地方の生き残りを懸けた観光戦略とブランド戦略の在り方(2)

鹿児島県議会議員
米丸まき子

2020/5/29 地方の生き残りを懸けた観光戦略とブランド戦略の在り方(1)
2020/6/1 地方の生き残りを懸けた観光戦略とブランド戦略の在り方(2)
2020/6/3 地方の生き残りを懸けた観光戦略とブランド戦略の在り方(3)

 (本稿は新型コロナウイルス感染症が社会問題に発展する前に執筆したものです)

〜鹿児島県のブランド戦略を通して〜

世界の富裕層を意識しないPRはあり得ない

 では、どうやって「鹿児島の価値を高めるか?」。各市町村が、経済的にも人的にも余裕があった時代は、「個」を売り出すことができたでしょう。しかしながら、どこの自治体も財政的に苦しい状態が続いています。経済が厳しい中であれば、PRポイントは絞る必要があります。いわゆる「選択と集中」です。そして、抽出した「情報」を効率よく繋ぎ、ブランドづくりにユーザーを巻き込むことが大切です。「個」は足し算ですが、「情報」は掛け算なので、情報を軸にして大きな投網で認知度を拡大できます。

 私は、この方式を利用し、「鹿児島ブランディング」の軸に据えた「鹿児島ウオータープラットフォーム」という、鹿児島ブランディング財政活性化案を持っています。

 これまで、陸を中心に考えられてきた鹿児島の経済圏や観光資源を、「海」という大きなスケールの視点で捉え直そうというものです。その第一歩として①ツール・ド・錦江湾②水上タクシー③スーパーヨット──という案があります。

①ツール・ド・錦江湾

 活火山である桜島を囲む錦江湾は、ぐるりと6市と2町が取り囲んでいますので、錦江湾を介し、62町を縫い合わせた場合、大きな経済圏が生まれます。

 そこで、この桜島ウオータープラットフォームを利用したアイデアの一つが「ツール・ド・錦江湾 自転車サイクリング大会」です。

 サイクリングイベントは、費用対効果の面から非常に大きな経済波及効果を生むといわれています。例えば、四国瀬戸内のしまなみ海道は、「サイクリストの聖地」として世界に広く知られています。

 2018年に行われた〝サイクリングしまなみ〟は大会開催を通じて、日本のみならず26カ国7215人の参加者があり、93300万円を超える経済波及効果があったそうです。

 私が考えているツール・ド・錦江湾は、費用対効果が高いだけでなく、それぞれの市町村が連携して行うことで育つ絆や、鹿児島へのリピーター客の獲得に加え、観光価値が高まるイベントです。参加者は、この見応えある風景やここでしか食べられない新鮮な食事、地元の人々の熱い人情をSNS(インターネット交流サイト)に必ずアップするでしょう。消費者と一緒につくり上げるブランディングです。

②水上タクシー

 次に、この桜島ウオータープラットフォームに水上バスや水上タクシーを走らせてみるとどうなるでしょう。

 イタリアのベネチアのように、水路網を桜島ウオータープラットフォームに縦横無尽に走らせれば、鹿児島ブランドの一員として強いシンボルにできる可能性があります。世界には観光客を魅了するハーバー(港)があります。人が行き交うようになれば、素敵なレストランやカフェ、お店が求められます。まさに、経済圏が生まれるのです。

 水辺をブランドにして成功している例は、ベネチア、香港、近年ではシンガポールのマリーナベイサンズ、日本でも瀬戸内海など、たくさん存在しています。もし、錦江湾沿いにある港、例えば鹿児島港、加治木港、垂水港、指宿港等でマリーナが発展していきますと、この動きが屋久島、種子島、奄美などといった鹿児島の離島に広がっていくのではないかと期待しています。

③スーパーヨット

 スーパーヨットとは海外の富裕層が所有する、全長24㍍以上の大型クルーザーです。例えば、2015年に瀬戸内海などをクルージングした船が、たった1隻で、1カ月に4500万円もの支出をした事例があります。寄港による経済的効果としては、寄港時の食事や観光、土産物の購入、船のメンテナンスや給油などの直接消費に加え、関連インフラの整備、滞在中の利用を狙った新しいリゾート開発が進むなど経済の濃い循環が生まれています。このような例があるため、世界各国がスーパーヨットの寄港拡大に向けた取り組みを活性化させています。

 また、一般的にスーパーヨットの所有者である超富裕層と呼ばれる人たちは、世界中を旅して周り、大変探究心の強い人々だといわれています。そういった、人々がたくさん訪れる場所には、お金だけでなく、新しい知識や情報も集まるようになります。私は、それらを鹿児島の子どもたちの成長のために役立てたいのです。ただでさえ厳しくなる今後の日本の中で、彼らが強く賢く将来を生き抜くために、知恵や知識を提供できる後ろ盾として、強い経済圏をつくりたいと考えています。

第3回に続く


プロフィール
米丸まき子(よねまる・まきこ)
鹿児島県議会議員
1975年生まれ。鹿児島県姶良市出身。亜細亜大経営学部、英国ブライトン・ビジネス・スクール(MBA経営学修士)卒業。ブランドコンサルティング会社を経て、2007年鹿児島にUターン。家業である葬儀社と旅行会社で、経営に従事。12歳の時マーガレット・サッチャーの「争いもなく幸せに生きていけるようにするのが政治です」という言葉に触れ、政治家への志が芽生える。2019年4月鹿児島県議会議員に初当選。

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