将来のまちに対する責任と覚悟~仲田一彦・兵庫県三木市長インタビュー(2)~

兵庫県三木市長・仲田一彦
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2024/04/17 将来のまちに対する責任と覚悟~仲田一彦・兵庫県三木市長インタビュー(1)~
2024/04/18 将来のまちに対する責任と覚悟~仲田一彦・兵庫県三木市長インタビュー(2)~
2024/04/23 「自反尽己」の市政運営~仲田一彦・兵庫県三木市長インタビュー(3)~
2024/04/25 「自反尽己」の市政運営~仲田一彦・兵庫県三木市長インタビュー(4)~

 

教育格差の是正を推進

小田 仲田市長は就任当初から、教育環境の充実を市政の大きな柱の一つに据えてきました。教育格差の是正に向け、早い段階から取り組んできたのですね。

仲田市長 「親の収入と子どもの学歴が比例する」という言葉があります。全面的に肯定するわけではありませんが、現実を見ると間違いとも言い切れません。教育格差を是正して底上げを図ることは、公教育の使命だと思っています。

市はかねて、生活困窮やネグレクト(育児放棄)が疑われる世帯への直接訪問を続けてきました。

福祉部局の職員が食べ物などを手渡しながらコミュニケーションを取ることで、まずは状況が理解できます。そうして生活の基盤づくりを支援しつつ、子ども食堂など集まれる場を提供してきました。昨年度からは生活困窮世帯の学習支援を、民間に委託する形で始めています。

 

小田 教育に対する仲田市長の強い思いは、施政方針やその他の発信からも読み取れます。デジタル教育の推進にも早くから取り組んでいますね。19年度には市内すべての小・中・特別支援学校の子どもたちに、1人1台のタブレット端末を配備しています。

仲田市長 おかげさまで、雑誌「日経パソコン」の「公立学校情報化ランキング(2021年度)─教育とICTカテゴリ」で、市内の小中学校が兵庫県内2位の水準にあるとの評価を頂いています。市が整えた情報通信技術(ICT)環境を先生方がしっかりと生かし、教育を行ってくださるからです。

 

小田 ICT教育を行うためには教職員にも一定のスキルが必要になります。この点に関しては、どう対応したのですか?

仲田市長 市の教育水準を高めることを目的にした「教育センター」という施設があります。ここでは教育に関する研究や調査、研修が数多く行われています(写真2)。ICT教育に対応するための教職員向け研修プログラムは、こちらで実施しました。

 

教育センター 市の教育水準を高める「学びの拠点」として機能している(出典:三木市)

 

小田 教職員の負担軽減も図りつつ、教育環境の充実に努めているのですね。

仲田市長 教育はまちの未来を創り出す原動力になりますから、引き続き注力していきます。

 

 

職員の本音を聞き出すアプローチ

小田 仲田市長は相手の話を傾聴することを大切にしているように感じますが、職員とはどのようなコミュニケーションを行っているのですか?

仲田市長 職員との対話が大事だと思っています。組織はトップにいけばいくほど、現場の本音が届きにくくなります。部長級の職員とは普段から話をしていますが、課長級以下になると、どうしてもコミュニケーションの頻度が下がります。しかし、私は現場の本音も聞き、マネジメントに生かしたいと考えています。

現場では何が起こっていて、どう感じているのか。市長に対して抱いている思いはないか。そうした点などを気軽に打ち明けていただこうと、就任当初は希望者を募って何度も食事会を開き、職員と意見交換を行いました。最近は職員提案制度の導入で現場の声を拾えるようにしています。

 

小田 「言いたくても言えない」という状況をつくらないように工夫しているのですね。その他に職員へ意識的に働き掛けていることはありますか?

仲田市長 あまりこだわりは持っていませんが、外部人材と交流する機会はたびたび設けています。「ALIVE」という異業種混合型の若手リーダー開発プロジェクトに参加させたり、国や県の機関に出向させたりしています。今は民間企業2社が企業版ふるさと納税を活用し、市役所へ人材派遣を行っています。その方たちとの交流からも職員は刺激を受けているようです。

 

小田 職員には挑戦を促しているように感じます。現代は何が起きるか分からない時代です。うまくいくかどうかと躊躇するよりも、ひとまず行動してみる姿勢は大切だと思います。

仲田市長 特に公務員の場合は、地域住民や上司の反対があると、やらない理由の方を採用してしまいます。しかし、それは現時点での反発であることが多いのです。法律に触れない限りは失敗しても問題ありませんので、職員には「将来の三木市民にとってプラスになるかどうか」という判断基準で行動してほしいです。

 

小田 成功経験を積むことは大切ですが、それ以上に失敗経験から学ぶことはたくさんあると思います。

仲田市長 失敗は失敗と認めない限り、失敗ではありません。階段を上っている最中だと思えばよいのです。私は職員に「市民から大変な苦情が来たり、国や県から大きな課題が降ってきたりしたときはチャンスだと捉えて」と伝えています。神様は乗り越えられない課題は与えません。困難が目の前に現れたときには萎縮するのではなく、奮起していただきたいですね。

 

小田 とはいえ、職員の特性もそれぞれです。中には慎重な人もいるでしょう。そういう人へのアプローチで、何か気を付けていることはありますか?

仲田市長 特にありません。公務員はむしろ慎重派が多いですね。ただ、中にはアグレッシブに行動する職員もいます。そういう職員が周囲に刺激を与えているのではないかと思います。

 

小田 仲田市長が就任してから、行動派の職員も動きやすくなったのではないでしょうか。

仲田市長 どうでしょう。本人たちに聞いた方が本音が出ると思います。

小田 仲田市長は政策もそうですが、周囲とのコミュニケーションにおいても、非常にバランスの取れた方だと感じました。相手の声にしっかりと耳を傾けつつも、自律的に行動できるように働き掛けています。一方、トップとして声を大にしなければならない場面では、明確に決断を下しています。そんな仲田市長の人間性を支持する人も多いでしょうね。

 

次回は、仲田市長の人柄をさらに掘り下げるとともに、三木市の将来に向けて今後注力することなどについて伺います。

 

第3回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年3月4日号

 


【プロフィール】

仲田 一彦(なかた・かずひこ)

 1972年生まれ。京都産業法卒。衆院議員秘書、兵庫県議を経て、2017年同県三木市長に就任し、現在2期目。
座右の銘は「自反尽己」。

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