【PublicLabセミナー報告】公民連携が加速する―民間からの逆公募プロポーザルがひらく新しい公共

週1回ペースで実施されている“PublicLabセミナー”。このWEBサイトを運営している(株)Public dots & Companyでは、地方議員や公務員向けに、さまざまな社会課題に関する勉強会を開催しています。昨年末に開催した「逆公募プロポーザル」のセミナーには、30名以上の地方議員や公務員の方々にご参加いただき、大盛況のうちに終了しましたので、今回はその内容の一部をお伝えいたします。

セミナー概要
タイトル: \公民連携が加速する/民間からの逆公募プロポーザルがひらく新しい公共
スピーカー: (株)Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴
(株)SCALA 共創エバンジェリスト 伊佐治幸泰 氏
ファシリテーター: 目黒区議会議員 たぞえ麻友
開催日: 2020年12月18日

※本セミナーは一部を動画配信いたします。本記事の最後に掲載していますのでぜひご覧ください。

 

【プロフィール】
伊藤大貴 株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。

横浜市議の時に、官と民の関係性ってもっといいデザインの仕方があるよねと感じていたこともあり、2019年、公民連携を支援する会社を創業しました。現在は、自治体のデジタル計画やDX戦略のお手伝いをしています。今日はどうぞよろしくお願いします。
伊佐治幸泰 株式会社SCALA 共創エバンジェリスト
前職・東京海上ホールディングスに勤めていた時に、社会課題をビジネスの力で解決したいと思い、2020年より(株)SCALAへ。現在は、国内外でテクノロジーやデジタルの力で、社会課題を解決していく新規事業やUXデザイナーとしてパラレルキャリアに挑戦。2019年には、ワンクリックで自動車保険の概算保険料の見積もりが出せるウェブサイトをデザインし、「グッドデザイン賞2019」を受賞。
(株)SCALAは、テクノロジーの力で社会課題を解決している、IT企業です。今日はよろしくお願いいたします。

<ファシリテーター> 目黒区議会議員 たぞえ麻友

今日は全国津々浦々、職種も混在と、さまざまな方が参加されているので楽しみです!「逆公募プロポーザル」とは何か、そして議員の皆さまにとって、また企業の方にとって、そして役所の方にとって、どのようなサービスで、どんな良いことがあるのかを、ぜひ知っていただきたいなと思っています。

 

【逆公募プロポーザルの仕組みについて:伊藤大貴】

私の方から、逆公募プロポーザルの仕組みについて、お話しさせていただきます。端的に言いますと、自治体からすれば、“選ぶ側から選ばれる側になります”というのが、今回の逆公募プロポーザルのメッセージです。

今までの公募プロポーザルというのは、社会課題を自治体が設定して、良いアイディアを提案してくれた企業さんに対して、自治体がお金を払い、それを実行してもらうものでした。それまでの入札の仕組みに比べれば、格段にクリエイティブな仕組みに感じますが、企業側から見ると、実は結構課題があります。

一つには、受託モデルなので、自治体から発注を受けて、受託者として仕事を納品する立場なので、自由度がない。仕様を自治体が先に決めているので、企業が「本当はもっとこんなことがしたい!」と思っても、仕様は変えられないわけです。

もう一つには、なかなかスケールさせられない。例えば、ある自治体とある企業が、公募プロポーザルでマッチングして、社会課題に対してリーチできるソリューションが作れたとして、これを全国他の自治体に横展開しようと思ってもなかなかできないんです。もちろん自治体からの縛りもありますし、さらに言うと、企業がマッチする自治体がどこにあるか探そうと思うと、実際探せないんです。どの自治体がどんな社会課題や問題意識を持って存在しているのかが、企業側からは見えない。結果、スケールしない。もっと幅広く全国展開して、その自治体の困りごとを解決しながら、なおかつビジネスもできるはずなのに、それが公募プロポーザルだとやりにくいのです。

そこで、今回の「逆公募プロポーザル」です。「逆」というのは、募集と提案の流れを全く逆にしています。つまり、社会課題を設定するのは企業、お金を出すのも企業、アイディアを出すのが自治体。これが逆公募プロポーザルの仕組みです。自治体が出す提案というのは、その企業が設定する社会課題に対して、どういう政策的なアプローチがありうるのかを提案するものです。企業の方は、自治体の提案の中から、面白そうなものを選んで、「寄付受納」という形でお金を支払います。

この「逆公募プロポーザル」第一弾として、イーデザイン損保さんのプロジェクトがすでに始まっていて、まもなく1月15日がエントリーの締切なのですが、実は政令市含め、全国のあらゆる規模の自治体さんから10件以上(12月18日時点)のお問い合わせやエントリーをいただいています。今回は、「より安全な交通環境・社会の実現」(寄付金額は上限100万円・1企画あたり50万円~100万円を予定)というテーマなのですが、そういう社会を作ることに関心がある自治体が10以上あることが分かったのです。1人の職員が面白いと思っても、個人の判断で勝手にエントリーできないですから、少なくとも10の自治体は、組織の中で合意を取っているはずです。企業からすると、合意が取れていて、問題意識の目線が合う10以上の自治体と、これから関係性を構築できる。これは、スケールを目指す企業にとって大きな価値です。

また、自治体から見たメリットは、純粋な寄付受納という仕組みを使うことで、使途が限定されない予算を得ることができます。企業が使途を限定すると、議会の議決が必要になり、時間も労力もかかってしまうため、初めから「寄付金の使い道は原則企業から限定されない」ことと定めています。

さらに、これまでの「包括連携協定」という仕組みは、残念ながら実体のない連携協定が散見されます。今回の逆公募プロポーザルの場合は、企業の方も明確な社会課題を掲げていますし、自治体はそれに対してアイディアを出しているので、お互いの目線が合っている。もしこの両者が望めば、実体を伴う連携協定を作ることができるのではないでしょうか。形だけの連携ではないので、住民ファーストの新しいサービスを生み出す可能性を秘めていると思います。

最後に、これまでに自治体から寄せられた質問を少しご紹介しますと、かなり具体的な質問が寄せられています。

「選考基準は公開されますか?」
今回は公開されていませんが、今後検討していきたいと考えています。

「提案したアイディアはどういう扱いになりますか?」
採用されなかったときのご心配だと思いますが、企業がその後の検討の中で、そのアイディアに関心を持った場合には、当然提案された自治体に対して接触をするはずです。

「逆公募プロポーザルを前提に予算を組みたいのですが、選ばれない可能性もありますよね?」
その通りです。もし選ばれることを前提に予算を組みたいということであれば、ぜひ選ばれるような魅力的な提案をご考案いただければと思います。

「(一般の)プロポーザルの“逆“ということは、選定された後の制約やコミットもそれなりにあると考えた方がよいでしょうか?」
そこは少々違います。今回の仕組みは官民での共創という部分をとても大切にしています。よって双方向でのコミュケーションを取りながら、選考段階から企画提案型で進めていく仕組みになります。

各自治体さん、エントリーに向けて本気で取り組んでいただいているところです!

 

※「逆公募プロポーザル」について、くわしくはこちらの記事もご参照ください。
「共創をデザインする逆公募型プロポーザル、誕生」

 

【企業から見た「逆公募プロポーザル」:伊佐治幸泰】

伊藤さんの方から、自治体から見た観点についてのお話がありましたので、私の方からは逆に企業から見た「逆公募プロポーザル」について、お話しいたします。伊藤さんと私の会話の中から、この逆公募プロポーザルが生まれたのは、実は私自身が企業で新規事業を担当していたときに苦戦していたことがもとになっています。

まず、そもそもの疑問として、「なぜ企業はわざわざ資金を出そうと思うのか」。この質問を、自治体さんから受けることがあります。実際のところ、企業側にはいろいろなニーズがある。例えば、新規事業。今、社会環境が大きく変わってきていて、自分たちのドメインだけではなく、新しい事業を作らなければいけないと考えている企業はたくさんあります。

新規事業は、右図の左側「課題/仮説」と右側「実行/検証」、左と右を行ったり来たりするのが一つの進め方です。まず課題や仮説を自分たちで決めて、実行・検証してみる。実行から開発までスムーズに進む場合もあれば、仮説を立て実行してまた仮説に戻ってと、左右をぐるぐる回る場合もある。しかし、左側には一つ大きな問題があり、社会課題がとにかく複雑化しすぎていて、課題が何なのか分からなくなってきているという点です。表面的な課題は見つかるけれど、本当にそれが課題なのか、ここに投資したら世の中が良くなるのか分からない。ここが非常に悩ましいのです。解決策よりも真の課題を見つけることが難しい。逆に右側では、スピードが求められていて、企業は早くやりたい。でも、日本中でいきなり事業を開始してしまったら、非常に失敗リスクが大きい。それなら小さく始めようと思うのですが、誰と始めたらいいのか分からない。私の経験でいいますと、組みたい自治体を探したくて電話で説明しても、門前払いでした。せっかく社会課題を解決したいと思っても、仲間を見つけるのが非常に難しいのです。共創できる自治体さんを見つけるのは更に難しいです。社会課題の解決は、一企業でできるレベルを超えているので、やはり官と民で共創する必要があるのですが、企業は自治体と一緒に仕事をする「手段」が分からない。連携コストが高い、これが一つの実態なのです。

最後に、具体的にどういう企業様がどんな募集をされているのかですが、現在募集中のイーデザイン損保さんの事例をご紹介します。イーデザイン損保さんは保険会社で、自動車保険をインターネットで販売されています。自動車保険というのは、事故が起きたときに価値が発揮されるので、「事故を起こさないとその価値が分からない、社会にどう役立っているのか分からない」という声がお客様から寄せられていました。そういった声に真摯に耳を傾け、「保険だけで社会に貢献するのではなく、地方自治体の皆さんと、安全な交通環境や社会を実現したい」と考えられ、今回のテーマが設定されました。例えば、「シニアドライバーの運転支援で高齢者の事故をなくす」、「新しい電動車いすの活用実験」など、人の移動の高度化みたいなことでしょうか。

実はイーデザイン損保さんだけではなく、まだ具体的な企業名は明かせないのですが、メーカー、マスコミなど、いろいろな業種の企業さんが、もう裏でたくさん待っていらっしゃるような状態です。先ほど伊藤さんの方から「自治体の方からすごく好評です」という話がありましたが、企業側の関心度も非常に高いです。今後、いろいろな形で発信していきますので、そこでぜひ良い出会いをしていただいて、まさに官と民で社会課題を一緒に解決していく仕組みとして、この「逆公募プロポーザル」をご活用いただければと思っております。

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