「こどもファースト」は不変の方針~柴橋正直・岐阜市長インタビュー(2)~

岐阜市長 柴橋正直
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2023/12/21 「こどもファースト」は不変の方針~柴橋正直・岐阜市長インタビュー(1)~
2023/12/25 「こどもファースト」は不変の方針~柴橋正直・岐阜市長インタビュー(2)~
2023/12/28 圧倒的なインプットが政策の土台に~柴橋正直・岐阜市長インタビュー(3)~
2024/01/05 圧倒的なインプットが政策の土台に~柴橋正直・岐阜市長インタビュー(4)~

 

「生き方をつくり出す力」を育む

小田 子育て政策は、基礎自治体によって大きく異なります。子育て世帯が移住を考える際、子育て環境がどのように変わるのかという点は重要なポイントとなります。岐阜市の「こどもファースト」政策は、移住・定住の促進という意味合いも含んでいるのでしょうか?

柴橋市長 前回お話しした草潤中は市外の方も受け入れており、隣接する愛知県から来られた生徒もいます。ただし岐阜市民になっていただくことが条件です。草潤中はあくまでも学ぶ意欲があり、将来の進学や自立を目指す子どもたちのための学校です。そういう意欲がある子であれば学区を越えてやって来ます。移住・定住の促進という観点で言えば大きな数ではありませんが、「草潤中に行きたい」という理由で岐阜市に移住する方は一定数おられるのではないかと思います。

 

小田 あくまでも中心に据えているのは、子どもたちの未来づくりということですね。

柴橋市長 私は、いわゆるばらまきで人を集める政策は一切しないと決めています。シビックプライド(注1)こそが大事だと考えているからです。岐阜というまちの歴史や自然、あるいは地域で活躍する志の高い人たちにじかに触れることで、子どもたちの中に生きる指針や学ぶ目的が生まれていくと思います。そうしたところから地域に対する愛着や誇りが形成されていくのではないでしょうか。

当市は、子どもたちが生き方をつくり出す力を育むための「ぎふMIRAI's」推進事業も展開しています。これは市全体を教室と見立て、まちの歴史や文化、自然、人、モノ、コトに主体的に関わりながら、子どもたちの中に生き方の指針とシビックプライドを醸成していくという取り組みです。

 

注1=岐阜市は「これまで積み重ねてきた岐阜市の歴史や伝統、文化、風土、あるいは先人の営みなどを大切にしながら、市民一人ひとりがこれからも岐阜の地で楽しく豊かに暮らし続けていくための原動力となる、まちへの愛着や誇り、まちに主体的に関わろうとする想いのこと」と定義している。

 

学校教育の在り方に多様性を

イメージ

 

小田 「こどもファースト」政策の今後の展開について、お話しいただけますか?

柴橋市長 25年度に小中一貫の義務教育学校を開校します。この学校では1年生から9年生まで、異年齢のコミュニケーションを通じ、年齢の低い子どもたちは自分の近い将来の姿を、年齢の高い子どもたちは自分が歩んできた足跡を、互いに見ることができます。

特に中学生という多感な時期に低学年の子どもたちと触れ合うことは、お兄さん・お姉さんとしての自立心や自己肯定感の醸成につながります。幅広い年齢の子どもたちが共に学び合うことは、いじめや不登校の減少にも効果的だとされていることから、ぜひ岐阜市で実現したいと思って進めてきました。私なりに、とても思いを込めた事業です。

もう一つ、「小規模校つながるプロジェクト」という事業も展開しています。少子化で児童数が減少した小規模校のデメリットを、GIGAスクール構想のメリットを活用して解消していこうという取り組みです。

三つの小規模校を共同の学園のように見立て、オンラインで一緒に授業を受けたり、一つの学校に集ってリアルな合同活動を行ったりします。小学6年生の修学旅行も3校合同で実施します。こうすることで多様なコミュニケーションの機会を創出できますし、教員不足の問題にも対処できます。

今や日本中で学校の統廃合が起きており、なくなる学校も多いことでしょう。このプロジェクトは小規模校がその特長を活かしながら、地域のコミュニティとして機能する可能性を探る取り組みです。廃校にせずとも多様なコミュニケーションを確保することで、従来の地域で子どもたちを育てていくことができるのではないかと考えています。

 

小田 各地域の特性に合わせた学校教育の在り方を探究されているのですね。

柴橋市長 多様な学校形態をつくることを意識しています。大規模校は校舎の増築や放課後児童クラブの増設で、少子化が急激に進んできた地域では義務教育学校や小規模校同士の合同活動で対応しながら、教育の質を担保します。

 

小田 親が子どもの特性に合わせて入学先を選べることになりますか?

柴橋市長 現状で特認校制度は設けていないので、その学区内に引っ越していただければ可能です。今後、各施策の運用が本格化すれば、学校ごとの特色がより出てくるようになるでしょう。そうすると、子どもの特性と照らし合わせた学校選びがしやすくなるでしょうね。

 

小田 義務教育学校も「小規模校つながるプロジェクト」も教育水準の高まりが期待できますね。

柴橋市長 教育水準は上がると思います。特に「小規模校つながるプロジェクト」は今年度から始まった事業で非常にアクティブです。「イエナプラン」(注2)の考え方を取り入れた校長先生を中心に熱心な取り組みが行われています。

 

小田 柴橋市長が掲げる「こどもファースト」政策は、子どもだけに焦点を当てるのではなく、子どもから全世代へと波及し、シビックプライドの醸成にひも付く、非常に広がりのある取り組みなのですね。

次回は市長就任に至る経緯や、まちづくりのビジョンについて伺います。

 

注2=ドイツで発祥し、オランダで広がった教育モデルの一つ。単なる知識の伝達にとどまらず、子どもの個性や主体性を重視する。異年齢グループでの活動や他者との対話、自ら立てた問いに対する探究を通じ、社会で他者と共に生きていくことの大切さを学ぶ。

 

第3回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年11月13日号

 


【プロフィール】

岐阜市長・柴橋 正直(しばはし まさなお)

1979年生まれ。阪大文卒。UFJ銀行を経て、2009年から衆院議員を1期務める。14年2月岐阜市長選に立候補するも落選。18年2月に再挑戦して初当選。現在2期目。

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