは「備北観光ネットワーク協議会」を共同で設立し、双方の観光協会が中心となって運営しています。主な活動内容は、観光情報誌の共同発行や「お酒ツーリズム」など両市にまたがる誘客イベントの実施です。

観光振興で新たな仕事を生み出すと同時に、備北エリアの魅力をたくさんの観光客に味わってもらうことで、三次市への移住を検討する人を少しでも増やす。それによって何とか定住人口が増えれば、という思いです。

伊藤 広域連携が効率的と分かっていても、現実には難しい側面があるものだと思うのですが、三次市と庄原市はとてもスムーズに連携できているようですね。

福岡市長 以前から他の業務で自然と連携していたので、観光でもすんなり連携できたのだと思います。例えば、両市は1970年代から共同で消防組合を組織しています。現在では、消防本部を統一し、三つの消防署と七つの出張所を配置し、広島県の約4分の1に当たる広大な面積をカバーしています。

自治体DXは進捗、RPA試験導入や職員リモートワークなど

伊藤 次回はスマートシティー構想について伺いますが、構想の策定に先行して、市の一部業務においてはデジタル化やICT(情報通信技術)の導入を進めてこられました。DXに関して、就任1年半のハイライトを挙げていただけますか?

福岡市長 就任して最初に取り掛かったのは、市の公式SNS(インターネット交流サイト)を立ち上げることでした。現在はフェイスブック、ツイッター、インスタグラム、LINE(ライン)、(動画投稿サイトの)ユーチューブを介して、市の情報発信に努めています。

また、RPA(robotic process automation)を市の一部業務に試験的に導入しました。職員通勤距離計測(職員係)の業務でロボットを作製して取り入れたところ、従来16時間かかっていたものを4時間に短縮できました。同様に、医療重度償還払い(保険年金係)は59時間から27時間へと短縮。確定申告データの入力(市民税係)は166時間から125時間へ短縮できました。

市民窓口では、タブレット端末の音声翻訳アプリを使って多言語対応を始めました。また、スマートフォンの決済アプリ(PayPay、LINE Pay、PayB)を使って市税などを納付できるようにしました。

現在は市職員のリモートワークの推進にも力を入れています。4月に市内の民間介護施設において、新型コロナウイルスのクラスター(集団感染)が発生した際、市ではBCP(事業継続計画)のために分散勤務体制を採りました。

そうしたところ、本庁で会議を開くとなると、これまで以上に出席者の移動に時間がかかるようになりました。そこで、幹部会議やコロナ対策会議、災害対策本部会議などをオンラインに置き換えて、従来は移動に費やしていた時間を業務に使えるようにしました。もちろん、集まって話すべきことは対面での会議を継続しています。結果として、働き方改革の一歩目を踏み出せたのではないかと思います。

また、今年9月に市職員の在宅ワークに関する予算が市議会で承認されました。2020年度は試行段階として100ライセンスを用意し、全ての課で在宅ワークを試験導入して課題を抽出します。国や県と違って、市の業務は市民対応の割合が大きいので、どこまで在宅ワーク、テレワークに移行できるものか、今後判断します。

伊藤 コロナ禍を奇貨として、市長が推進する〝自治体DX〟は加速の傾向にあるのですね。次回は、市全体をスマート化する構想について伺います。

第3回につづく


【プロフィール】

福岡市長プロフィール写真

福岡誠志(ふくおか・さとし)
昭和50年生まれ。広島県三次市出身。
広島国際学院大学卒業、広島修道大学大学院法学研究科修了。
平成10年湧永製薬株式会社広島事務所入社。
平成13年の初当選以降、三次市議会議員を5期務める。
平成31年、三次市長に就任(1期目)。
その他、全国若手市議会議員の会副会長、(一社)三次青年会議所第62代理事長。

 

伊藤大貴(いとう・ひろたか)伊藤大貴プロフィール写真
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。

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