圧倒的なインプットが政策の土台に~柴橋正直・岐阜市長インタビュー(4)~

岐阜市長 柴橋正直
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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2023/12/28 圧倒的なインプットが政策の土台に~柴橋正直・岐阜市長インタビュー(3)~
2024/01/05 圧倒的なインプットが政策の土台に~柴橋正直・岐阜市長インタビュー(4)~

 

組織の風通しを良くするために

小田 組織マネジメントについて伺います。岐阜市の職員は約4000人に及びます。大きな組織を率いる上で、特に最近はどんなことを意識していますか?

柴橋市長 まず女性職員のキャリア形成に関することです。もともと岐阜市は女性の管理職比率が非常に低かったのですが、その理由は「試験を受けないと課長になれない」という仕組みにありました。女性職員が試験を受けることに控えめな態度だったため、必然的に管理職は男性で占められていました。

そこで私はルールを変えました。試験をなくし、課長は市長が指名できるようにしたのです。可能性を感じる職員にはどんどん声を掛け、遠慮することなくキャリアを重ねていけるようにしました。

とはいえ、女性管理職の目標比率に気を取られて無理に抜てきしたところで、その職員のためにはなりません。「急がば回れ」で一人ひとり、地道に声を掛けて増やしていこうとしています。志の高い女性職員が増えていけば、岐阜市役所はもっと強い組織になるだろうと思っています。

 

次に、職員同士のコミュニケーションに関することです。ハラスメント問題が注目される昨今では、気軽に声を掛け合うコミュニケーションが躊躇されがちです。庁内にもそうした雰囲気があったことから、二つの制度を導入しました。

一つは「Good Jobカード」です。管理職が一般職員の行動を称賛するときに使います。例えば窓口担当の職員が非常に良い接遇をしていたとします。その様子を確認した管理職は「今の対応は素晴らしかった」と職員を称賛し、カードを渡します。または、業務負荷の高い職員を別の職員が手伝ったことなども称賛に値するかもしれません。

こんなふうに職員の日頃の良い行いについてカードを使って認めていくことで、特に上司と部下のコミュニケーションが円滑になります。「今の仕事、良かったよ」と言ってカードを渡すことで、コミュニケーションの糸口をつくる取り組みです。ちなみにカードを多く集めた職員の表彰も行っています。

もう一つは「ワーク・ライフ・マネジメントシート」です。これは直接相談しにくいプライベートなことについて、自己申告できるものです。例えば今年は子どもが受験の年であるとか、両親の介護が必要になったことなどが該当します。あらかじめシートに記して申告してもらえれば、上司と部下の間で働き方について調整するための話し合いがしやすくなります。

このような制度を用意し、職場のコミュニケーションが円滑になるよう働き掛けています。

 

小田 わずかな遠慮や言いにくさの積み重ねは、組織を硬直化させます。ご紹介いただいた制度はそれらを解消し、組織の風通しを良くする仕組みですね。

柴橋市長 日頃のコミュニケーションツールとしては「マイクロソフト365」のチャット機能を導入しました。私から管理職には気になったことや、先回りして考えておいてほしいことなどをリアルタイムで連絡するようにしています。職員から私に対しての質問なども同様です。チャットでの素早いコミュニケーションも風通しの良さにつながっています。

 

小田 市長の考えも共有しやすいですね。

柴橋市長 ビジョンや問題意識はしっかりと示します。年度の初めには部長職の全員に指示書を渡し、1年間の取り組みのポイントは何か、どういった課題に取り組んでほしいかなどを共有します。その上で面談を行い、各施策に懸ける思いを伝えるようにしています。組織にとって最も困るのは、トップが何を考えているのか分からないことです。職員が迷わないよう、はっきりと方向付けをしておくことは非常に意識しています。

 

近隣自治体とウィンウィンの関係に

イメージ

 

小田 柴橋市長が描く岐阜市のビジョンとは、どのようなものでしょうか?

柴橋市長 若い人たちが人生の基盤を岐阜都市圏に置くことです。働く場や子育てしやすい環境があり、岐阜城など交流人口につながる地域資源も整備されている。まちににぎわいがあり、皆が課題だと思っていることには速やかに解決策が講じられている。このように良い方向へ変化し続けるまちを形にすべく、取り組んでいます。

「岐阜都市圏」と表現したのは、岐阜市とその近隣自治体がウィンウィンの関係になることが理想だからです。例えば岐阜市だけが良くなればいいとして、財政力を使って近隣から人口を引き寄せたとしても、県全体で見れば衰退することになります。そうではなく、近隣自治体と共に発展していくために何ができるかを考えるのが役割だと思っています。

 

小田 近隣自治体の首長とは関係構築を図られていると思いますが、どのようなコミュニケーションを行っているのですか?

柴橋市長 初当選してから就任まで3週間ほどありました。その間に近隣自治体の首長の皆さんを非公式に訪問しました。私の掲げる政策や、そこに懸ける思いをお話しさせていただき、共通の課題や互いにどんなことに取り組むかについて確かめ合いました。

互いに行き来すれば経済は活性化するでしょうし、若い人たちの良い意味での流動化も期待できます。ですから、共通の生活圏という意識で連携しましょうということになりました。近隣自治体の首長の方たちと早いうちに関係を構築できたことは大きいです。

 

小田 若い人たちからは、どのような意見が寄せられているのですか?

柴橋市長 20代の意識調査では「岐阜のまちが変化してきた」という声が多くなりました。30~40代の子育て世代は転入超過となっています。東京などの大都市圏へ一方的に人口が流出していく流れが止まり、違う流れになってきています。岐阜都市圏全体で発展していくようにと、行動でも言葉でも示し続けているので、そこは皆さんに信頼いただいているのではないかと思います。

 

小田 柴橋市長の戦略眼と行動量、そして人間性には感服します。

柴橋市長 衆院選に落選してから岐阜市長に就任するまでの5年間の浪人生活で得たものが大きかったです。所帯を持ち、子どもを育てながらの浪人生活でした。一市民としての実体験の一つひとつが財産になっています。

市内を自分の足で巡りつつ、消防団で活動したり、一般社団法人を立ち上げて発達障がい児の学習支援を行ったりしました。あらゆる人と向き合う中で、学ばされたことや気付かされたこと、成長させていただいたことが数多くありました。それらがすべて、今の私の土台となっています。

 

【編集後記】

徹底的にまちを見て歩き、人と対話し、地域課題を具体的な手触り感を伴う形で捉えた結果として生み出された柴橋市長の政策は、ビジョンと実現可能性の双方を兼ね備えた非常に精度の高いものでした。読者の皆さんは現場を見続けることの重要性を改めて認識できたのではないでしょうか。

 

(おわり)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年11月20日号

 


【プロフィール】

岐阜市長・柴橋 正直(しばはし まさなお)

1979年生まれ。阪大文卒。UFJ銀行を経て、2009年から衆院議員を1期務める。14年2月岐阜市長選に立候補するも落選。18年2月に再挑戦して初当選。現在2期目。

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