福島の復興には世界の英知を結集せよ(中)

本田 朋(元福島県議会議員、GR Japan株式会社・公共政策マネージャー)

今のALPSで汚染水を完全処理することは可能なのか

実はALPSによる処理だけでは、汚染水からストロンチウムを含む多核種放射性物質が除去できないのではないかという懸念は、2017年ごろから一部の識者の間では囁かれていました。20188月に初めて、それまで東京電力ALPS汚染水処理でトリチウムを除く放射性物質は除去され、それが処理水として原発敷地内で保管されているとの説明に反して、実はトリチウムを除く放射性物質が除去し切れていないことが共同通信社と河北新報社にて報道されました。2017年度データだけでも海洋放出のための告示濃度限度を65回超過していることが、後に東京電力から発表されました。

これについて、濃度限度の詳細データは東電ホームページ上の巨大なCSVファイルで2017年から公表されていたと東電側は主張しましたが、あまりにも膨大な生データを分析加工もせず、その数値のもたらす意味の説明も無いままウェブ上に置いておいたから全面情報公開していますというのは、冷静に見ても強弁に聞こえるし、やはり告示濃度限度を超えている事実を隠しておきたかったからだと勘繰られても仕方ないと感じます。この残存した多核種放射性物質を含んだ汚染水データは積極的に示されることなく、実際、この報道の直後201883031日に福島市などで開催された公聴会は、現地の海洋放出大反対と残存多核種データ隠蔽についての厳しい意見が述べられ紛糾しました。福島県漁業協同組合連合会の野崎哲会長も風評被害への懸念を表明し、ステークホルダー間の調整が大失敗に終わり、政府・東電に対する信頼感が毀損された一つの残念な事例になったと言えます。

筆者は処理水の海洋放出の議論の是非は論じませんが、仮に全ての処理水において告示濃度限度が基準値を下回ったと仮定して、それで海洋放出への状況整備が整ったと言えるだけのクレディビリティー(信頼性)が今の関係省庁や東電にあるかどうか、国際社会からの厳しい目線を考えると大いに疑問の残るところです。

汚染水処理に世界の英知を使え

そこで、正に東電福島原発の廃炉過程において、最大の懸念とされている汚染水問題に関しては、中立的な第三者の目線、厳しい国際社会からの精査に耐え得る情報発信の在り方と世界レベルでの汚染水処理対策が急務なことは、火を見るよりも明らかです。そもそも東電福島第1原発は、米国ゼネラル・エレクトリック社の技術設計をベースにプラント開発が行われたものです。原子力エネルギー技術で世界最先端を当時から今日まで走る、米国の技術力に改めて注目しなければならないのではないでしょうか。米国においても、1979年にペンシルベニア州スリーマイル島で国際原子力事象評価レベル5の原発事故が発生しており、皮肉にも原子力危機対応のノウハウが40年蓄積されている事実があります。イオン交換樹脂研究では、世界随一の米国ピュロライト社など、世界から原子力エネルギーの専門家の技術力を招聘し、独自に福島県も連携を模索しながら廃炉作業に当たらなければならないと感じます。

国際コミュニケーション戦略立案の必要性

原田義昭前環境大臣は退任直前の記者会見において、現在原発敷地内に貯蔵されている汚染水を海洋放出して希釈すべきだと発言し物議を醸しました。主張の是非をここで論じることはしませんが、ALPSにおける一次処理だけでは、トリチウムはもちろんですが、ストロンチウムを含むその他の放射性物質も実は完全には除去されていないという大問題を前大臣が認識していたのでしょうか。深謀遠慮を巡らせた周到なコミュニケーション戦略が最後の記者会見でのステートメント(陳述)にあったのか、しっかりと議論を尽くしていくことが求められています。

小泉進次郎環境大臣は「セクシー」発言で一部批判を浴びましたが、筆者もロンドンの大学院で紀要に論文を寄稿した際、担当教授に「中身が退屈だから見出しはもっとセクシーにした方がよい」と指導を受けたことがあり、あまり違和感がなかったところですが、一方、米ニューヨークで「毎日ステーキを食べたい」との発言に、どのような大臣の意図があったのか理解しかねています。周知の通り、畜産、肉牛飼育による二酸化炭素(CO2)排出の地球への影響が極めて大きいことが研究で明らかになっており、是非はともかく環境活動家が菜食主義(ベジタリアニズム、ビーガニズム)を推奨している中、日本政府の環境大臣がニューヨークで毎日ステーキを食べたいと発言することが、国際社会において日本政府の環境問題への取り組みに疑問符が付けられてしまう要因となってしまったのは残念に思います。悪気はないと思いますが、国際舞台における一国の大臣として軽率な発言だったと指摘せざるを得ません。

次回へ続く

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