組織に横串、住民と対話重ねたまちづくり~金平嘉則・前北海道沼田町長インタビュー(3)~

前北海道沼田町長 金平嘉則
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2023/02/20 農村型コンパクトエコタウン構想を推進~金平嘉則・前北海道沼田町長インタビュー(1)~
2023/02/23 農村型コンパクトエコタウン構想を推進~金平嘉則・前北海道沼田町長インタビュー(2)~
2023/02/27 組織に横串、住民と対話重ねたまちづくり~金平嘉則・前北海道沼田町長インタビュー(3)~
2023/03/02 組織に横串、住民と対話重ねたまちづくり~金平嘉則・前北海道沼田町長インタビュー(4)~

 


第1回第2回に引き続き、前北海道沼田町長の金平嘉則氏のインタビューをお届けします。金平氏が2011~19年の町長在任中に注力した「農村型コンパクトエコタウン構想」()は、昨今の地方自治体が抱えるさまざまな課題を、包括的な解決へと導くプロジェクトです。

コンパクトシティーに向けた取り組みが全国的に進む中、住民の合意形成が難航したり、行政のリソース(資源)が不足したりしてプロジェクトが進まないなど、さまざまな課題に直面するのが実情です。人口約2900人の沼田町は、なぜそれらを乗り越えることができたのでしょうか。今回からはその点に迫ります。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

=認定こども園や学校、診療所、高齢者の介護施設、スーパーマーケットといった暮らしの機能を、町の中心部であるJR石狩沼田駅周辺の半径約500㍍に集約しようというプロジェクト。町唯一の病院の無床化と建て替えを機に、町民の健康を守り、暮らしの利便性を向上させるとの目的の下、推進されている。空き家問題、高齢者の住宅問題、介護問題、インフラのコスト問題など、農村地域が抱えるあらゆる課題の解決に寄与する。

 

制度の活用と人材育成

小田 コンパクトシティーは、概念は理解できても実行の段階になると、さまざまな障壁があるのではないかと思います。なぜ沼田町はコンパクトエコタウン構想を実行できたのでしょうか。まずは予算面から伺います。

金平氏 地方創生に関する国の交付金や補助金を使いながら、一般財源からも拠出しました。沼田町は財政が比較的健全な状態です。税収は安定していますし、繰り上げ償還を行って借金をなるべく少なくしてきました。プロジェクトの事業費に充てた町債の償還がそろそろ始まる頃ですが、今後の財政を圧迫するような状況ではないと思います。

 

小田 もともと健全な財政運営を行いつつ、国の制度を上手に活用されたのですね。

金平氏 プロジェクトが走りだした12~13年は、国が地方創生を推進し始めた時期と重なります。補助金なども手厚くなりましたから、その流れに乗った形です。国と町の方向性が合致していたのではないかと思います。

 

小田 町長就任前は町職員だったこともあり、国の制度や補助金の仕組みをよくご存じだったのですね。そのためにプロジェクト初期の段階で、申請に動くことができたのでしょうか。制度を理解しているというのは大きな強みですね。

金平氏 いろいろなアンテナを張り巡らせました。職員にも情報に敏感になるよう伝えました。町長在任中は職員研修にかなり力を入れました。私が辞めたとしても現場が回るよう、就任後の早い段階から人材育成の必要性を感じていたからです。職員に対し、将来を見据えて準備するという意識付けを行いました。

 

小田 具体的には、どのようなことを行ったのですか?

金平氏 各課から職員を1、2人ずつ集めてチームを編成し、協働で事業を実施するようにしました。町長になって3年目くらいから始めたことです。毎年メンバーを代えて秋ごろにチームをつくり、翌年度の重点施策を決めて予算化し、翌年の4月に実施するという流れです。

 

小田 研修というより、タスクフォースに近いですね。毎年メンバーを代えるのは、職員全員が企画提案の訓練をするためでしょうか。

金平氏 その通りです。提案のみならず、実施までチームが担います。経験を積むことが大切で、組織に横串を刺しました。

このため、職員同士のコミュニケーションがカギを握ります。私もチームの会議に出席し、町の重要課題を示唆したり、どのような意見が交わされているのか、チェックしたりしました。そして職員の参加の度合いを、昇給や昇格を判断する参考材料にしました。

ヒントになったのは、日産自動車のカルロス・ゴーン元会長が経営再建計画「日産リバイバルプラン」で用いた、「クロス・ファンクショナル・チーム」(CFT=さまざまな部門・職位から多様な経験・スキルを持つ人材を集めてチームを編成する)という組織横断的な手法です。

 

小田 どのような座組みで行ったのですか?

金平氏 12年に政策推進室を設置し、その中にプロジェクトを管轄する課を一つ設置しました。そこが中心となって各課から職員を集めてチームを編成し、事業を実施する形にしました。

 

小田 核となる組織を設けたのですね。

金平氏 まずは4、5人くらいで、政策だけを担当する部署としてスタートさせました。兼務はせず、政策実行に注力する組織です。私も経験があるのですが、小さな自治体の役場では幾つもの業務を掛け持ちします。しかし、それでは実行力を弱めてしまいます。それを防ぎたかったのです。

 

小田 自治体職員から「日々の業務に追われ、企画や新しいことに着手する余裕がない」といった声をよく聞きます。その多くは1人で何役もこなしているケースです。

金平氏 私も町職員時代に企画担当課で係長を務めた際、同じような問題で悩んだことがあります。政策を実行するためには、町の将来を常に考え、集中して仕事ができる環境が必要です。政策推進室の設置には、そんな狙いがありました。

 

小田 沼田町の職員数を見ると、14~19年は一般行政職員が70人前後で推移しています。限られた人数で多くの業務をこなさなければならない中、4人を兼務なしの政策推進室に抜てきするというのは、思い切った判断だったのではないでしょうか。

金平氏 当時は職員の国への出向もありましたから、役場にいる人数はもっと少なかったです。そう考えると、確かに他の職員への負担はあったかもしれません。このため業務を簡素化したり、職員研修で情報整理の方法を身に付けさせたりしながら乗り切ったと記憶しています。

私は出張などで役場を留守にすることが多かったものですから、自発的に動ける職員を育てることを重視しました。全職員に企画提案の経験を積ませたのも、そのためです。もちろん、向き・不向きはあります。向いていると感じる職員や前向きに取り組む職員は、より能力を伸ばしていけるようにフォローしました。

 

小田 企画系の業務に携わる職員は、何をモチベーションとしていたのですか?

金平氏 まちづくりの方向性が理解でき、職員として具体的に何をすればいいのかが分かってくると、より前向きになれるのではないでしょうか。

 

小田 ビジョンを示すということですね。

金平氏 まちづくりの方向性を共有することは大切です。それを示さなければ、職員の考えや行動にばらつきが出るでしょう。

 

(写真)金平氏(上)へのインタビューはオンラインで行われた(出典:官民共創未来コンソーシアム)

 

「自分ごと」として考えてもらう

小田 前回、コンパクトエコタウン構想の合意形成に向け、町民説明会や懇談会を数十回も開いたとおっしゃいました。その他に何か工夫されたことはあるのですか?

金平氏 コミュニティーデザインの専門家の協力を得て、町民参加型のワークショップを二十数回開きました。町民同士あるいは町民と職員が対話を重ねながら、未来のまちづくりを考えていく場です。

私たちが構想について説明すると、町民からはさまざまな意見が出されました。中には「受け入れられない」という声もありましたが、あくまで「沼田町のために」という考えが全員のベースにありましたから、対立構造は生まれませんでした。

 

小田 何か課題が出てきた場合は、対話で解決していったということですか?

金平氏 そうです。町民の皆さんは、事前に町についての情報収集を行い、予備知識を持った上で対話に臨んでいました。ファシリテーター(進行役)を務める専門家や私が入らなくても、話がまとまることもありました。

私は時間がかかっても、町民が参加して話し合う場を設けるというスタンスでした。構想の実現には町民の参加と合意が絶対に必要だと考えたからです。町議会の一部には「トップダウンでビジョンを示し、早く計画を進めた方がいい」といった声もありましたが、対話に十分な時間を充てることを重視しました。

 

小田 町民の皆さんを信じ、託したのですね。

金平氏 きちんと情報を公開し、説明と対話を重ねれば、皆が協力してくれるという考えで進めてきました。方向性を示すのは町長の役割ですが、具体的にどうやるかは、町民の皆さんが「自分ごと」として考えましょうというスタンスでした。

 

小田 町民の皆さんと一緒に作り上げた計画なのですね。

 

第4回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年1月23日号

 


【プロフィール】

前北海道沼田町長・金平 嘉則 (かねひら よしのり)

1945年生まれ。北海道沼田町出身。同町に入り、農業委員会事務局次長、民生課高齢者福祉対策室長、地域振興課商工観光室長、地域振興課長補佐、教育委員会次長、議会事務局長を歴任。2011~19年に同町長を務めた。

 

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