「自反尽己」の市政運営~仲田一彦・兵庫県三木市長インタビュー(4)~

兵庫県三木市長・仲田一彦
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2024/04/17 将来のまちに対する責任と覚悟~仲田一彦・兵庫県三木市長インタビュー(1)~
2024/04/18 将来のまちに対する責任と覚悟~仲田一彦・兵庫県三木市長インタビュー(2)~
2024/04/23 「自反尽己」の市政運営~仲田一彦・兵庫県三木市長インタビュー(3)~
2024/04/25 「自反尽己」の市政運営~仲田一彦・兵庫県三木市長インタビュー(4)~


 

「誇りを持って暮らせるまち」に向けて

小田 三木市として今後、さらに注力する分野は何でしょうか?

仲田市長 やはり教育施策が重要な取り組みの一つとして挙げられます。特に体験学習を推進していきたいと考えています。三木市では金物、農業、防災、ゴルフの体験ができます。加えて「三木ホースランドパーク」では、小学5年生を対象とした乗馬体験を行っているので、子どもたちには5種類の体験学習を提供しています。この環境は三木ならではです。積極的に活用していきたいと思っています。

また子どもたちには「共に生きる力」を育めるような教育環境を提供したいと考えています。少子化に伴い、学校の再編や統合を行う必要性が出てきていますが、より教育効果が高い施設一体型小中一貫校への移行に向けて取り組みを進めています。地域・保護者・学校が一体となって子どもの教育について考え、実践していく「コミュニティ・スクール」という仕組みも導入しました。まずは市内の三つの小中学校で実施し、成果を基に他校へ展開していきます。

 

小田 教育をまちづくりの根幹に据え、格差を是正しようとする仲田市長の熱意が伝わってきます。市の地域資源である金物、酒米、ゴルフについては、いかがですか?

仲田市長 日本一の生産量を誇る酒米・山田錦に関しては「山田錦の郷活性化構想」の実現に向け、シンボル施設を含むエリアの整備を進めています。一方で生産農家の高齢化や後継者不足が課題です。そこで10年先も安定して生産できるようにするため、地域における人や農地に関するプラン「地域計画」の作成を促しています。市はほ場やため池の整備といったハード事業を推進するという形で、これらのプランを支援していく予定です。

三木金物に関しては、2016年度から海外展示会の出展を支援し、国外での認知度向上を目指しています。25年大阪・関西万博での「金物鷲」の展示も検討中です。

ゴルフについては、4回目となる春高・春中ゴルフを3月に開催します(写真2)。全国各地区の予選大会を勝ち抜いた中高生による競技会です。日本高等学校・中学校ゴルフ連盟の関係者からは、全国の中高生の間で「ゴルフのまち三木」の知名度が定着してきていると伺っており、ブランド力の向上を少しずつ実感しているところです。

三木市は、西日本一となる25カ所のゴルフ場を有しています。年間100万人を超えるゴルファーが訪れることから、「ゴルフのまち」としてのブランド化はインバウンド(訪日客)も含め、レジャー・観光産業の可能性を広げることになります。もちろん雇用面でも良い影響を及ぼします。徐々に「三木といえばゴルフ」のイメージが定着してきていますが、さらに知名度を上げていければと考えています。

 

競技会のポスター(出典:三木市)

 

小田 市のウェブサイトにアクセスすると、「金物と酒米とゴルフのまち」というキャッチコピーが目に飛び込んできます。最初に拝見した際、ゴルフを掲げる自治体は珍しいと興味を持ちました。同時に、1〜3次産業がまちの「売り」として並ぶことに驚きを覚えました。三つをバランスよく振興するのは、とても難しいように思います。

仲田市長 私がすべて、つくり上げたわけではありません。先人たちが築いてきたものを生かしています。現在は「防災のまち三木」という視点でも、まちづくりを進めています。

市内には兵庫県広域防災センターや、「E─ディフェンス」(国立研究開発法人・防災科学技術研究所が所管する、大型構造物の震動破壊実験を行う世界最大の大規模実験施設)があります。23年3月には「E─ディフェンス」の隣に、「E─アイソレーション」と呼ばれる実大免震試験機が完成しました。

このような、国内で三木市にしかない設備は貴重な地域資源です。国内外から研究者が訪れ、市が耐震工学の先進地となる可能性が大いにあります。県は防災と観光を組み合わせた「防災ツーリズム」を推進していますが、これとの連携を図れば、まちの活性化につながります。

三木金物、酒米・山田錦、ゴルフと並び、「防災のまち三木」としてのブランディングも今後のまちづくりの大きな柱です。

 

小田 また一つ、市の魅力が磨かれていきそうですね。

仲田市長 前回も申し上げましたが、ないものを欲しがるのではなく、あるものに目を向けて活用することが大切だと思っています。

私は、初当選した17年の市長選のときから「誇りを持って暮らせるまち 三木を創ろう」と呼び掛け、毎年の市政のテーマに据えてきました。地域資源を磨き上げることで、まちに対する誇りは醸成できると考えています。

 

真面目に、地道に、一生懸命に

小田 今回のインタビューでは、仲田市長の「人を思う」お人柄を感じることができました。最後に本誌の主な読者である全国の首長や自治体職員に対し、励ましの言葉をお願いします。

仲田市長 まず自治体職員の方々に向けてですが、ぜひ自分たちが県や市町村を支えているのだという気概を持ち、頑張っていただきたいですね。今は昔に比べて地域課題が複雑かつ多様ですから、感謝の言葉よりも苦情や要望を受けることの方が多いと思います。時には心苦しくなることがあるかもしれません。ですが、感謝されることが全くないということはないでしょう。

住民の喜びをつくれたときには自分たちも共に喜び、それを次の仕事へと生かしていただきたいですね。先ほども申し上げましたが、最終的には「人」です。「この職員さんなら」と思われるよう、人間性を高めてほしいと思います。

 

小田 自治体職員の方々は本当に日々、苦労されていると思います。仲田市長の言葉に共感を覚える方は多いでしょう。

仲田市長 首長の方々に対してはシンプルですが、「将来を見据え、まちをつくっていきましょう」という一言に尽きます。

選挙は4年でやってきますから、給付型の政策を考えることもあるでしょう。もちろん、それが必要な場合もあるので一概には否定できませんが、一過性のパフォーマンスで終わるようなことはせず、地道に20〜30年後のまちのためになることを続けるのみではないかと思います。目立たずとも、真面目に取り組まれている首長はたくさんいますよ。

 

小田 同感です。地道にまちづくりをされている首長の施策からは、将来を見据えたバランスの良さを感じることが多いです。

仲田市長 額に汗して、真面目に一生懸命、頑張っている人ですよね。これはもう政治の話だけにとどまりませんが、そういう人たちが報われる社会を築いていかなければと思います。

 

【編集後記】
今回のインタビューに臨むに当たって読み込んだ仲田市長の施政方針には、「誇りを持って暮らせるまち三木」というテーマが就任当初から掲げられていました。これは、仲田市長の座右の銘である「自反尽己」に通じるものがあります。

まちの産業が栄えたり、暮らしの環境が良くなったりすることも誇りの醸成につながりますが、最も大切なのは住民一人ひとりが「自分ごと」として他者を受け入れ、共に手を取り合って生きていけることではないでしょうか。そんな精神性の豊かなまちが、仲田市長の目指す「誇れるまち」の姿なのではないかと感じました。

 

(おわり)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年3月11日号


【プロフィール】

仲田 一彦(なかた・かずひこ)

1972年生まれ。京都産業大法卒。衆院議員秘書、兵庫県議を経て、2017年同県三木市長に就任し、現在2期目。座右の銘は「自反尽己(じはんじんこ)。」

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