すごく戦略的でアートなまちづくりですね。

 

大きな予算を使って文化政策をしてください、文化ホールを作ってくださいということではなく、町工場とアートを組み合わせて付加価値が高いものづくりをするなど、色々なやり方があると思うんです。

実は、これまでの政治活動の中で、“アート”を前面に出してきたことはありませんでした。「あの人はアーティストだからね」と言われてしまうと、他の政策の話もできなくなってしまうと思って。でも、2期目になって、少しずつアーティストと政治家をつなぐ仕事もしてきて、「そろそろ自分を出してもいいかな」と考え始めています。

板橋区議会press

デザインの力でわかりやすく行政を伝えている 政策チラシ「板橋区議会press」

 

アートは生活や社会から少し距離があるものだと、みんな思い込んでいるのかもしれませんね。南雲さんのおっしゃる“アート”は、すごく広義に聞こえるんです。0から1を生み出すような“アート”。政治の世界こそ、広義の意味の“アート”の文脈・概念・哲学を持った方が良いと、私は思っています。アフターデジタルという社会では、フィジカルよりも、心や関係性、アートや哲学などといった概念的なものを大事にし始めるのではないでしょうか。それらこそが、まちづくりや社会づくりの根本になると思っています。

 

私はアーティストだったんですけど、アート自体をどうにかしようとは思っていなくて、この街をどうかしたい。アーティストをはじめ、アイデアとかモノの見方が周りと違う人って、生きづらさを感じるんです。それを仕組みから変えたい。自分の子どもがいずれ大人になって、「どうしてもアーティストになってしまった」として、生きづらさを感じずに生きていける世の中にしておきたいんです。

 

生きづらいって、結構たくさんの人が思っているのでは。でも、次の時代はきっと、生きづらさを感じない世の中になっていることに、賭けてみたいものです。

 

アートをやってきた人が政治家にもっとなっていったらいいと思っています。民間のビジネスが分かる人が政治の世界に入ると、行政改革ができるという感じで。アートを政治や行政に活かせる場面、そして生きづらい世の中を変えられるタイミングは必ず来ます。今回のコロナ禍のように、価値観が変わる時というのは、0から1を生み出すような概念的なものにとってすごくチャンスだと思います。

 

私もスタートアップ企業にいると、すべて0から1を生む仕事なので、先がまったく見えない。だからこそ、必死になって“アート”を探しています。南雲さんの話って本当に深い。アーティストとしての自分を“アート”している南雲さんを感じています。

 

昨今、モヤモヤとしたことの多い日々ですが、そのモヤモヤからある日パッと意見や考えを出せる場所をつくっていくことが大事だと考えています。実は、問いやモヤモヤを世の中に投げかけるのもアーティストの仕事。フランス人のアーティストである、クリスチャン・ボルタンスキーが、「アートは答えではなく問いである」と話していて、すごく分かりやすい言葉だなと。アーティストは、作品を作る時、答えを考えてはいないんですよ。世の中に問いかけ続ける仕事として、政治はアートとかなり近いことになりますね。今後は、“ライフワーク”として、アートと政治の関係について研究していきたいと考えています。

 

アートと哲学的思考を兼ね備えた南雲議員。彼女の発想はこれからの社会をデザインしていくのに不可欠な何かを持っていると感じています。今年の春、彼女に高知県仁淀川町の関係人口創出のためのイベント企画に携わってもらいました。彼女からの提案は、渋谷から地元の人に、仁淀川の青をイメージした、「青い手紙」を書いて送ろうというもの。冒頭のポートレートの背景にあるのが、その手紙たち。これらは仁淀川町に送られて、町民の皆さんに読んでいただいています。今後、この手紙を媒介にした町民とイベント参加者の更なる関係性構築の企画も進行中です。

 

 

これからの社会では、政治や行政の分野においても広義のデザインや哲学が不可欠なものになると肌感で理解しているのですが、うまく言語化が出来ない中で、南雲議員にインタビューをお願いしました。ゆえに、この記事だけでは、彼女の魅力や頭の中を伝えきることは難しかったです。どうやって文章にすればいいのか、どうやって記事にしようかとずっと唸っている姿を見て、「そういうモヤモヤを投げかけるのもアーティストの役目」だと南雲議員は言うのです。

アートと政治、両方の世界で問いを投げかけ、答えを探し続けていく南雲議員が、これから議会で輝いていく姿がとても楽しみです。

 


 

【プロフィール】

板橋区議会議員

南雲 由子(なぐも・ゆうこ)

山野美容芸術短大卒
東京芸術大学卒(先端芸術表現科)
東京大学大学院修了(文化政策)

文化芸術によるまちづくりと空き家活用を実践。3歳児子育て中。
2015 年初当選(維新の党、解党後無所属)。
子どもの貧困対策調査特別委員会 副委員長、都市建設委員会・区民環境委員会 副委員長などを歴任。

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