目指すは「健康幸福都市」~荒木義行・熊本県合志市長インタビュー(3)~

熊本県合志市長 荒木義行
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2023/03/14 人口増加自治体ならではの課題とは~荒木義行・熊本県合志市長インタビュー(1)~
2023/03/17 人口増加自治体ならではの課題とは~荒木義行・熊本県合志市長インタビュー(2)~
2023/03/20 目指すは「健康幸福都市」~荒木義行・熊本県合志市長インタビュー(3)~
2023/03/23 目指すは「健康幸福都市」~荒木義行・熊本県合志市長インタビュー(4)~


 

第1回、第2回に引き続き、熊本県合志市の荒木義行市長のインタビューをお届けします。前回は、人口が増加傾向にある自治体ならではの課題について伺いました。今回は市政の基本方針がテーマです。若年層や子育て世帯向けの施策、基幹産業である農業の振興策などをお話しいただきました。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

若者が地元に愛着を持てるように

小田 20代女性の転出超過は全国的に見られる傾向です。特に20代前半は、男性に比べて女性の転出超過が数倍となる地域もあります。ところが合志市は、2018年から20年までは20代女性の転出超過の傾向が見られるものの、21年には一転して大幅な転入超過となっています。これは何か施策の効果が表れてのことでしょうか。その取り組みや若年層の社会減に対する考えを伺います。

荒木市長 合志市の人口ピラミッドにおいても、18~25歳が最も人口が減る層です。それを転入による社会増でカバーしています。

市内に大学はありません。18~22歳は大学に行く時期ですから、いったんふるさとから離れて行くのはやむを得ないと考えています。その後の追跡調査によると、大学周辺で就職した若者が約7割います。隣接する熊本市内の大学に進学し、その周辺で就職すれば合志市は通勤圏内でしょう。しかし、県外に出て行った若者はほとんど帰って来ていません。

特に女性は、その傾向が顕著です。市内には半導体関連の就職先はありますが、高等専門学校の卒業生をはじめ、専門分野に特化して学んだ若者が就職します。そこは女性の割合が少ないのです。そうすると、今度は地元で就職した若い男性の結婚が促進されません。

今は社会増でカバーできていますが、転入だけで人口を増やす政策は、ずっとは続かないと考えています。やはり地元に愛着を持つ若者が、まちに残るようにすることが大切です。特に若い女性にとって、夢や憧れを持てるような仕事を増やす必要があります。

 

小田 若い女性にとって職の選択肢が少ないという点に関し、課題感を持つ地方自治体は多いでしょう。それは合志市も同じなのですね。地元に残る若者や転入して来た子育て世帯を支援するために、どんな施策を実施しているのですか?

荒木市長 2016年4月に発生した熊本地震の直前に、地方創生交付金を活用した提案を二つしました。一つは「健幸都市こうし」推進事業です。

これは、市の基本計画の大方針である「健康幸福都市こうし」の一環として、市民の健康をサポートするための取り組みです。18年には本格実施のため、合志市、熊本大、情報技術サービスを提供する「日本ユニシス(現BIPROGY〈ビプロジー〉)」、スポーツクラブ運営を担う「ルネサンス」と連携協定を締結しました。

産官学連携で一つのチームとなり、スポーツイベントや健康指導を実施し、健康診断のデータを分析するなどして、市民の健康維持に役立つ次のアクションへの活用を見込んでいます。この取り組みは市民に少しずつ浸透しており、「住みやすいまち」のイメージにつながっているのではないでしょうか。

 

もう一つは、女性の創業や地元での活躍を支援する目的で「肥後六華の會」という一般社団法人を立ち上げました。しかし、こちらに関しては取り組みが縮小してしまいました。継続的な活動を前提に運営を民間に委託し、市からはしばらくの間、補助金を交付する形で支援していましたが、補助金が減ってくると活動が鈍化しました。

原因は幾つかあると思いますが、一つ大きいと感じたのは「スキルの差」です。肥後六華の會は、総務省が推進する「ふるさとテレワーク推進事業」に参画しました。地元の女性たちが都会の企業からテレワークで仕事を受注できるように体制を整えたのですが、都会の企業が求めるスキルを用意できませんでした。そのため、予想よりも受注する仕事の数が少なかったのです。こうした背景もあり、下火になってしまいました。

 

小田 いろいろと試行錯誤されているのですね。特に女性活躍への取り組みは、事業開発に近いと感じました。事業開発は「千三つ」と例えられるように、1000回取り組んで三つ成功するというくらいの確率です。

荒木市長 男女共同参画の考え方が当たり前になったり、女性活躍推進法ができたりと、女性支援の取り組みは昔よりも具体性が増してきていると思います。過去の事業からの学びを生かし、現在は地元の金融機関や商工会と連携し、女性の創業支援に関する取り組みを進めています。その結果、女性による創業が年間で2~3事業者、出てきています。

 

図 健幸都市こうしの発展イメージ(出典:合志市総合計画第2次基本構想第2期基本計画)

 

まちづくりの軸は「六つの健康」

小田 「健幸都市こうし」について、詳しくお話しいただけますか?

荒木市長 「健康な都市」という考え方は就任当初から持ち続けています。人が幸せであるためには健康が大前提です。その考えをまちづくりの方針にも反映させたのが「健幸都市こうし」です。

合志市は熊本市のベッドタウンとして、人口も税収も年々増加していますが、熊本市への依存度が高いのが課題です。もしも熊本市が立ち行かなくなれば、合志市も共に立ち行かなくなってしまいます。そこで、自力で立てる状態を「健康な都市」と見立て、その実現に向けて取り組みを進めていこうとしています。

 

具体的には、①自治の健康②福祉の健康③教育の健康④生活環境の健康⑤都市基盤の健康⑥産業の健康──という「六つの健康」を実現すべく、取り組んでいます。

「自治の健康」は、市民との協働による透明性のある市政と、将来世代に借金を残さないための行財政改革や健全な財政運営が施策の中心です。

「福祉の健康」では、子育て世帯や高齢者、障がい者に対し、地域の実情に即した創意工夫のある支援を行うことや、健康教育も含めた健康づくりを促進します。

「教育の健康」では、子どもたちが将来の夢に挑戦できる環境をつくることや生涯学習・生涯スポーツの推進、人権や地域の歴史・文化に関する学びを育むことなど、教育を幅広く捉えた施策を展開します。

「生活環境の健康」は、防犯や防災、交通安全、住環境の充実など、まちで安心して暮らすための基本となる項目です。

「都市基盤の健康」では、農業と商工業のバランスが取れた計画的な土地利用や道路整備、そして公共交通の充実を図り、市内のどこに住んでいても利便性の高い状態を目指します。

「産業の健康」では、基幹産業である農業の振興に注力し、農業者の経営力強化や6次産業化による「合志ブランド」の確立を目指します。同時に企業誘致も進め、多様な雇用先が地元にある状態を目指します。

このように、六つの軸からまちの健康づくりに取り組み、市民の皆さんのさらなる幸せにつなげるのが「健幸都市こうし」の考え方です()。

 

第4回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年2月6日号

 


【プロフィール】

熊本県合志市長・荒木 義行  (あらき よしゆき)

1958年生まれ。警視庁警察官を経て、86年7月国会議員秘書。95年4月から熊本県議を務め、2010年4月同県合志市長に就任。現在4期目。

 

スポンサーエリア
おすすめの記事