新時代に挑む─公務員研修の新たなカタチ(4) 〜公務員・民間・市民が共に学び合い、より良いまちをつくる時代へ〜

一般社団法人公民連携活性化協会代表理事・古田智子
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子

 

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世界でも求められる公務員のイノベーション

小田 新しい価値観を持ち込もうとすると、既存の仕組みを否定して「スクラップ・アンド・ビルド」したくなるものですが、古田さんは従来の人材育成の枠組みとの共存を目指しているように見えます。自分がやりたい方法を押し付けるのではなく、今の人材育成体系の中に新しいプログラムを上手に位置付けしているのは、自治体職員研修歴20年の古田さんの知見が生きていますね。

古田 自治体で何か変革を起こしたい場合、公共行政に通用するロジックに基づき、少しずつマイナーチェンジしながら実装していくという段取りも非常に重要です。そこで今回使ったロジックは、経済協力開発機構(OECD)が提唱する「公共人材がイノベーションを起こすのに必要な六つのスキル」です。

イノベーション(革新)が求められているのは、日本の公務員だけではありません。OECDによれば、世界の自治体でも「イノベーションを起こす公務員の育成」は急務とされています。これを軸にしてプログラム設計の論拠としたわけです。

 

小田 その六つのスキルは、自治体の人事課の方はよくご存じなんですか?

古田 いいえ。この六つのスキルが発表されたのは2017年で、和訳されていないこともあり、まだほとんどご存じの方はおられないようです。日本では、これから普及していくタイミングなのかもしれません。

六つのスキルとは、①反復②データリテラシー③ユーザー中心主義④好奇心⑤ストーリーテリング⑥反逆・現状への挑戦──です。これらを単独もしくは組み合わせて身に付けた職員同士が、まずは自治体の進むべき方向性を共有します。その上で所属での役割を果たしつつ、一方で所属の垣根を時には越えて連携することで、自治体であってもイノベーションを起こすことができるというものです。

 

小田 インターネットの普及で世界がつながり、人や経済がつながり、世界の価値観やライフスタイルが混ざり合ってきています。だから日本だけが例外ということはなく、この六つのスキルはどこの国でも必要になってくるものですよね。

古田 そうなんですよ。世界中の公務員をOECDが調査した結果、導き出されたスキルなので、日本の公務員にも当てはまるはずです。

 

小田 社会が変わり、公務員も変わらなければならない。でも、世界も同じ状況だと知れば、日本の公務員の方々も安心されるかもしれませんね。

古田 そうですね。世界中の公務員が今まさに、わが国と同様にDXへの対応を迫られるなど、新しいことに取り組み始めているわけですね。

 

小田 心の持ちようやコミュニケーションの在り方など、公務員の仕事の在り方そのものが世界中で変わると考えると、とても大きな話ですね。

公務員の人材育成は、新時代へ

小田 これまでお話ししてきたように、自治体を取り巻く環境が大きく変わり、公務員も市民をはじめとするステークホルダーとの関わり方を、リデザインしていく必要に迫られています。そのことに気付いた職員が各地で活動を始めていますが、まだ組織に組み込まれるまでには至っていません。

社団にも「どうしたらよいでしょうか」という相談が寄せられますが、その際に皆さん、他の自治体の成功事例を知りたがるのですよね。

古田 事例は参考にならないですよね。

 

小田 はい。地域との関わりや対話方法は、地域の性質や歴史や人間関係によって変わります。また結果だけ見ても模倣することは難しく、そこに至るプロセスはこれまた地域によって変えていくべきだと思うので、「地域性があるので事例を見過ぎない方がよい」とお伝えしています。その上で、伴走しながら各自治体の職員が相談し合う「官官連携」の場を提供しています。

各自治体の現状や悩みを共有し、伴走しながら「この自治体の悩みは、この自治体と対話したらどうだろうか」「ここは民間のリソースを活用しよう」などと提案しています。職員一人で考える必要はなく、自治体が連携して一緒に創っていければよいと考えています。

古田さんと一緒に構築している新たな研修プログラムも、外と関わる、交わるために、プログラム自体が他の自治体と協働する設計ですよね。

古田 はい。公務員の人材育成プログラムに関しては、まだまだこれからではありますが、いきなりガラッと変えることを求めるのではありません。現状で実施可能なところから、階段を一段ずつ上るようなプログラムを作り、多くの自治体職員に知っていただきたいと思っています。そのプロセスの中で、他都市同士で研修に参加するような流れをつくっていければという設計思想です。

いずれは地域住民やステークホルダー、他都市の職員を呼び合うことも考えていますが、いきなりは非現実的なので、まずは自治体のことをよく理解した研修講師を増やそうと考えています。

 

小田 私と古田さんが違う団体の所属であるにもかかわらず、一体化して活動しているように、目指す方向性や認識が一致していれば、違う組織にいても一緒に歩ける社会になりました。

公務員だから、民間だから、市民だからということではなく、「このまちを良くしたい」「この課題をみんなで解決したい」といった共通の目的に向けて、共創していきたいですね。そうしないと前に進まない時代でもあると思うので、これからもぜひ一緒に歩んでいきましょう。

 

対談後記(小田)

「なぜ異なる団体なのに一緒に事業を行っているのか」「なぜ自治体の人材育成を二つの団体で手伝っているのか」と疑問に思われた方もいらっしゃるかもしれません。異なる組織や団体が緩やかな連携を通じて課題解決に当たる「共創」は、こうした組織の壁を凌駕します。

私たちも自ら他者と交わり、価値を創造するチャレンジを続けているのです。社会課題を受け止める最後のとりでである自治体の変革は、住民であるわれわれにも、その責があります。

 


【プロフィール】

小田理恵子小田 理恵子(おだ・りえこ)
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事

2011年から川崎市議会議員を2期8年務め、20年官民共創未来コンソーシアム設立。本メディアをコーディネートする(株)Public dots&company代表取締役社長も務める。

 

 

古田智子古田 智子(ふるた・ともこ)
一般社団法人公民連携活性化協会代表理事

慶応大文学部卒。総合コンサルティング会社に入社後、中央省庁・地方自治体の官民連携事業に25年携わる。2013年(株)LGブレイクスルー創業。16年公民連携活性化協会設立。

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