「前向きな空気」でまちを満たす~都竹淳也・岐阜県飛騨市長インタビュー(1)~

岐阜県飛騨市長 都竹淳也
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2023/10/18 「前向きな空気」でまちを満たす~都竹淳也・岐阜県飛騨市長インタビュー(1)~
2023/10/20 「前向きな空気」でまちを満たす~都竹淳也・岐阜県飛騨市長インタビュー(2)~
2023/10/23 小さくても「楽しい」まちへ~都竹淳也・岐阜県飛騨市長インタビュー(3)~
2023/10/26 小さくても「楽しい」まちへ~都竹淳也・岐阜県飛騨市長インタビュー(4)~

 


 

「本市は全国の人口減少の20~30年先を進む『人口減少先進地』です」

「人口減少を止めようとすることは不可能であり、即効性のある対策も秘策もありえないことから、現実を見据え人口減少を真正面から受け止めた上で、少しでもその減少スピードを緩やかにするための『積極戦略』と、次々と出てくる新たな課題に臨機応変に迅速に対応する『適応戦略』の両輪が不可欠であると考えます」

岐阜県飛騨市の総合政策指針には、このような記述があります。同市の都竹淳也市長は、県職員時代の2007年から人口減少を前提とした政策の推進に携わってきました。「人口は減るもの」という認識の下に進められるまちづくりとは、一体どのようなものなのでしょうか。詳しく伺いました。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

人口減少を真正面から受け止める

小田 飛騨市は「人口減少先進地」を標榜し、早い段階から観光政策や関係人口の構築に取り組んでいます。まずは都竹市長が人口減少をどのように捉えているのか、お聞かせください。

都竹市長 「人口は減るもの」というところから地域づくりを始めるのが、私の考え方の根幹です。

私はかつて岐阜県の職員でした。05年に古田肇知事が就任した際に秘書を務めた後、知事から政策担当を命じられ、向こう10年の県政の指針を作ることになりました。そこで私は、政策の基軸になるようなメッセージ性の強いテーマとして「人口減少」を取り上げることにしたのです。人口に関しては徹底したデータ分析が不可欠なので、若手の職員たちと研究会を立ち上げ、共に勉強を始めました。

行き着いた結論は、人口減少を反転させることは現実的には困難だということでした。少子化対策が大成功しても、少なくとも向こう100年は人口が減少し続けます。

このため、当時作成した県の長期構想は、人口減少を前提として受け止めるところからスタートしたのです。当時、人口減少を真正面から受け止める計画は全国でもほとんどなく、非常に特色のあるものになりました。

あれから17年以上がたちましたが、私の考えは変わっていません。市長に就任してからも「人口減少に歯止めをかけます、反転させます」と言ったことは一度もありません。

 

小田 そのような考え方から生まれる市政のテーマとは、どんなものなのでしょうか?

都竹市長 「人口減少を受け止める」とは、「人口減少によって出てくる課題を正面から捉え、徹底的に対応する」ということです。一言で表すと「課題解決型の市政」です。これが最も大きなテーマです。

「課題解決」という言葉は何となく後ろ向きに聞こえるので、新たな施策を打ち出して前向きな空気をつくり出すことを意識しています。市長になってすぐに、飛騨市のような小さなまちは「空気感」に左右されると感じるようになりました。前向きな雰囲気になれば、まちが一気に動く一方で、後ろ向きな雰囲気になると一気に停滞してしまいます。ですから意識的に新しいことにチャレンジし、地域課題の解決に前向きに取り組む姿勢を見せています。

 

まちのあらゆるものが資源

小田 具体的には、どのような取り組みをされたのですか?

都竹市長 例えば関係人口の拡大では「飛騨市ファンクラブ」(写真1)、「関係案内所・ヒダスケ!」(写真2)という二つのプロジェクトがあります。これらは飛騨市に心を寄せてくださる方々を可視化し、まちづくりに主体的に関わる市外の人を増やす取り組みです。

「飛騨市ファンクラブ」の会員は1万2000人を超えました。この方たちは市内の宿泊施設や飲食店で特典が受けられるほか、ファンの集いなどに参加し、飛騨市への思いを形にしてくれています。

そこから生まれた「関係案内所・ヒダスケ!」は、人手不足など市内の困り事をプログラム化し、「お手伝い」に来たい方々とのマッチングを行う仕組みです。イベント運営や農作業、景観の維持といった「お手伝い」に参加すると、地域通貨や食べ物などの「お返し」がもらえるのです。こちらも参加者が年々増え、昨年度は延べ630人を超えました。

人口が減れば、地域の担い手は当然少なくなりますが、それを暗い話と受け止めず、楽しく地域に関わっていただけるような人を増やす仕組みをつくろうということです。

 

(写真1)飛騨市ファンクラブのチラシ(出典:飛騨市)

 

地域経済の維持という観点では「広葉樹のまちづくり」があります。飛騨市の森林率は93.5%ですが、際立った特徴はその約7割が広葉樹であることです。

戦後に育ってきた広葉樹は細く曲がっているため、柱にも建材にもならず、安価な木材チップとして燃やされていました。これを洗練された家具や建物の内装などにして、お金を生み出そうという取り組みです。

これも実績が上がってきました。

こうした地域資源の魅力を徹底的に掘り起こすことで、人口減少で地域内消費が減っても地域外からお金を稼ぐことができます。同様の考え方で「薬草のまちづくり」にも取り組み、雑草が重要な観光資源になりつつあります。

 

(写真2)ヒダスケ!のトップページ(出典:飛騨市)

 

小田 まちのあらゆる物事を地域資源と捉えているのですね。

都竹市長 地域資源の徹底的な掘り起こしは、就任当初から一貫して取り組んでいます。掘り起こせば、いくらでもあると思っています。例えば食に関しても、飛騨牛やトマト、ホウレンソウなどは定番ですが、実は米も全国的なコンクールで最上位に入賞するほど質が高いのです。ですから「世界一美味しいお米が育つまち」としてプロモーションした結果、知名度がだんだんと上がってきました。

それからアユです。7年前に、アユ釣り名人として全国的に知られる室田正さんが市内に移住しました。室田さんは「全国のありとあらゆる川でアユを釣ってきたが、間違いなくここが一番だ」と言って移住されたのです。そこで一緒にアユのブランディングを進め、今では豊洲市場に出荷するまでになり、東京の一流料亭でも取り扱っていただけるようになりました。地域内のアユの卸値は1匹当たり300円ほどですが、東京では1000~1500円になります。

あらゆるものが資源だと考えれば、観光面でも工夫ができます。市内には「スーパーカミオカンデ」というニュートリノの世界的な実験施設がありますが、施設内の見学は限定されています。そこで市が展示施設を道の駅に整備しました。こうすることで、見学不可能な実験施設を観光資源にしたわけです。

廃線になった旧神岡鉄道を自転車で走る「レールマウンテンバイク Gattan Go!!」の拡充にも力を入れています。ここは昨年、約6万5000人が訪れており、県内の体験型アクティビティーの中でも非常に存在感を放つようになりました。収益も伸びています。いわば「お荷物」だった廃線鉄道をこうして活用することで、元気な高齢者の活躍の場所にもなっています。

 

小田 人口減少を真正面から受け止めて取り組んできた成果が表れているのですね。

都竹市長 政策はすぐには形にならないので、粘り強く続けることが大事です。花が開くまでには早くても1年、長ければ4~5年はかかるでしょう。その間に経験を積んでいきます。それが「積み上げる段の高さ」になります。もちろん一段高ければ成果は早く出ますし、低かったとしても着実に積み上げることで成果が見えてくると実感しています。

 

第2回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年9月11日号

 


【プロフィール】

岐阜県飛騨市長・都竹 淳也(つづく じゅんや)

1967年生まれ。筑波大社会学類卒。89年岐阜県に入り、知事秘書、総合政策課長補佐、商工政策課長補佐、障がい児者医療推進室長などを歴任。2016年同県飛騨市長に初当選し、現在2期目。

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