誰もが互いを理解し、思いやるまちへ~村山俊明・群馬県大泉町長インタビュー(4)~

群馬県大泉町長・村山俊明
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2024/05/14 フレンドシップから始まる多文化共生~村山俊明・群馬県大泉町長インタビュー(1)~
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2024/05/21 誰もが互いを理解し、思いやるまちへ~村山俊明・群馬県大泉町長インタビュー(3)~
2024/05/24 誰もが互いを理解し、思いやるまちへ~村山俊明・群馬県大泉町長インタビュー(4)~

 

外国籍住民を巻き込む機会、常に模索

小田 お話を伺えば伺うほど、「相手と直接、真正面から向き合い、互いに知る努力をすること」が多文化共生の秘訣だと理解できます。特に村山町長と外国籍住民の交流はとてもフラットな形で行われており、心が温まります。日ごろに彼らと接する上で、どのようなことを意識しているのですか?

村山町長 「外国籍住民と大泉町の日常をいかにうまくマッチングできるか」ということです。何か機会があったとき、すぐに彼らに声を掛けるよう意識しています。

例えば最近では町の発足以来、初めて外国籍の一日警察署長が誕生しました。これには経緯があります。一日警察署長に任命した彼は、スポーツジムのオーナーです。そのジムはかつて外国人の利用者ばかりでした。そこに私が入会したことで日本人の利用者が増えたようで、彼にはとても感謝されました。こうして親睦が深まると、込み入った話ができるようになります。

私は彼に「君たちの恵まれた体格を周囲に見せて楽しむのも良いけれど、町の防犯や災害対策に役立ててくれるとうれしい」と伝えました。すると彼は、次第に町の清掃活動などに参加してくれるようになったのです。そうして交流が生まれていった結果、一日警察署長を務めるに至りました。

 

小田 地道にコミュニケーションを続ける村山町長の姿勢には、本当に頭が下がります。

村山町長 どうすれば親近感を持ってもらえるかと問い続けています。彼らと接触せず、机上で考えられた多文化共生のプランは使いものにならないと断言できます。

 

小田 そんなスタンスの村山町長が就任されてから、外国籍住民の態度にも何か変化が起きているのではないでしょうか?

村山町長 町の清掃をはじめ、ボランティア活動に積極的に参加してくれるようになりました。町で暮らす上でのマナーについても気を配り、破る者が現れたら外国人同士で注意し合う姿も見られます。彼らはとても協力的です。

多文化共生を阻む壁は先入観だと思います。例えば、国内では外国人が起こしたトラブルや犯罪が報道などを通じ、ことさらにクローズアップされますが、そうすると同じ国籍を持つすべての外国人が悪者のように捉えられる傾向があります。大泉町も例外ではなく、外国籍住民による犯罪が起きたときには日本人の住民が敏感に反応します。ですから、私はそういう事件が起きたとき、朝一番に教育長や各小中学校の校長に電話します。「事件の報道がきっかけとなり、いじめや差別に発展しないよう、子どもたちや保護者をフォローするように」と要請し、教育現場で先入観が生まれないように手を打っています。

 

どんな人ともフラットな関係を

小田 今回のインタビューに当たり、村山町長を取り上げた記事を幾つも読みました。その中でとても印象に残ったのが「外国人を単なる労働力として考えるべきではない」という言葉です。村山町長がこれまでお話しくださった事例は、まさにその言葉通りのものだと言えます。どんな国籍の方であろうと、尊厳を持って接していらっしゃいます。

村山町長 日本経済を維持するためには労働力が必要で、国はそれを求めて外国人就労者の受け入れを行っています。しかし、われわれ行政は彼らを「労働力」ではなく「住民」として受け入れるのです。まずは、考え方に大きな違いがあることを認識しなければなりません。

 

小田 記事を読み、私自身の中にも「外国人労働者」という認識があったことに気付きました。考え方を変えなければならないと反省しています。村山町長がおっしゃる通り、彼らはリソース(資源)ではなく一人の住民なのですね。

村山町長 大泉町に転入して来た時点で、どんな国籍の方であろうと公正・公平に納税義務が課せられます。従って、どんな国籍の方であれ、公正・公平に住民サービスを受けられる権利があるということです。

 

毎月10日に発行される外国人向け広報誌の一部(出展:大泉町多文化共生コミュニティセンター)

 

日本人住民の方からは時折、「町長は外国人を優遇している」と指摘されることがありますが、それは誤解です。外国籍の方が日本人と同様に滞りなく住民サービスを受けられるよう、職員と共に努力しているのです。例えば19年の台風19号災害の際には、被災者向けに罹災証明書の発行や復旧に使える補助金の案内を行いましたが、外国籍の被災者に対しては専用の説明会を開催しました。ポルトガル語やスペイン語など多言語を用いて、すべての被災者が理解できるように説明し、権利として受けられるサービスの申請を促しました。

どんな方であろうと大切な住民です。大泉町はそういう姿勢で住民一人ひとりと関わり続けています。

 

小田 多文化共生をテーマにした今回のインタビューでは、当然のことながら外国籍住民を巡る話題が中心になりました。例えば前回は、大泉町が17年に全国の町村に先駆けて「あらゆる差別の撤廃をめざす人権擁護条例」を制定したことをご紹介いただきました。一方で、19年には性的少数者(LGBT)に配慮した「パートナーシップ制度」を開始したとのことでした。お話を伺っていくうちに、村山町長は「どんな背景を持つ人であれ、フラットに関わる」という姿勢をお持ちなのだと分かりました。

村山町長 パートナーシップ制度は、人権擁護条例で掲げた考え方の下につくられたものです。「あらゆる」には、すべてが網羅されています。障害者、外国籍、部落、在日外国人、LGBTなど、特別な名前を付けて人を差別することは簡単です。条例にはそのような差別を行わず、皆が相手を理解し、思いやるまちになろうという願いを込めています。

 

小田 あらゆる人が住民であるということを意識し、共生に向けた取り組みを続けているのですね。大泉町は、これから先の日本の未来の姿を映していますね。

村山町長 これから日本のあらゆる地域が、大泉町と同じような状況になるでしょう。多文化共生の先進自治体として、われわれの取り組みが参考になれば幸いです。

 

【編集後記】

村山町長は終始、外国籍住民とのエピソードを穏やかに語りました。しかし現在に至るまでには語り尽くせない苦労があったと思います。

同じ国籍や文化を持つ日本人同士ですら、世代間ギャップやジェンダーギャップで相いれないこともあります。差別につながる先入観にはよくよく注意しないと、相手を受け入れるどころか、認識の偏りにすら気付きません。

大泉町が全国に先駆けて推進する多文化共生は国籍や文化の違う者同士の融和を目指す取り組みです。その難易度がいかに高いか、村山町長のエピソードから感じ取った読者も多いことでしょう。

同様の状況が近い将来、他自治体にも訪れます。机上で考えることはもちろん重要ですが、多文化共生の中心に置くべきは、ハートを用いたコミュニケーションではないでしょうか。

 

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年4月1日号

 


【プロフィール】

村山 俊明(むらやま・としあき)

1962年生まれ。97年5月群馬県大泉町議となり、2005年5月から07年5月まで同町議会議長を務めた。

13年5月大泉町長に就任し、現在3期目。

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