性別にとらわれず「その人らしい強み」が生かせる場を ~桑原悠・新潟県津南町長インタビュー(2)~

桑原悠・新潟県津南町長
(聞き手)株式会社Public dots & Company

 

2021/11/17  性別にとらわれず「その人らしい強み」が生かせる場を ~桑原悠・新潟県津南町長インタビュー(1)~
2021/11/19  性別にとらわれず「その人らしい強み」が生かせる場を ~桑原悠・新潟県津南町長インタビュー(2)~
2021/11/22  職員自らが考える現場から生まれた政策のアウトカム ~桑原悠・新潟県津南町長インタビュー(3)~
2021/11/25     職員自らが考える現場から生まれた政策のアウトカム ~桑原悠・新潟県津南町長インタビュー(4)~

自然体で全力を尽くす

PdC 桑原町長は、ご自身の個性や強みをどのように認識しておられますか?

桑原町長 表現が難しいですが、なるべく平常心で、自然体で、できることを最大限やるということでしょうか。

 

PdC それは職員や町民の方々に対して、「かくあるべし」という一方的な押し付けがないということですか?

桑原町長 そうですね。時には強いリーダーシップも必要だと思うのですが、自らの特性と照らし合わせると、あまり向いていない気がします。ですから自然体で、自分に与えられた範囲で、できることに全力を尽くして、皆さまと接することに力点を置いています。

 

PdC 「向いていない」と言えるのは、強みだと思いますが。

桑原町長 積極的に口に出すことはありませんが、自分の持ち味が出せそうなやり方に注力するようにはしています。

 

町の広報誌を「ヒーロー輩出」の場に

PdC ちなみに3年前の町長選挙の際、メインで訴えられた政策はどのような内容だったのですか?

桑原町長 津南町は「農を以って立町の基と為す」という町是があるほど、農業を主要産業にしている町です。ですから「生産者主体の産地化」を政策として打ち出しました。首長がトップダウンで方向性を示すような統制の仕方ではなく、生産者の皆さんが自ら農業経営を考え、それに対して行政がサポートしていく産地化の在り方の方が持続可能性が高いと思い、この政策を打ち出しました。

当時は、やはり強いリーダーシップを求める町民の方が多く、あまり受け入れられませんでしたが、今は手応えを感じ始めています。

 

PdC 「手応えを感じている」とのことですが、具体的にどのようなことを行ったのですか?政治の世界は、議会も有権者も強いリーダーシップを求めがちです。けれども社会全体で捉えると、緩やかなリーダーシップを求める方向に移行してきています。

行政や議会は社会のテンポから少し遅れる傾向がありますから、桑原町長の政策や主張が理解されるのには確かに時間がかかると思います。ですから最初は受け入れられなかったものを、どう受け入れてもらえるようにしていったのかが気になります。

桑原町長 とにかく「私がやりたかったことはこんなことですよ」というのを、可視化して見せていく他にありませんでしたね。

例えば町のヒーローを輩出しようと思い、広報誌で農産物の生産者の方をたくさん紹介しました。私たちの活動ではなく、町民の方の活躍を見せながら支えていく町政なんですよということを伝えていくためです。それだけで十分伝わっているとは思いませんが、メッセージの一つの手段として、これからも広報誌は活用していきたいと思っています。

 

町の広報誌に紹介されるユリ生産者(出典:津南町Webサイト)

 

PdC 偏ったイメージかもしれませんが、農家の方は「広報誌のような目立った場所には出たくない」とおっしゃるのではないかという気がします。実際はいかがでしたか?

桑原町長 もちろん、いろいろな生産者の方にお願いしましたし、自然に広報誌に出られるようなシチュエーションも考えています。

例えば今年7月、東京駅構内のフラワーショップで販売するためのユリを上越新幹線で輸送するというイベントを行いました。ユリが詰められた箱を越後湯沢駅で積み込んで、出発式をしたのです。その場には、ユリ生産者の方にもお越しいただきました。津南産のユリを飾っている旅館のおかみさんたちにもご参加いただいて、皆で津南町を盛り上げているという雰囲気をつくれるように努めました。

 

上越新幹線にユリを積み込む様子(出典:津南町Webサイト)

 

PdC 地道な活動を続けていらっしゃるのですね。そういったアイデアは、どこから出てくるのでしょうか?

桑原町長 職員の方から出てきます。

 

PdC つまり津南町役場自体が、職員の間でアイデアを出して提案してもいいという組織風土になっているということですね。

桑原町長 職員のアイデアを一方的に「それは無理」「できない」などと言わないようにしています。チャレンジを阻むことになるので。チャレンジした結果の責任は私が負うことになりますので、勇気が要ることではありますが、職員はだんだん「自分たちで考えないと」という意識になってきているようにも思います。

 

PdC ジェンダーフリー(従来の固定的な性別による役割分担にとらわれず、男女が平等に、自らの能力を生かして自由に行動・生活できること)の価値観が広まる中、「女性性」「男性性」という表現は適切ではないかもしれませんが、桑原町長のリーダーシップは女性性ならではの柔らかさがあるように思います。

これまで男性的なトップダウンの指揮系統に身を置いていた職員は、最初こそ戸惑ったことでしょう。しかしながら、明確な答えが見つからないこれからの時代は、そもそもゴール(答え)が分からないわけですから、そこに向かって直線的なプロセスを引くこと自体が難しくなっていくでしょう。

その際、頼りになるのが、「みんなで考えてやっていきましょう」と柔らかくリードする女性的なリーダーシップなのかもしれません。

 

一方で日本の政治の世界には、まだまだ女性が無意識的に活動を制限されるシーンが残っていることが、今回の桑原町長のお話から読み取れます。

女性活躍や男女共同参画を国を挙げて推し進める以上、根深さはあれども、このギャップは解消しなければなりません。

桑原町長には、これからの時代の女性政治家の姿を、さまざまなチャレンジを通じて見せていっていただきたいと感じました。

 

次回からは、桑原町長の柔らかいリーダーシップから生まれた現場のアウトカム(成果)や、津南町が今後取り組む「地域を強くする施策」について詳しく伺います。

 

第3回に続く


【プロフィール】

桑原 悠(くわばら・はるか)
新潟県津南町長

1986年生まれ。新潟県津南町出身。2009年、早稲田大社会科学部卒業。12年、東京大公共政策大学院修了。大学院在学時の11年に津南町議会議員選挙に立候補し、トップ当選を果たす。町議会議員2期目の18年に町長選に立候補し、当選。全国最年少の女性町長となる。

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