まちの魅力は「競争」、インフラは「共有」~楠瀬耕作・高知県須崎市長インタビュー(3)~

高知県須崎市長 楠瀬耕作
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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第1回第2回に引き続き、高知県須崎市の楠瀬耕作市長のインタビューをお届けします。今回は産官学連携によるまちづくりプロジェクトと、インフラの広域化・共同化について伺います。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

深刻な「震災前過疎」

小田 須崎市は人口減少の傾向にありますが、南海トラフ地震の被害予想とも関係があるのでしょうか?

楠瀬市長 須崎市は面積約135平方キロに対し、海岸線が約120キロあるという地理的特徴を持ちます。市街地を海と山で挟むような地形です。

南海トラフ地震による津波の浸水予測区域は、「DIG(Disaster Imagination Game=災害図上訓練)」では全世帯の7割という結果が出ました。子育て世代の中には、そうしたリスクがない場所で暮らしたいと、市から出て行く方もいます。産業に関しても、浸水予測区域に新たに工場を建てるのはリスクを伴いますから、製造業の企業誘致なども難しい状況です。

このため高知県内11市の中でも、須崎市は人口減少の傾向が大きくなっています。特に社会減が顕著です。

 

小田 楠瀬市長はそうした状況を「震災前過疎」と表現されています。隣接する土佐市も同じような状況でしょうか?

楠瀬市長 土佐市は、自然減も社会減も須崎市より緩やかです。海から市街地まで距離があり、隣接する高知市の通勤圏内だからです。地価が高知市よりも安いので、土佐市に住居を持とうと考える方も多いです。須崎市は、かつて須崎港を中心に栄えました。しかし今では、駅前の土地の価格は当時の10分の1ほどになりました。

 

小田 厳しい状況が続いているのですね。

楠瀬市長 須崎市だけでなく、高知県全体が地理的要件によって厳しい状況にあります。隣県の愛媛、徳島の間には四国山脈が切り立っており、遮断されているような状況です。このため人や技術、モノの交流がしにくく、昔から独立独歩の土地柄でした。高知県は第2次産業があまり発展していません。県全体の工業生産高は愛媛県四国中央市と同じくらいです。

 

小田 南海トラフ地震の被害予想もあり、製造業が進出しにくい土地柄なのですね。

楠瀬市長 高知県の地理的要件は物流にも影響しています。ガソリンの単価は全国で最も高い水準ですから、製造業が育ちにくいのです。雇用の受け皿づくりも大きな課題です。

 

「海のまち」の魅力創出

小田 少子高齢化や人口減少は全国共通の課題ですが、須崎市の場合は南海トラフ地震の被害予想もあり、まちづくりの難しさはさらに増しているのですね。現在はどのような取り組みを進めているのですか?

楠瀬市長 「須崎市海のまちプロジェクト」を進めています(写真)。港町の歴史や文化を生かし、産業振興や交流人口の増加を図ろうという取り組みです。須崎港はリアス式海岸を持つ天然の良港で、豊富な魚介類が水揚げされます。大正・昭和時代は交易の要衝として機能し、まちも栄えていたことから、当時の歴史的建築物が残っています。これらをブラッシュアップしながら、「海のまち」としての新たな魅力を創出していこうとしています。

 

写真 須崎市海のまちプロジェクトの資料(一部抜粋)(出典:須崎市)

 

 

小田 官民連携で進めているのですか?

楠瀬市長 産官学連携です。ありがたいことに、高知信用金庫が資金面で強力なバックアップをしてくれています。その他にも地元のテレビ局や観光協会、商工会議所、高校、大学などがプロジェクトチームに参画しています。

 

小田 具体的には、どのような取り組みを進める予定ですか?

楠瀬市長 プロジェクトは2026年までを予定しており、大きく分けて2段階のステップで進めていきます。

まずは中心市街地の活性化です。中心市街地を「海のまちコアゾーン」と位置付け、「エントランスエリア」「縁日商店街エリア」「魚市場と港エリア」「図書館エリア」「シンボルロードエリア」という五つに分けます。そしてエリアごとに何が楽しめるのか、イメージが湧きやすいように設計します。

このプロジェクトは市の総合戦略の一環です。エリア開発においては、図書館複合施設や魚市場、野外体験施設などの整備計画と連動させます。また商店街やまちのイベントと連携し、須崎を訪れた人の体験価値を高めることを目指しています。

コアゾーンの整備ができたら、次のステップは市全域へ波及効果を生む仕組みづくりです。中心市街地を起点に、各地域の歴史ある神社やお祭り、温泉や自然体験などへの人の流れをつくり出すことを目指します。

 

写真 須崎市海のまちプロジェクトの資料(一部抜粋)(出典:須崎市)

 

小田 まちにもともとある資源を生かしつつ、新たな見せ方や新たな施設との融合を目指すのですね。

楠瀬市長 須崎ならではの魅力あるまちづくりを行い、交流人口を増やしたいと考えています。これから間違いなく定住人口は減っていくでしょうから、「須崎が面白そうだから関わりたい」という人たちを県内外に増やすことが課題です。庁内には、創意工夫を凝らしながら自律的に活動する職員がいます。彼らの活躍のおかげでプロジェクトは進んでいます。

 

第4回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年4月3日号

 


【プロフィール】

高知県須崎市長・楠瀬 耕作(くすのせこうさく)

1960年生まれ。高知県土佐市出身。東京経済大経営卒。東京の部品メーカーや同県須崎市のタクシー会社に勤務。タクシー会社の社長時代に地元ケーブルテレビ局の開設に尽力。須崎商工会議所副会頭などを経て、2012年2月須崎市長に就任。現在3期目。

 

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