地方自治体における就職氷河期世代支援の進め方(6)


株式会社パブリッククロス代表取締役
元大津市議会議員・藤井哲也

地方自治体における就職氷河期世代支援の進め方(記事一覧)
Ⅰ.就職氷河期世代支援の概要
    第1回 就職氷河期世代が生まれた社会背景
    第2回 就職氷河期世代支援に向けた動き
    第3回 就職氷河期世代の職員採用をめぐる取り組み
    第4回 就職氷河期世代支援プログラムの概要
Ⅱ.就職氷河期世代支援の問題点整理
    第5回 就職氷河期世代を活用することによって得られるメリット/就職氷河期世代支援・官民連携の取り組み
    第6回 先行モデル地域の取り組み
    第7回 施策推進における課題
Ⅲ.政策提言
    第8回 政策提言/コラム「越境的学習の効果は?」/支援事業者へのインタビュー

第2回・就職氷河期世代支援の問題点整理

3.先行モデル地域の取り組み(愛知県・大阪府の事例)

モデル地域である愛知県や大阪府などでは、すでに先行的に取り組みが進められています。

愛知県では「事業計画」が策定され、重要業績評価指標として、「就職氷河期世代の希望に応じた支援を通じ、正規雇用者を1万7700人(1年間で5900人)増やすことを目標(値)とする」方針が示され、就職氷河期世代の支援ニーズの調査、具体的な施策の検討や実施スケジュールをまとめ、公表しています。また大阪府においても事業計画の策定を今年度中に終え、2020年度から本格展開するための準備が進められています。

今回、大阪府商工労働部に伺い、取り組み状況や今後の見通しを尋ねました。現在、大阪府では労働局や経済団体、ポリテクセンターなどと連携しながら、以前から運営している総合就業支援拠点「OSAKAしごとフィールド」で提供している、就労支援や企業向け情報提供等のサービスのノウハウを最大限に生かした支援事業スキーム(体系)を策定しました(写真)。

OSAKAしごとフィールドのエントランス

担当者は、「大阪府における就職氷河期世代支援では、2020年度は国が新たに設けた『地域就職氷河期世代支援加速化交付金』を活用します。女性や高齢者、障がい者の就労支援も含めた全体の予算は約6500万円、このうち就職氷河期世代支援には約1200万円を予定しています。当初は地方創生交付金を充当しようと考えておりましたが、ここに国が75%を補助する加速化交付金を充てようと考えています。

また、キャリアカウンセリングに力を入れていることが特長です。直接雇用でキャリアカウンセラーを15人確保し、それ以外に企業開拓員にも動いてもらいます。キャリアカウンセラーによる対象者への丁寧なフォローアップに努めており、職場体験やミニ合説(合同説明会)にも時に同行するなど、伴走型の支援を行っています。個々人の適性を見極め、企業開拓員などとの情報共有により、採用してくださる企業のニーズと合致するマッチングを行い、就職後の育成や定着、活躍までも見据えた取り組みをしていきたいと考えています」と答えてくださいました。(図表)。

これまで、就職困難者のために寄り添って支援してきた知見の蓄積が大阪の取り組みには見られ、こうしたベースがなければ、一朝一夕に同様の施策を進めることは難しいかもしれません。

ただ、従来の丁寧な就労支援の取り組みを就職氷河期世代にも広げることで、自然と成果は上がるだろうと取材を通じて感じました。確かに、産業構造や雇用慣習、県域の広さなども都道府県によって異なるものと考えられます。官民連携プラットフォームによる協議と併せて、地域特性に応じた支援の在り方を検討し、加速化交付金を活用しつつ、進めていくことが求められます。

なお、「OSAKAしごとフィールド」では、子育て世代向けの就労支援として連携する民間の保育所も同一施設内に設置されており、子育て中の保護者でも就職活動ができる環境を整備していたり、高齢者や障がい者就労支援の窓口、若者サポートステーションやハローワークも同一フロアにあったりするなど、支援人員のセクションを超えた連携や企業情報の共有が図られていました。

4.基礎自治体の取り組み

市町村単位では、既存の施策の枠内で事業が進められることが多いようです。

筆者が8年間、議員を務めていた大津市を例にとれば、福祉と就労の連携を図るため、主に生活困窮者を対象とした職業紹介コーナーを労働局の協力の下、市役所内に設置してきました。市役所の福祉部局に相談に来られた方が、そのまま職業紹介コーナーに出向き、就労のために必要なアドバイスや、求人情報の提供・職業紹介サービスを受けることができる仕組みとなっています。

また同じ滋賀県内の野洲市では生活困窮者自立支援事業の一環として、手厚い就労支援事業を展開してきました。市民生活相談課が市役所内に設置された社会福祉協議会や関係部局と連携を図り、個々人の悩みや問題に対応し、「おせっかいする」ことを合言葉として伴走型の生活・就労支援に取り組んできました。この取り組みは「生活困窮者自立促進支援モデル事業」となっています。

こうした基礎自治体での既存の生活・就労支援の取り組みや、地域若者サポートステーションなどでの事業を通じて、これまでも長期無業者やひきこもり状態の方を対象とした支援施策が進められてきましたが、今後は都道府県との連携や、国が進める新たな施策、加速化交付金の活用などにより、なお一層の推進が期待されます。

(第7回に続く)

筆者プロフィール

藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリッククロス代表取締役。2003年の創業以来、若年層・就職氷河期世代の就労支援に従事。2011年より大津市議会議員(滋賀県)を2期務め、地域の雇用労政や産業振興に注力して活動。株式会社ミクシィの社長室渉外担当など歴任。著書・寄稿に「就職氷河期世代の非正規ミドルを戦力化する 人事実務、マネジメント」(2019年)など多数。京都大公共政策大学院修了。1978年生まれ。

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