本格化する官民人材の流動化(2)<br>パブリックアフェアーズという新領域

前回は、官と民の境界がぼやけ公共の担い手が多様化する時代が本格到来することを解説しました。今回は官民の人材が流動化する時代における、官民連携の姿について触れてみようと思います。

 

政府や地方自治体と、企業の間に立って政策交渉やリスクコミュニケーションの支援、官民連携事業を立案することをpublic affairs(パブリック・アフェアーズ)といい、日本では今、この領域が急速に拡大しつつあります。

 

ここ10数年の政府による規制緩和とテクノロジーの進化という2つの波によって、パブリックアフェアーズと呼ばれる、公共セクター(行政)とプライベートセクター(企業)をつなぐ役割が渇望されるようになっています。特に、IT企業の場合、規制緩和によって自分たちのビジネス領域が急速に行政と近くなっており、その対象は金融や決済、移動、宿泊など多岐にわたります。

 

実際、グーグル、フェイスブック、LINE、メルカリ、楽天など誰も知っているIT企業は近年、「公共政策部門」を立ち上げ、そこに霞ヶ関のキャリア官僚を中心に、公共政策に精通している人材を次々とスカウトしています。一見、公共政策とIT企業は接点がないように見えますが、各種規制緩和によってITサービスが公共を担うシーンが増えることが見込まれているからこそ、こうした動きにつながっています。

 

パブリックアフェアーズってなんだろう?

ここでパブリックアフェアーズについてもう少し説明しておきます。私たちがよく知っているPR(パブリックリレーション)との違いを明らかにすると分かりやすいでしょう。PRとはpublic relationsのことで、広義のPRと狭義のPRがあります。広義のPRは「ステークホルダー全般との関係構築」という意味で、実はパブリック・アフェアーズは広義のPRの中に概念としては包含されています。

 

ところが、一般的に私たちがイメージするPRは狭義のPRの方で、こちらはいわゆる、「メディアリレーションズ」を指します。自社の製品・サービスの消費者に対する認知・関心を高め、それによってその先の購買につなげることを狙う、情報の発信を通じた企業と消費者の関係性構築が狭義のPRです。

 

つまり、広義のPRから狭義のPRを引いた部分がパブリック・アフェアーズという分野で、政府や地方自治体、NPOなど社会性、公共性が高いテーマを対象に、ステークホルダーとの関係性を構築することが定義になります。狭義のPRを商業的PRとすれば、パブリック・アフェアーズは公共性を帯びたPRと言い換えてもいいかもしれません。

 

パブリック・アフェアーズはその中に2つの領域があります。1つは政府や地方自治体への政策実現に向けた関係性構築を行う、「ガバメント・リレーション」。もう1つは政策実現の先に現れる社会の変化の影響を受ける市民との関係性構築という意味の「世論形成・リスクコミュニケーション」です。前述したIT企業が力を入れている分野は、パブリック・アフェアーズの中でもガバメント・リレーションと呼ばれる領域です。

 

パブリック・アフェアーズが扱う領域は規制や社会的課題をもったものであることも手伝って、その手法は2通りあります。1つはロビーイングと呼ばれる、対人関係によるもの。地上戦と言ってもいいでしょう。これに対してメディアを通じて関係性を構築していく「空中戦」があります。

 

官民の境界線がぼやけ出した今、求められる人材

なぜ今、パブリック・アフェアーズなのかというと、企業と行政の境界領域がここへ来て急速にぼやけ始めているからです。背景には多様化する社会に対して、行政だけではサービスを提供しきれないこと、加えて財政難があります。

 

分かりやすいのが、筆者も議員時代に得意としていた公民連携の分野です。ネーミングライツにはじまり、指定管理者制度、PFI、PPPとこの十数年で、これまで行政が担っていた業務を企業が担う事例が増えてきました。今から20年前、PFIが始まったころはまだ日本全体で300億円程度の事例しかなかったのが、今では累計で6兆円の市場規模になっており、2022年には21兆円にまで成長すると言われています。

 

従来は公共=行政だったのが、これからは公共=企業であり、公共=行政であり、公共=NPOといった具合に公共の担い手が多様化し始めています。そうしていかないと、公共サービスを維持できないからです。企業は今、経済活動に「公益性」が求められ、行政はビジネスの視点に立った「(財政的な)持続可能性」が求められています。

 

さて、ここで少し想像してみて下さい。行政が手がけるサービスのうち、どの部分を民間に委ねていくのでしょうか。それを設計するのは法律です。したがって、さきほど述べたように中央省庁と折衝するパブリック・アフェアーズが必要となりますし、そこには元キャリア官僚や永田町の様式美を知っている元政策秘書などのノウハウ、社会的資本が効いてきます。一方で、法律が規制緩和された後の運用は現場、すなわち地方自治体になりますが、実は地方自治体に対するパブリック・アフェアーズは現時点では手付かずです。

 

私は今後、このローカルガバメント(地方自治体)リレーションが脚光を集める時代がやってくると予想しています。それはなぜかといえば、ルール(法律)が変わっても、現場の運用が変わらなければ社会は変わっていかないからです。

 

中央省庁が相手のガバメント・リレーションと、地方自治体が相手のガバメント・リレーションはまったくやり方が異なります。前者はルールチェンジ。法改正、規制緩和がテーマになるため、渉外相手は単一省庁になります。後者は、具体的なディールです。運用の話になってくるため、自治体と一口に言っても、相手は財政、企画、観光、スポーツ、医療、都市計画など窓口が複数になってきます。

 

さて、次回は私がPublic dots & Companyを立ち上げた思いについて触れたいと思います。

  

(株式会社Public dots & Company伊藤大貴)

スポンサーエリア
おすすめの記事