神奈川県海老名市長・内野優
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子
2024/06/11 まちづくりに必要なのは「スピード感」~ 内野優・神奈川県海老名市長インタビュー(1)~
2024/06/13 まちづくりに必要なのは「スピード感」~ 内野優・神奈川県海老名市長インタビュー(2)~
2024/06/18 就任6期目、まちづくりは第2ステージへ~内野優・神奈川県海老名市長インタビュー(3)~
2024/06/20 就任6期目、まちづくりは第2ステージへ~内野優・神奈川県海老名市長インタビュー(4)~
職員の意識改革
小田 内野市長は区画整理に携わる事業者の見極めも十分に行っていると思うのですが、いかがでしょうか?
内野市長 区画整理は事業者との信頼関係も大切です。これから市役所周辺の約40㌶の土地が市街化区域になりますが、区画整理と民間開発という形で分かれる予定です。ただし、境目で歩道の色が変わるなどの違和感が生まれないように、市が事業者をパートナーとして考え、下水道の接続部分まで見届けるなどの工夫が必要です。
小田 そうなると、市の職員は民間事業者とコミュニケーションを取りながら、柔軟に動く必要がありますね。そうした動き方についての意識醸成も続けてこられたのですか?
内野市長 続けてきましたけれども、最初は大変でした。
小田 例えば、どんな苦労があったのですか?
内野市長 私は海老名で生まれ育ち、市職員も5年ほど経験しています。そこから市議会議員を経て、市長になりました。ですから、周囲には小中高時代からの先輩がいるわけです。市長に就任し、最初に市役所で管理職の皆さんを150人ほど集めて会議を開いたとき、その場にいたのは全員、私より年上の先輩でした。そうした方々の意識を変えるためには相当のエネルギーを要します。
内部の仕組みから変えた方が早いと考え、機構改革を行いました。庁議の代わりに「最高経営会議」を設置したのです。最高経営会議は私と副市長、そして全部長が政策の意思決定を行う場です。その下に政策会議があり、次長や各部課の職員が政策の起案とブラッシュアップを行います。そうして、ある程度もまれた案件が最高経営会議に上がってきます。このような仕組みを、就任してから3カ月で構築しました。
小田 機構改革に関しても、スピード感を持って対応されたのですね。
内野市長 そういうことを考えるのが得意な職員に依頼しました。すると、すぐにたたき台をつくってくれるので、後は実施し、改良していけばよいだけの話です。
小田 庁内にどんな職員がいるか、よく把握していたことが強みになったのですね。
内野市長 私は職員の顔と名前を覚えています。
小田 庁内全体の人事については、どのように決めているのですか?
内野市長 係長以上の幹部はほとんど私が決めます。職員の配置については部長に任せています。各職員には今後のキャリアについて自己申告を行ってもらい、部長はそれを材料に配置を決めていきます。
小田 ある程度の決定権を部長に委ねているのですね。職員にも自らのキャリアについて考える機会を設けているので、バランスの良い人事制度だと思います。
内野市長 キャリアや配置について、自分たちの意向がある程度反映されれば、仕事に対しても納得して取り組むことができますからね。
「良いまちづくりをする」という共通の目的に向けて
小田 市長就任時の人事について伺います。当時は旧市長派の職員もいたと思いますが、その人たちの処遇はどうされたのですか?
内野市長 当時の助役と収入役、部長はほぼ全員が旧市長派でした。しかし1人も異動を行いませんでした。私はどちらかといえば、先へ先へとどんどん走るタイプです。そこで旧市長派の皆さんには、良いブレーキ役になっていただくことを期待しました。
小田 就任直後は逆風の中で市政を運営されていたのですね。
内野市長 もちろん衝突することもありました。しかし、われわれは派閥同士の争いをしたいわけではなく、良いまちづくりをするという共通の目的があります。率直に意見を言い合い、何度も目的を確認しながら進めてきました。それを見ていた若手職員が育ってきてくれています。
07年に副市長制度が始まり、助役をそのまま副市長にしました。私と職員の間で良いクッション役になってくれましたし、公平中立な目線で後任を推薦してくれました。そうした経緯があるので、今の庁内に派閥意識はありません。
小田 内野市長の胆力で組織の熱量を高めてこられた様子が伝わってきます。
内野市長 組織がまとまったことは良かった点です。次の課題は旧態依然としたやり方から脱し、新しい発想で物事に取り組むことです。何度も言いますが、まちづくりはスピード感が重要です。短期間で目に見えて、まちが変わっていく姿を見れば、市民の皆さんは希望が持てるでしょう。
私は市民サービスの向上には速さが必要だと考えています。今まで通りのやり方を踏襲するのではなく、どうすればスピード感を持ったまちづくりができるのか、職員一人ひとりに考えていただきたいですね。
小田 まるでスタートアップ(新興企業)の経営者のようですね。どの判断も目的達成から逆算した視点で行われており、めりはりが利いています。常態化した体制や業務に疑問を持ち、それらを実際に変革できるのは、内野市長が常に「何のためにやるのか?」と考え、物事の本質を捉えているからだと思います。
次回は、まちづくりの展望などを伺います。
(第3回に続く)
※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年4月22日号
【プロフィール】
内野 優(うちの・まさる)
1955年神奈川県海老名市生まれ。専修大法卒。78年海老名市役所に奉職。83年10月から海老名市議を4期務める。
2003年12月海老名市長に就任し、現在6期目。