SDGsに見る、官民連携から官民共創へのシフト(1)

株式会社Public dots & Company代表取締役
伊藤大貴

2020/7/17 SDGsに見る、官民連携から官民共創へのシフト(1)
2020/7/20 SDGsに見る、官民連携から官民共創へのシフト(2)
2020/7/22 SDGsに見る、官民連携から官民共創へのシフト(3)
2020/7/24 SDGsに見る、官民連携から官民共創へのシフト(4)


2019年8月、経済産業省が1本の政策提言レポートをウェブサイトに公開しました。それが「21世紀の『公共』の設計図」です。サブタイトルには「ちいさく大きいガバメントのつくりかた」とあります。非常に重要なレポートなので、本稿冒頭では、このレポートを少し解説しつつ、これから起きる官と民の関係性の変化を読み解きたいと思います。

それは一言で表せば、官民連携から官民共創へのシフト、です。行政と企業の関係が連携(パートナーシップ)から共創(コクリエーション)に移行し、公共サービスの在り方もビジネスの在り方も大きく変わる可能性があります。こうした変化を後押しするのがSDGs(持続可能な開発目標)です。この社会の変化を適切に捉える自治体と、捉えられない自治体では都市経営に大きな差が生じていくはずです。どういうことかは、後ほど触れましょう。まずは「21世紀の『公共』の設計図」を見てみたいと思います。

国が認めた行政の限界

「21世紀の『公共』の設計図」には、自治体にとっても企業にとっても、ハッとさせられる言葉が載っています。例えば、こんなくだりです。「政府が公共の一切を管理し運営する社会では、サービスの質が低下してしまう」。ここでいう政府は行政を意味しますから、自治体とも置き換えられるわけですが、要は公共サービスを行政が担う今までのやり方だと、住民ニーズに合ったクオリティーを出すことが難しくなっているということを言っています。

地方自治法の「最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」(第2条第14項)を達成するのが難しい状況にある、ということを中央省庁が公式レポートで認めるというのは非常に衝撃の大きいことでした。もっとも口にこそ出さないものの、自分たちが提供する公共サービスが市民ニーズを満たしにくくなっている状況に葛藤している自治体があるのも事実です。

こうした問題意識は今に始まったわけではなく、2000年代初頭から議論されていたことでした。振り返れば、市場化テストや指定管理者制度、ネーミングライツ(命名権)、PFI(民間資金活用による社会資本整備)、PPP(官民連携)など公共サービスを民間企業に担ってもらおうとする動きが活発になってきたのは、ここ十数年のことです。その背景には、公共をマーケットに任せるという考え方がありました。つまり、ビジネスの世界は競争原理も働くし、その切磋琢磨の中でより良いサービスが適正な価格で提供されるという一般的な印象から、これを公共サービスに適用すれば、「最少のコストで最大の効果を挙げる」ことができるだろう、という考え方です。

実際にこれまでの官民連携は果たして、本当の意味で社会を変えてきたでしょうか。一部に成功事例はありつつも、総じて言えば、「否」と言わざるを得ないでしょう。「21世紀の『公共』の設計図」でも、こう続きます。「資本主義経済における市場原理に任せてしまうと、どうしても『お金が儲かる』サービスだけが生き残っていくことになる。サービスが民間の運営に任されてしまうことで、『社会にとって重要な価値を持つもの』よりも、『お金が儲かるもの』が、より重視されてしまう」

この感覚は自治体で官民連携事業に携わったことのある人であれば、大いに共感する部分かと思います。今でこそ仕組みとして当たり前になったが、指定管理者制度やネーミングライツが導入された初期の頃は、「公有財産を一企業の利益の材料にするのはいかがなものか」という論調は議会の中でもありましたし、行政職員にも葛藤がありました。悩みながらも、自治体の財政状況、将来の見通しを考えたときに背に腹は代えられないという判断から各種公民連携に踏み切ってきたものの、その過程で行政と企業のロジックの違いによるミスコミュニケーションと、それに起因して生じた市民との摩擦によって自治体も企業もダメージを受けるといった事例は少なくありませんでした。

第2回につづく


プロフィール
伊藤大貴(いとう・ひろたか)
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。

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