コロナ禍における地方自治体変革の方向性 三重県「スマート改革」を通じて見る、地方自治体の現在地(前編2)

三重県スマート改革推進課長(令和3年3月時点) 横山啓

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2021/04/07  東京一極集中の是正とデジタル社会形成の関係(後編2)


地方自治体が抱える閉塞感とこれからの公務員のキャリアパス

最近のニュースで、中央省庁の若手官僚の離職増加や過労死ラインを超えている職員の割合の多さについてご覧になった方も多いだろう。

国会業務の非効率さ、官邸主導による業務量増大など、さまざまな要因が指摘されているが、霞が関の労働環境が民間と比べて相対的に良くないことは、ある意味「周知の事実」であり、それを認識しつつも「あえて国のために働きたい」という志が勝っていたからこそ、優秀な学生は中央省庁を志望していたのだと思う。

現在、そのような志が折られるような状況に置かれ、若手官僚の退職が増えている状況を目にしたとき、地方自治体についても全く他人事ではないと危機感を覚えている。

三重県のスマート改革検討チームが持っている危機感は、若手官僚と共通であり、「本当は地域のために働きたいのに、内部の調整業務があまりに多い」「やる気のない上司が多い」「結果として自分のやっていることは何のためになっているのか分からない」といった、持っていきようのない不満が「提言」からは見て取れる。

このような閉塞感に対し、直ちに対応しなければ優秀な人材の流出は止まらないが、既に状況はかなり厳しい。

むしろ、今後相当数の人材が行政から流出することを前提に、官民の人材の流動性を高める「リボルビングドア(回転扉)」に舵を切る方が現実的ではないか。行政から民間に行った人材が、その後また行政に戻りその経験を生かすことは、今後人的リソースを確保する上で不可欠であるし、ますます普通のこととなると考えている。

スマート改革が、働き方の見直しを一つの柱としているのは、これが公務員という世界が抱えている閉塞感を打破するために不可避であり、今後は単に働き方という意味のみならず、官民を行き来するというキャリアパスの柔軟化という意味でも切り込まざるを得ない状況にあると考えているからである。

デジタル社会形成は官民の知見を結集して進めなければいけない、といったフレーズをよく聞くと思うが、デジタルだけではなく、あらゆる政策分野において同じことが言えるだろう。それを支える人材面についても、時代に即した制度をつくっていかなければいけないと考えている。

「自治体DX」に向けて

三重県の「スマート改革」は自治体DXとどう違うのか、という質問をよく頂くが、目指しているところは同じだと考えている。もともと、スマート改革は県庁が持続的にサービスを提供するために、デジタル技術も活用しながらその組織的課題を解決することを目的としてきており、自治体DXも、同じ目的を持っていると思う。

住民の体験をデジタルも活用しどう変えるのか、というDXの本質に切り込むためには、都道府県と基礎自治体の連携がさらに重要となるだろう。「住民の体験」を変えるのは基礎自治体の大きな仕事となると思われるが、都道府県としても、県下の基礎自治体が同じ方向性を持って取り組みを進めることができるよう、技術面、人材面でサポートすることが必要となる。

三重県では、2021年4月から、デジタル社会推進を一体的に所掌する三重県版デジタル庁である「デジタル社会推進局」を設置する予定としている(設置については、2月定例月会議において設置のための条例改正が議論される)。

地方自治体において、「デジタル社会形成」に対しどのように取り組めばいいのだろうか。各地方自治体において重要なことは、「デジタル的なものを取り入れていること」をことさらアピールすることではなく、誰でも理解できるビジョンを示し、住民一人ひとりにとってどのような変化があるのかを具体的に示すことである。

それは、これまで進めてきた地方創生と目指すところは同じであり、デジタルを活用し、より地方創生の理念を具体化し、アップデートすることに他ならないと考えている。

次回の後編からは、三重県として目指しているデジタル社会像をご紹介するとともに、「デジタル社会推進局」の組織体制などについてお示ししたいと思う。

 

「後編1」につづく


【プロフィール】

三重県スマート改革推進課長横山啓

横山 啓(よこやま・けい)
三重県スマート改革推進課長(令和3年3月時点)
2011年に総務省入省後、政府の情報システム改革、マイナンバー制度関連業務に従事。2020年4月から、三重県スマート改革推進課長として行政のDX、働き方改革などを担当し、三重県の変革の指揮を執る。

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