移住者町長が挑む、農業継承と行政改革~大宮透・長野県小布施町長インタビュー(2)~

長野県小布施町長 大宮透
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2026/03/04 移住者町長が挑む、農業継承と行政改革~大宮透・長野県小布施町長インタビュー(1)~

2026/03/05 移住者町長が挑む、農業継承と行政改革~大宮透・長野県小布施町長インタビュー(2)~

2026/03/10 苦い経験が育んだ「調整型」リーダーシップ〜大宮透・長野県小布施町長インタビュー(3)〜

2026/03/12 苦い経験が育んだ「調整型」リーダーシップ〜大宮透・長野県小布施町長インタビュー(4)〜

 

農家と行政がタッグを組む

小田 行政が農業政策を行う際は、農家側にも変化を求める必要があると思います。どのような働き掛けを行うのでしょうか?

大宮町長 もちろん、農家の皆さん自身にも変わっていただく必要はあると思いますが、まず重要なのは、行政のスタンスです。我々行政が積極的な姿勢を見せないと、農家の皆さんもその時点で「行政は何もしない、何もできない」と捉えてしまいます。

もちろん経営体力があり、ご自身でマーケティングや販路開拓ができる「強い農家」の方々は、行政が何もしなくても自走できます。しかし、農業政策の中で我々が本当に目を向けるべきは、行政の力を必要としている皆さんです。

まずは行政が一緒に考える前向きな姿勢を見せることが、農業を良くしていく第一歩だと考えています。

 

小田 行政が農家の皆さんと伴走する、ということですね。

大宮町長 おっしゃる通りです。我々行政も「一緒に考え、一緒に汗を流す」という姿勢で伴走し、小布施の農業を次世代につなげるための環境を整えていく。そうやってお互いが前向きにタッグを組む、いわば「共創」のまちづくりを進めなければ、結局は共倒れになってしまいます。

正直なところ、今までは行政が農業を自分事として捉え、前向きに取り組んでこなかった部分が非常に多かったように思います。ですから、まず我々自身が変わっていかなくてはいけません。

 

小田 農家との「共創」体制ですね。ただ、行政のリソースも限られています。

大宮町長 リソースは非常に不足しています。だからこそ、「何でもかんでも行政ができるわけではない」ということを前提に「役割分担」をする必要もあります。

行政も前向きに検討する一方で、農家の皆さんにも一緒に動いていただく必要があり、お互いに連携・協働していきましょうと常にお声掛けをさせていただき、その関係性を築くことが肝要だと考えています。

 

小田 農業においては、担い手の確保も問題になっているかと思います。具体的にどのような対策をされているのでしょうか。

大宮町長 農業の危機的な状況を踏まえると、特に担い手確保は厳しい状況です。何より全国の自治体で人材の取り合いが起きています。その中であえて小布施を選んで農業に就いてもらうためには、行政側がそれ相応の覚悟と支援策を示さなければなりません。

現時点では、まだまだ他市町村と比較し差別化した支援策を打ち出すことができていませんが、さまざまな農家団体の皆さんの声を聴きながら、来年度以降の新たな支援策の立案を進めています。

新規就農者はもちろん、親元就農や定年帰農者を含めた幅広い担い手確保につながる取り組みを打ち出していきたいと考えています。

 

2025年11月時点の新規就農者支援制度の概要

図 2025年11月時点の新規就農者支援制度の概要(出典:小布施町Webサイト)

 

専門職不足を補う「行政の応援団」

小田 農業の人材不足の話がありましたが、それ以外の分野でも同様の問題はあるのでしょうか。

大宮町長 農業分野以外でも、人材不足は深刻です。特に問題なのが、いわゆる行政の「専門職」の不足です。 具体的には、土木職、建築職、あるいは保健師といった、専門的な資格や知識を必要とする人材の採用が、全国の自治体と同様に非常に難しくなっています。

 

小田 採用が難しくなっている背景には、どのような根本的な課題があるとお考えですか?

大宮町長 まず、民間の給与水準との競争があります。特に初任給において、民間企業と競争した場合、我々行政機関はなかなか勝つことができません。これは、公務員の給与表が条例で明確に定められており、市場の動向に合わせて柔軟に給与を提示することができないという構造的な課題があるからです。

さらに、土木分野などでいえば、そもそも高校の教育課程などで土木を専門に学ぶ子どもたちが減っており、専門課程自体が縮小している。人材の絶対的な裾野が狭まっていることも、採用難に拍車を掛けていると考えています。

 

小田 専門職以外にも、不足している人材はいますか。

大宮町長 明確に不足しているのが、新しい事業をゼロから設計できる人材です。

行政の日常的な業務をしっかりこなすことは基本ですが、それだけでは日々増えていく新しい課題には対応できません。

例えば「現状の課題を構造的にどう変えるか?」「多様な関係者(ステークホルダー)をどうつなげるか?」「新たな目標を設定し、そのための財源をどう確保するか?」といった、プロジェクト全体を組み立てる能力が必要です。

こうした、課題解決のプロセス全体を総合的に設計できる人材が、行政内部にもっと増えていくことが大切だと感じます。

 

小田 こうした「人材不足」という課題に対し、どのような解決策を考えていますか。

大宮町長 まずは、既存の職員が行政施策の立案プロセスでこういった経験を積み重ねていくことが肝要ですが、その一方で、従来の職員採用に固執せず、さまざまな人材登用の在り方を柔軟に取り入れていくことが必要だと思います。

我々が今積極的に進めているのが、外部の専門家を「行政の応援団」として活用するモデルです。例えば、地域活性化起業人(※注)などの仕組みを使い、非常勤やリモートで月1日や月の半分でもいいからプロジェクトベースで組織に関わっていただく形を取り入れています。

二地域居住の推進計画、農商工連携、再生可能エネルギー分野など、役場内部だけではノウハウが不足している分野に、こうした外部専門家を積極的に導入しています。

(※注)地域活性化起業人制度:三大都市圏に所在する企業等の社員が、その籍を維持したまま地方公共団体に一定期間派遣され、地域活性化や行政の専門分野の業務に従事する総務省の制度。

 

小田 外部人材には、具体的にはどのような役割を担ってもらうのでしょうか。

大宮町長 外部専門家には、ノウハウ提供だけでなく、職員と目線を合わせた伴走体制を組み、事業設計から推進までを担ってもらっています。

ただし、こうした外部人材の活用を成功させるためには、トップである私から「なぜ今、この人が組織に必要なのか」というメッセージを組織に丁寧に示すことが不可欠です。

同時に、その方を受け入れることになる現場の職員との「目線合わせ」を行い、信頼関係を構築することが必須であると考えています。

 

小田 ありがとうございます。今回は主に、小布施町が直面する「農業の担い手不足」と、「行政における専門職不足」という二つの課題と、それに対する「行政の応援団」といった具体的な施策を伺いました。

町長のおっしゃる「外部人材の活用にはトップの明確なメッセージと〝目線合わせ〟が不可欠である」という点は、あらゆるステークホルダーが交わる共創において、まさにその通りであると納得しました。

 

次回のインタビュー(後編)では、これらの施策をいかにして組織に浸透させ、実行に移していくのか。大宮町長の「調整型リーダーシップ」の背景にある哲学と、町の未来への具体的な投資について、さらに詳しく伺います。

 

(第3回に続く)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2026年1月19日号

 


【プロフィール】

小布施町_大宮町長プロフィール写真

大宮 透(おおみや・とおる)

1988年山形県生まれ、群馬県高崎市育ち。東京大工学部で都市計画を専攻後、小布施町に移住。
役場での総務課長、企画財政課長経験を経て、2025年1月、県内最年少首長に就任。
「信頼」「挑戦」「共創」を掲げる。

 

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