「反デジタル派」が取り組む自治体DX ~小野広暁・福島県磐梯町デジタル変革戦略室長インタビュー(1)~

福島県磐梯町デジタル変革戦略室長 小野広暁
(聞き手)Public dots & Company 代表取締役 小田理恵子

 

2022/03/25 「反デジタル派」が取り組む自治体DX ~小野広暁・福島県磐梯町デジタル変革戦略室長インタビュー(1)~
2022/03/29   「反デジタル派」が取り組む自治体DX ~小野広暁・福島県磐梯町デジタル変革戦略室長インタビュー(2)~
2022/04/05 現場が中心のトランスフォーメーション~小野広暁・福島県磐梯町デジタル変革戦略室長インタビュー(3)~
2022/04/07  現場が中心のトランスフォーメーション~小野広暁・福島県磐梯町デジタル変革戦略室長インタビュー(4)~

 


 

2020年12月に総務省から「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」が発表され、翌21年9月1日にはデジタル庁が発足しました。

今や本稿の読者にとって、「自治体DX」「行政のデジタル化」といった話題に触れない日の方が珍しいのではないでしょうか。

自治体DXは官民連携の議論とセットになりやすい上、進化の早いテクノロジー業界に合わせるように次々と新たな情報が飛び交います。

恐らく読者の中には

「国の大方針であることは間違いないが、本当に自らの自治体にDXが必要なのか」
「デジタル化は現場に余計な混乱を招くのではないか」

と懐疑的な意見を持つ方も多いと推測します。

 

今回インタビューを行った福島県磐梯町の小野広暁デジタル変革戦略室長も、実はそんな意見を持つ公務員の一人でした。

小野氏は佐藤淳一町長がDX推進の方向性を示した当初、町長に直接反対意見を述べたといいます。「反デジタル派」の職員が、いかにして町のデジタル変革を取り仕切る役割になったのでしょうか。

首長の視点から事例が語られることの多い自治体DXを、本稿では職員の目線からひもといていきます。(聞き手:Public dots & Company 代表取締役/一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

人と人をつなぐ活動

写真 小野氏へのインタビューはオンラインで 行われた(出典:Public dots & Company)

写真 小野氏へのインタビューはオンラインで 行われた(出典:Public dots & Company)

 

小田 小野室長はもともと「反デジタル」の考えを持っていたと伺いました。デジタル変革戦略室長となるまでに、どのような経緯があったのでしょうか?

小野氏 おっしゃる通り、私はもともと「反デジタル派」を公言していた人間で、今もその考えは基本的に変わりません。

政府も含めて社会全体がDXやロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)、ビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)など、いわゆる流行り言葉に踊らされているような印象を持っており、どこの自治体もDXをやらなければならないような、悲壮感に包まれている気がしていました。

磐梯町の職員は町長にキャリアプランを提出する機会があります。

そこで私は町長に「デジタルは人と人とを分断する邪悪なツールです」と進言しました。そんなふうにDXに対し、かなりあらがっていたところ、21年4月にデジタル変革戦略室の室長に配属となりました。

町長の人事采配に驚きを隠せなかったものの、社会全体のDXの流れはもう止まらないと思いました。そこで自分なりに「DXとは一体何なのだ」ということに向き合ってみようと、書籍を買って読んだりウェブセミナーに参加したりしました。

そうすると見えてきたのが「自治体DXとは、人と人を分断することではなく、むしろ人と人をつないでいく活動である」ということでした。

行政と住民、その他関わる人たち全てを包含してつなぐことが本質だと理解したとき、町が目指している方向性と合致した感覚を覚えました。ですから今はデジタル変革戦略室長として、自治体DXに本腰を入れて取り組んでいるところです。

 

小田 DXを表面的に捉えると、デジタルツールを使うこと自体が目的になります。すると、「デジタルを使える人、使えない人」という分断が生まれます。

そうではなく、「誰かの不便や不満が解消され、暮らしの体験価値が向上する手段として有効であれば、デジタルも使えばいい」とする考え方が本質ですね。あくまで主軸は、DXの「X(トランスフォーメーション=より良い方向への変容)」にあります。「町が目指している方向性」とおっしゃいましたが、町のビジョンを教えていただけますか?

小野氏 「自分たちの子や孫たちが暮らし続けたい魅力あるまちづくり〜共創協働のまちづくり〜」です。

今はどこの自治体も、過疎と高齢化で数十年後にはなくなっているのではないかという状況にありますが、磐梯町も同じです。やはり関係人口や交流人口を創出し、まちの持続可能性を高めていきたいという思いがあります。

デジタル基盤が整っていれば、リモートワークやワーケーションを通じ、磐梯町に接点を持つ人が増えるかもしれません。そして一緒にまちづくりを考えてくれるかもしれません。最も理想的なのは移住してくれることですが、移住は人生に大きく関わることですから、そう簡単にはいかないと思っています。

とにかく磐梯町とつながっていただける「準町民」のような方々を、デジタルの力も使いながら増やしていければと考えています。

脱デジタル宣言

小田 磐梯町は20年7月に「デジタル変革戦略第1版」を公開しました。

この戦略は町のビジョンである「自分たちの子や孫たちが暮らし続けたい魅力あるまちづくり」を実現するため、デジタルをどう使うかという内容で、まずは地域や行政内でのデジタル基盤づくりに主眼が置かれました。

翌21年7月には「第2版」が公開されています(図)。第2版には「脱デジタル宣言」という記載があり、驚いたのですが、どういった意図で掲げられたのでしょうか?

 

図 磐梯町デジタル変革戦略第2版の表紙(出典:磐梯町)

 

小野氏 確かに第2版では「脱デジタル宣言」を行っています。

第1版は職員間のデジタル技術の活用とリテラシーの向上に重点が置かれていたのですが、これはあくまでスタートラインに立つための準備です。

第2版は改めて、何のためにDXを行うのか、本来の目的に立ち戻って「誰もが自分らしく幸せに生きられるようにまちをデザインすること」に重きを置いています。

ですから、脱デジタルとは「デジタルからデザインへ」という意味です。実際に、考え方も含めて行政をリデザインしなければ何も変わっていきません。

第2版には自治体の在り方そのものを、デジタルも使いながらゼロベースでデザインしていく指針が書かれています。

 

小田 行政をリデザインする上で、デジタルはあくまでも手段の一つだということですね?

小野氏 その通りです。デジタルは手段であり、目的ではありません。アナログのままで済むものをわざわざデジタル化したり、アナログの温かみを捨て去ったりする必要はありません。

ケース・バイ・ケースで、状況に応じて選択していけば良いと思います。

 

(第2回に続く)


【プロフィール】

小野 広暁(おの・ひろあき)
福島県磐梯町デジタル変革戦略室長

福島県磐梯町出身、在住。1989年磐梯町役場入庁。前職の人事担当時に「デジタルは人間を分断する邪悪なツールである」と町長に進言するも、なぜか2021年4月よりデジタル変革戦略室長に命ぜられる。自身の頭の中は完全なアナログ思考。

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