官民共創に関する自治体意識調査2021(3)現実とのギャップを言語化し「解像度」を高める  

株式会社Public dots & Company
株式会社スカラ
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム

 

2021/09/07  官民共創に関する自治体意識調査2021(1)「熱意と推進力の差が生まれる要因」を読み解く
2021/09/09  官民共創に関する自治体意識調査2021(2)「熱意と推進力の差が生まれる要因」を読み解く
2021/09/13  官民共創に関する自治体意識調査2021(3) 現実とのギャップを言語化し「解像度」を高める
2021/09/16  官民共創に関する自治体意識調査2021(4) 現実とのギャップを言語化し「解像度」を高める


 

前回(第1回第2回)に続き「官民共創に関する自治体意識調査2021」についてご紹介します。

前回までは、回答者の属性やそれぞれの自治体の官民連携/官民共創への取り組み具合、また未来の展望などをレポートしました。

そこから見えてきたのは、理想と現実の間で悩むリアルな公務員の姿でした。他方、人口規模は小さくとも官民連携/官民共創の専門部署を設置するなど取り組みを加速している町や村の存在も明らかになり、プロジェクトを小さく生んで、高速でPDCA(計画、実行、検証、改善)を回していく、「アジャイル型」官民共創の可能性を感じさせてくれるものでもありました。

 

本稿では行政が民間企業と連携/共創する上で、今もこれからも頭を悩ませる「公平性の担保」と「説明責任」についてアンケート結果を見ながら明らかにしていきます。

まず結論から言いますと、首長や議会などの理解をどう促進していくかがポイントになります。

筆者(株式会社Public dots & Company 伊藤大貴)は、10年間だけではありますが、横浜市議会議員を経験しました。その私からしますと、議会事務局と連携しながら、官民連携/官民共創の事例の共有とメタ(高次)な視点からの必要性を伝えていくことがポイントになりそうだと感じました。

別の見方をすれば、公平性が担保できて、説明がつく「仕組み」があれば、日本の官民連携/官民共創は一気に加速する可能性を秘めているということでもあります。

自治体内部に横たわる言語化しにくい進め難さ

それでは、アンケート結果を見ていきましょう。

所属する自治体について、官民連携/官民共創への取り組みが「まったく熱心ではない」「あまり熱心ではない」「どちらともいえない」と回答した人に、「あなたの自治体で、官民連携/官民共創を阻害する内部要因はなにか?」を複数回答可として聞きました。

最も多かったのが「内部調整の煩雑さ」で40人。次いで「公平性の担保と説明の難しさ」が35人、「首長や上司の理解不足」が28人、「議会の理解不足」が18人、「住民/地域の理解不足」が18人と続きました。

 

 

この質問に対して寄せられたコメントを紹介しましょう。

「特に管理職の世代に、官民連携/官民共創の必要性を感じず、民間企業に対して上から目線の職員が多いのが一番の問題」(都市政策担当)

「外部の人材とのオープンな意見交換、交流ができるマインドを醸成していくことが大事」(地域振興担当)

「日常業務に忙殺されていて、官民連携/官民共創を考える余裕がない」(都市計画担当)

「できない理由を並べ、ハレーションが起きないことが優先されてしまう」(財政担当)

など、組織の文化・風土に起因する悩みが多く寄せられました。

 

組織の風土/文化は一朝一夕には変わらないですし、現場からボトムアップで組織を動かしたり、変えたりしていくのも難しさがあるため、官民連携/官民共創に意欲と理解のある地方公務員ほど徒労感と悲壮感を抱えている様子が浮き彫りとなりました。

 

また、意欲は醸成されつつも、ノウハウや情報が足りずに悩んでいる声も数多く届きました。

「先行事例などの情報が不足し、民間企業とのネットワークも不足し、行政ニーズと民間企業のノウハウをすり合わせるのに、どうしても時間がかかってしまう」(総務担当)

「民間企業が得られるメリットを設計できず、やりがいやPR効果といった見せ方しか行政が提供できておらず、どうしても補助金に頼った旧態依然とした受発注の関係になってしまう」(同)

といった声がありました。

自治体も民間企業も実は同じ悩みを抱えている

現状は現状として、それではこれからの、未来の官民連携/官民共創ではどのような課題が認識されているのでしょうか。

前回お伝えした通り、回答者の約9割が今後の官民連携/官民共創について、「加速する」「必要性が高まる」と考えているわけですから、どんな課題を認識しているのか、気になるところです。

 

複数回答可として答えてもらったところ、より実務的な課題を挙げる傾向が強く出ました。

最も多かった回答が「事業推進予算の確保」で56人、次いで「公平性の担保と民間企業とのつながりにくさ」が47人、「民間企業の見極め」が35人、「いい民間企業が見つけられない」が32人、「アウトカム(成果)の設定」が26人となりました。

総じて、民間企業とどう出会うか、出会った後にどう見極めるか、どう公平性を担保するか、に課題を感じていることが分かりました。

 

 

民間企業も同じ悩みを抱えています。

最近のSDGs(持続可能な開発目標)経営へのシフト、ESG(環境、社会、企業統治)投資への関心の高まりなども相まって、事業、ビジネスを通じた社会課題解決アプローチに興味を持つ企業が増えていますが、「共創マインドを持った自治体がどこにあるのか、見つけるのが難しい」という相談が我々のもとにもよく舞い込みます。

 

これは前述したように、民間企業と自治体が社会課題の解決を軸に出会える、適切な仕組みさえあれば、官民連携/官民共創は加速するはずです。

もっとも、「やりたいこと」と「やってほしいこと」のリストから民間企業と行政をつなごうとする、いわゆるカタログマッチングではうまくいかないことは多くの方が経験から実感していることでしょう。

このアンケートでも「アウトカムの設定」が官民連携/官民共創を推進する上で、今後課題になると答えた人が一定数いたのも、その表れでしょう。官民連携/官民共創について、既に多くの経験と知見を有するからこそ、本質的な課題に気付いています。

 

事業費の捻出については、多くの人が頭を悩ませている様子が明らかになりました。ただ、こちらは今後、ファイナンスの手法がより多様化することで解決していくのではないでしょうか。

手前みそになりますが、株式会社Public dots & Companと株式会社スカラが共同開発した「逆プロポ」と企業版ふるさと納税をセットにすれば、企業にとっても税制優遇措置を受けながら、自治体が抱える社会課題に取り組むことができそうですし、近年、事例が蓄積されつつあるソーシャルインパクトボンドも事業資金の調達および公共サービスの適正化を両立するファイナンス手法として、今後さらなる活用が期待されます。

 

いずれにしても、事業費の捻出は、現在想定しているほどには課題にならないように感じます。

それよりも、新型コロナウイルスで緒に就いた自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)は、まさに行政に変容を求めるものであり、今後、自治体がアウトカムベースで民間企業とつながり、適切なファイナンスの仕組みを組み合わせていくあたりが、自治体独自の創造性、腕の見せどころになるでしょう。

そういう意味で、繰り返しになりますが、自治体間で事例やノウハウを共有し、共創のマインドセットを醸成していく仕組みづくりは急務といってよいでしょう。

 

(第4回につづく)

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