セクショナリズムの壁は「関わり続けて」越える~吉田信解・埼玉県本庄市長インタビュー(3)~

埼玉県本庄市長 吉田信解
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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2023/08/22 セクショナリズムの壁は「関わり続けて」越える~吉田信解・埼玉県本庄市長インタビュー(3)~
2023/08/24 セクショナリズムの壁は「関わり続けて」越える~吉田信解・埼玉県本庄市長インタビュー(4)~

 


 

第1回第2回に引き続き、埼玉県本庄市の吉田信解市長のインタビューをお届けします。前回までは、市政のテーマに掲げた「支えあいとチャレンジ」の意味するところや、吉田市長が自身の重要な仕事の一つと位置付ける「コミュニケーション」の在り方について掘り下げました。

今回からは、コミュニケーションを通じて課題を解決した事例や、組織運営を巡る気付きについて伺います。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

失敗からの学び

小田 前回のインタビューで、吉田市長は「間違いは誰にでもあります。問題なのは、間違いだと気付いているのに、ほっておくことです」とおっしゃいました。そして、そのことを職員と共有しているからこそ、市役所に「間違いが分かった時点で改革」する文化が根付きつつあると述べられました。

こうした意識は今後の行政運営においても非常に重要ではないかと思います。試行錯誤しながら挑戦した結果、失敗することもあるからです。挑戦や失敗については、どのように捉えていますか?

吉田市長 アグレッシブにチャレンジすることは、とても良いことだと思います。その結果、失敗に終わることもあるでしょう。特に若手職員は、これからそのような経験をたくさん積んでいくでしょう。ただし、失敗に対して上司が頭ごなしに叱るだけでは学びにつながりません。なぜ失敗したのか、どういったところが問題だったのか、本人が腹落ちするように働き掛けることが大切です。

 

小田 実際にそのようなエピソードがあったのですか?

吉田市長 若手職員たちが発案した企画が、外部からの目には特定の要職の方を持ち上げているように映ったのです。それが判明したのは既に企画が実行され、公になった後でした。私も副市長も驚きを隠せませんでしたが、頭ごなしに叱るのはいかがなものかと議論しました。

若手職員たちには彼らなりの意図があったはずです。ここは一つ我慢して、問題になったら適切に対処しようという結論になりました。案の定、ハレーションが起きました。抗議文を携えて、市長室にやって来た方々もいました。私と副市長は正直に、事が公になるまで知らなかったと伝え、何とか理解を頂きました。

その後、副市長が若手職員たちの元へ座談をしに行きました。彼らは「その方には一個人として関わってもらった。何が問題だったのか、よく理解できない」と答えたそうです。そこで副市長は、この一件で誰にどのような影響が出るのかを丁寧に説明し、話し合いました。すると彼らは理解を示し、配慮が足りなかったと反省したそうです。

このように対話しながら、問題の核の部分について腹落ちするところまで持っていけたのは良かったと思います。私自身も勉強になりました。

 

小田 若手職員たちが「なぜ問題なのか?」と言えること自体が驚きです。組織の風土によっては、失敗した時点で本人が非難される恐怖に押しつぶされることもあるでしょう。

吉田市長 座談を主導した副市長が、若手職員たちの「なぜ問題なのか?」という本心を拾ってくれました。その問いに対し、きちんと説明できたことで、要職にある方との適切な関係構築に関する職員の理解が深まったと思います。

 

ワイガヤ主義

小田 吉田市長は、庁内でのコミュニケーションについて「ワイガヤ主義」と表現されています。

吉田市長 毎回ではありませんが、何かを決める際に皆での議論が必要な場面では、何事も1回で審議を終えるのではなく、皆で協議し、修正しながら決めていこうという方針です。

「ロバート議事法」という会議の進め方から着想を得ました。最初の討議では皆がフラットに意見を出し合い、結論の方向付けをします。次の回では仮案を皆でたたいてブラッシュアップし、3回目に出てきた案で合意形成を図るというような流れになります。

 

小田 議論する機会を小まめに設けるのですね。

吉田市長 市長に就任した当初は、庁議(市長、副市長、部長、局長による会議)の開催が1カ月に1、2回でした。これでは少ないと感じたので、毎週開催することにしたのです。

それまでは副市長が各部局から情報を吸い上げ、取りまとめて市長に報告していました。しかし部長・局長級の職員であれば、他部局の重要事項も知っておいた方が良いと考えました。ですから毎週開催し、各部局の重要事項について皆で意見を出し合ったり、合意形成したりするようにしました。

あくまでも決定権は市長にあるのですが、皆で議論して合意形成したものに対してOKを出したいと思い、このプロセスを採用しています。

 

小田 議論は毎回「ワイガヤ」しているのですか?

吉田市長 皆が手を挙げ、ワイワイガヤガヤと議論を交わしているわけではありません。年度が替わって新しいメンバーになると、誰かが発言するのを待つような雰囲気になることもあります。また、古参の部長の発言量が多くなる傾向も見られます。しかし、それでよいと考えています。部局を横断し、いろいろな情報が共有されることが大事です。

 

小田 接触の機会を途切れさせないことに重きを置いているのですね。

吉田市長 行政と民間を問わず、どの組織にも少なからず部局間に「壁」があります。それをほっておくと、たちまちセクショナリズムに陥ります。なるべく意思疎通を図り、情報共有することが大切です。

よく「セクショナリズムをなくすため、こんな改革を実施した」という話を耳にしますが、何かをしたからといってセクショナリズムが完全になくなることはありません。セクショナリズムは常に付いて回るものです。それを克服するためには、普段の意思疎通を意識して続けていく他にないと思っています。

 

第4回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年7月10日号

 


【プロフィール】

埼玉県本庄市長・吉田 信解(よしだ しんげ)

1967年生まれ。95年から埼玉県の旧本庄市で市議を約10年間務めた後、2005年に市長就任。市町村合併を経て06年に現本庄市の市長となり、通算で現在6期目。真言宗智山派大正院(本庄市)と同大福院(埼玉県深谷市)の住職も務める。

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