農村型コンパクトエコタウン構想を推進~金平嘉則・前北海道沼田町長インタビュー(2)~

前北海道沼田町長 金平嘉則
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2023/02/20 農村型コンパクトエコタウン構想を推進~金平嘉則・前北海道沼田町長インタビュー(1)~
2023/02/23 農村型コンパクトエコタウン構想を推進~金平嘉則・前北海道沼田町長インタビュー(2)~
2023/02/27 組織に横串、住民と対話重ねたまちづくり~金平嘉則・前北海道沼田町長インタビュー(3)~
2023/03/02 組織に横串、住民と対話重ねたまちづくり~金平嘉則・前北海道沼田町長インタビュー(4)~

 

1キロ圏内に町の機能を集約

小田 コンパクトエコタウン構想のシンボル的な施設として、「暮らしの安心センター」「まちなかほっとタウン」があります。それぞれの役割を教えていただけますか?

金平氏 暮らしの安心センターは、町の医療、福祉・子育て、介護の機能を集約した施設です。診療所やデイサービスの他、リハビリもできるトレーニングルーム、交流スペースとなるラウンジやカフェなどが一つの施設内に集まり、行き来ができるようになっています。

まちなかほっとタウンは複合商業施設です。スーパーマーケットを中心に、日配品や日用雑貨など、普段の暮らしに必要な物をそろえることができます。この二つの施設は2017年にオープンしました。

周辺には町役場、小・中学校、認定こども園、そしてJR石狩沼田駅があり、それらが1キロ圏内に収まっています。だから「買い物のついでに病院に行く」「役場とデイサービスに行く」といったことが可能になり、暮らしの利便性が大きく向上します。

 

小田 徒歩圏内に、生活に必要な機能が集約されているのですね。

金平氏 コンパクトエコタウン構想のキャッチコピーは「歩いて暮らそう宣言」です。

 

小田 プロジェクトの資料には、住宅の整備も進めているとありました。

金平氏 エリア内で、民間資金で若者向けの住宅整備が進んでいます。空き家をリノベーションし、賃貸物件にしています。教育施設が近いことから、子育て世代にとって便利で魅力ある取り組みだと考えています。高齢者向けの住宅も整備が進んでいます。

 

小田 病院問題を皮切りに、町の機能集約や町民の集約までプロジェクトが発展したのですね。実際に、エリア内に移り住んだ方はいらっしゃるのですか?

金平氏 エリア内に家を建てたり賃貸物件に移り住んだりする方や、高齢者向け住宅に入居を希望する方はいます。これは北海道の文化的背景が関係しているかもしれません。

北海道の人は、今いる土地を手放して他の土地に移り住むことに対し、あまり抵抗感を持たない傾向があります。30~40年前は農地が今よりも高く売れましたから、その資金を使って移住することは当たり前のように行われていました。その名残が今でもあるので、高齢者の中には「町の中心部に高齢者向け住宅を造ってくれれば、今の家屋を処分して移り住みたい」と希望する方もいます。

 

小田 そうした文化的背景も考慮した上で、訪れたり移住したりしたくなるコンパクトエコタウンを構想されたのですか?

金平氏 「農村部から町の中心部に移り住んでください」と明確に伝えたわけではありません。暮らしに便利な環境を整えれば、おのずと来てくれるだろうという仮説の下に進めました。

沼田町は豪雪地帯です。真冬の農村部では、10メートルくらい雪が積もることもあります。冬の生活は本当に厳しく、玄関前の除雪やヘルパーの高齢者宅への訪問も大変です。買い物や通院・通学、こども園の送迎など、移動すること自体が相当な負担になります。

徒歩で移動できるエリアの中に、暮らしに必要な施設が収まっていれば、それは農村部に住む方たちにとって魅力的に映るだろうと考え、計画を作りました。

農村部の町民が中心部に移住することは、インフラのコスト面でもメリットが大きいのです。道路や水道といったインフラの維持・管理費はもちろん、除雪費の削減は豪雪地帯にとって重要です。除雪費は年間で数千万円に膨れることもありますから、中心部に町民が集まってくださることは、行政にとってもうれしいことなのです。

 

小田 他の自治体では、限界集落の空き家に若者が移り住む事例を耳にしますが、そのようなケースは成功事例とは言い難いのではないでしょうか。結局、そこに続く道路や水道などの維持・管理に多大なコストが掛かり続けてしまいます。

金平氏 短期的には「田舎に若者が移住した」ということで見栄えが良いかもしれませんが、数十年単位で見ると、その集落を維持するためのコストを誰が払うのかという議論になるでしょう。やはり長期の軸でまちづくりを考えることが大切です。移住した若者が高齢者になったときに必要となる行政サービスまで勘案し、住む場所の提案をした方がいいと思います。

 

小田 沼田町のコンパクトエコタウン構想には驚きを隠せません。ロジックは、きっと誰もが納得するものだと思います。しかし、施策の実行や実現に至っている例はまれです。

 

写真 コンパクトエコタウン構想の説明に用いられた資料の一部(出典:金平氏提供)

 

3000人が目安

小田 構想に関する資料や報告書に目を通す中で興味が湧いたのが、15年に策定された町の地域再生計画で掲げられた目標です。当時は多くの自治体が人口増加を目標とし、それを前提に各種の計画を立てていましたが、沼田町の目標は「人口維持」でした。この目標設定にはどのような意図があったのでしょうか?

金平氏 人口減少の一途をたどる現状を鑑みると、町の人口が今後、3000人前後から大きく増えることはないだろうと想定しました。地域再生計画ですから、堅実な数字を目標値に据えるべきだと考え、「人口増加」ではなく「人口維持」と記載しました。私の中では、一行政区の単位として3000人という目安がありました。

 

小田 一つの自治体の規模という意味ではないですよね?

金平氏 「行政サービスが行き届く範囲」という意味です。3000人ほどであれば、それぞれの顔も見えるでしょうから、きめ細かなサービスを提供できます。北海道の多くの町村は、大体どこも人口が2000~3000人ですから、一自治体の規模と同義になりますね。

人口規模の大きな地方都市であっても、例えば一つの小学校区や町内会というような単位でまちづくりを考えていけば、うまくいくのではないかと思います。沼田町のように面積が大きい場合は、機能や人の集約が必要になるでしょう。その点、面積の小さな自治体の方が有利かもしれません。これからのまちづくりは、そうやっていかなければ維持が難しいのではないかと思います。

 

小田 実際に形にしてきた方ならではの視点でお話しいただきました。まちづくりの単位を一自治体ではなく、行政サービスの行き届く範囲で考えるというのは大変、参考になります。住民が何を考え、何に困っているのか。丁寧にコミュニケーションを図って拾い上げていくためには、確かに「顔が見えて、行き届く範囲」という考え方は合点がいきます。

次回も引き続き、コンパクトエコタウン構想を深掘りしていきます。特に、これだけ大きなプロジェクトをどう進めたのか。職員や住民との協力体制について詳しく伺います。

 

第3回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年1月16日号

 


【プロフィール】

前北海道沼田町長・金平 嘉則 (かねひら よしのり)

1945年生まれ。北海道沼田町出身。同町に入り、農業委員会事務局次長、民生課高齢者福祉対策室長、地域振興課商工観光室長、地域振興課長補佐、教育委員会次長、議会事務局長を歴任。2011~19年に同町長を務めた。

 

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