「反デジタル派」が取り組む自治体DX ~小野広暁・福島県磐梯町デジタル変革戦略室長インタビュー(2)~

福島県磐梯町 小野広暁
(聞き手)Public dots & Company 代表取締役 小田理恵子

 

2022/03/25 「反デジタル派」が取り組む自治体DX ~小野広暁・福島県磐梯町デジタル変革戦略室長インタビュー(1)~
2022/03/29   「反デジタル派」が取り組む自治体DX ~小野広暁・福島県磐梯町デジタル変革戦略室長インタビュー(2)~
2022/04/05 現場が中心のトランスフォーメーション~小野広暁・福島県磐梯町デジタル変革戦略室長インタビュー(3)~
2022/04/07    現場が中心のトランスフォーメーション~小野広暁・福島県磐梯町デジタル変革戦略室長インタビュー(4)~

 

「X」の意味

小田 昨今の風潮を見ていると、「何のために」の部分が置いていかれているような気がします。とにかくデジタルを使って変化を起こすことが目的になってしまい、それが原因となって自治体内にあつれきが生じているケースもあります。

小野氏 自治体でDXを推進するとき、最も簡単な方法は大手ベンダーにお金を払い、システムの構築と実装をしてもらうことです。例えば、ベンダーに全部お任せしたら住民向けの電子申請サービスができた、というような状態です。

確かにこういうケースは、デジタルによって何かが変わったように感じますが、実質的には何も変わっていません。自治体職員による能動的な変化ではなく、ただ外から与えられた変化だからです。

DXのX、トランスフォーメーションとは、自治体職員の考え方を抜本的に変えること、ひいては組織全体の体質改善だと私は思っています。

人や組織に変化を求めるためには、その人たちに直接働き掛けなければなりません。つまり、「町のため、町民のために一緒にやっていこう」と呼び掛け、職員同士のつながりを深めて良い方向に少しずつ動かしていくことになります。

組織は急には変化しませんし、何か新しいものを持ってきたときには「忙しいのに、なぜそんなものを持ってくるのだ」と反発を浴びることもあります。そのため、相当な忍耐力と熱量が必要です。

幸い、磐梯町役場の職員は素直に話を聞いてくれる方ばかりなので、協力いただける部分も多いです。もちろん大変な部分もありますが。職員が根源的に持っている「誰かのために」といった心を広げていければと思っています。

 

小田 小野室長がおっしゃることは本質だと思います。

DXは人や組織を育てるという部分から入らないと、行政のリデザインにまでつながりません。それは多くの場合、長期的な取り組みになるはずですし、外から見たときの評価軸も非常に見えづらいです。

これまで町民の皆さんや議会、特にデジタルに懐疑的な議員の方たちの理解を得るために試行錯誤されたかと思うのですが、どのようにアプローチしていったのですか?

小野氏 DXに関しては、初めにトップダウンがあり、その後にボトムアップで調整していく形で進めました。

首長の方針が住民の代表である議会で承認されれば、それを現場に落とし込んで実行するのがわれわれ職員の役割です。ですから、最初に町長が町のDXを行う明確な意志を示され、議会もそれに同意したという経緯があります。

民主主義の原則に照らし合わせると、議会で承認された町の方針に「ノー」と言うことはできません。決まったことに関しては、現場で業務の最適化を行って粛々と実行していくことになります。その「現場でのアレンジ」に関しては、ボトムアップで進めていきました。

強いリーダーシップを発揮する首長は、組織全体の大きな推進力になる半面、職員が付いて来られなくなる可能性があります。これは表裏一体です。ですから、方針を具体化して現場に落とし込むステップは、できるだけ丁寧に行わなければなりません。

基本的に人や組織は変化を嫌います。「今のままでよい」「新しいことに取り組むのは面倒だ」という声は必ず出ます。しかし自治体である以上、決定した事業はやらなければなりませんから、職員が取り組みやすいように調整には気を使っています。

ちなみに磐梯町では、町長も含めて全職員が「Microsoft Teams」を導入しており、チャットでコミュニケーションが自由にできる体制が築かれています。町長から現場へ、現場から町長へと情報伝達も早いです。

トップと現場の温度感が共有されているので、意思決定はスピーディーだと思います。

3段階のステップ

小田 「職員が取り組みやすいようにボトムアップで調整」とおっしゃいましたが、具体的にどんなことをされているのですか?

小野氏 BPRを行いました。一般的な「ビジネス・プロセス・リエンジニアリング」ではなく、「ビジネス・プロセス・リデザイニング」です。

業務プロセスはもちろんのこと、業務自体の見直し、そして条例や制度、組織文化なども含むシステムの洗い出しと再構築、さらに職員のリテラシー向上なども包含した組織全体のデザイン改革です。

その一環として使用することになったローコードツールがあるのですが、職員に紹介して一緒に使うということを地道に続けています。それで業務をひと回ししてみて、以前よりも省力化されたことを確認したり、省力化によってつくり出せた時間を町民サービスに充てられるようになったりするなど、小さな成功体験を一つずつ積み重ねている段階です。

 

小田 まずは役場内での成功体験を増やすということですね。この先の町のDXは、どのような計画で進んでいくのでしょうか?

小野氏 3段階のステップがあります。

まず第1段階は役場内部のDXです。町民の皆さんにトランスフォーメーションを促すには、まず役場で働く職員がデジタルを当たり前に使いこなし、その恩恵を肌で感じる必要があります。第1段階はその環境整備です。

第2段階では町民向けのサービスを実装します。あくまで、デジタル「も」使うことを想定しており、アナログかデジタルか、町民が心地よい方を選べるように設計する予定です。

それらを踏まえ、第3段階は町全体のDX、ここまで来ると「町のデザイン」になるかと思うのですが、こちらを進めることになっています。

今は第1段階の1.1か1.2くらいのところに着手している状態です。役場のサーバーのクラウド化など、デジタルが基本のインフラとして定着するよう環境整備を進めつつ、先ほども申し上げた通り、ローコードツールを使って業務に取り組んだりしています。

第2段階に位置付けられている町民向けサービスは、これまで地域デジタル通貨や高齢者向けのスマートフォン教室などを実施しました。いずれもまだ実証実験の域を出ていませんので、今後は常時提供できる可能性を探りながら、町民にもデジタルの恩恵を実感していただければと思っています。

磐梯町は高齢化率が約35%と、決してデジタルネーティブの世代が多い地域ではありません。それでも「デジタルを使ったら、暮らしがこんなに便利になった」という方が増えれば、町全体でデジタルの恩恵を享受することが当たり前になっていくと思います。

そうなれば、役場と町民のコミュニケーションに「デジタルも」という選択肢が加わり、誰にとっても一層暮らしやすく、また外からもアクセスしやすい地域になると思います。そんな将来像に向けて、今はひたすらコツコツと準備を進めています。

 

小田 今回の小野室長のお話からは、自治体DXが陥りやすい落とし穴と、本質の部分に触れることができました。「何のために」が抜け落ちたDXは、デジタルツールを使うこと自体が目的となってしまいがちです。

DXの心臓は「X」、より良い方向への変革であり、それを地域のセーフティーネット(安全網)である自治体が取り組むのであれば、おのずと「地域のビジョン」にひも付くはずです。

 

難解な専門用語や略語が多いため、つい「用語の意味を理解すること」「トレンドを追うこと」に意識が向きがちなデジタルの世界ですが、本稿の冒頭で小野氏が語ったように「人と人をつなぐこと」を起点に捉えることで、本来の使い方が見えてきます。

次回も引き続き、小野氏へのインタビューを通じ、自治体内にDXの概念をなじませ、文化にしていくプロセスを探ります。

 

第3回に続く

 


【プロフィール】

小野 広暁(おの・ひろあき)
福島県磐梯町デジタル変革戦略室長

福島県磐梯町出身、在住。1989年磐梯町役場入庁。前職の人事担当時に「デジタルは人間を分断する邪悪なツールである」と町長に進言するも、なぜか2021年4月よりデジタル変革戦略室長に命ぜられる。自身の頭の中は完全なアナログ思考。

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