前回取り上げた調査から導き出された結果は、川崎市特有のものでしょうか。環境系ベンチャー企業のピリカ社は、同時期に川崎市以外にも国内外24カ所で調査を実施しています。
その調査結果を見ますと、全体の23%がこの人工芝と思われる緑色の棒状のプラスチック片でした。ピリカ社によると川崎よりも東京の方が人工芝の割合が多いそうです。
また、川崎市をはじめ都市部ではほとんど検出されず、地方で多く検出されたのが「農業用の肥料カプセル」であるとのこと(写真5)。ピリカ社も想像だにしなかった製品だそうで、まさに調査をしてみなければ分からなかったことです。
今回の川崎での調査で分かったことは、陸からプラスチックが流出していることと、人工芝が多く含まれていたという点にとどまります。しかし、今後同様の手法で調査を重ねていき、データが蓄積され、そこから新たな発見があるかもしれません。そうした意味においても、今回の調査に関しては一定の意義があったと自己評価しております。
人工芝と農業用肥料カプセルという不都合な真実
さて、マイクロプラスチックの由来として明らかになった「人工芝」と「農業用肥料カプセル」。両者についてどのように対応すればいいでしょうか。屋外の人工芝を全面的に禁止すべきでしょうか、肥料にプラスチック製品を使用するのを禁止すべきでしょうか。
ピリカ社ではこの調査結果を基に、幾つかの自治体や団体に課題解決の協力を依頼すべくアプローチしたところ、ことごとく無反応であったとのことです。当該自治体の首長がSDGsのバッジを着けていても、です。
不都合な真実に直面したときに、私たちの社会がどのような反応を示すのか。それは、社会の成熟度を端的に示していると感じます。
今回の調査結果はマイクロプラスチックの流出経路の一部を明らかにしたにすぎません。その結果だけを見て「人工芝の施設を無くせ」と主張するだけでは、問題解決には至りません。まずすべきは、科学的根拠に基づく調査を行い、その結果を社会で共有することではないでしょうか。社会問題は、行政だけでも企業だけでも解決することは難しいでしょう。
生活者たる市民も含めた社会全体が課題を認識すること、その上で対話を通じて問題解決の道筋を探ることが必要ではないでしょうか。
今回取り上げたマイクロプラスチックの問題に関しても、まずは流出しているプラスチックは何なのか、それは私たちの生活や産業の中でどういう位置付けなのかを理解し、共有することが必要です。そのために行政に求めたいのは、情報発信と対話の場づくりです。持続可能な社会、より良い環境を次世代に残すために、こうした結果を受け止めることから始めてほしいと願っています。
最後に、本調査に協力および、マイクロプラスチックに関する知見と情報を提供してくださったピリカ社(https://corp.pirika.org/)と、小嶌不二夫社長(写真6)へ謝辞を述べさせていただきます。