将来のため、必要なハードに「投資」を~小林哲也・埼玉県熊谷市長インタビュー(2)~

埼玉県熊谷市長・小林哲也
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2024/07/23 将来のため、必要なハードに「投資」を~小林哲也・埼玉県熊谷市長インタビュー(1)~
2024/07/25 将来のため、必要なハードに「投資」を~小林哲也・埼玉県熊谷市長インタビュー(2)~
2024/07/30 県議時代の経験生かし、まちの姿を変える~小林哲也・埼玉県熊谷市長インタビュー(3)~
2024/08/01 県議時代の経験生かし、まちの姿を変える~小林哲也・埼玉県熊谷市長インタビュー(4)~

 

ソフト面も同時並行で

小田 ここまでハード面を中心にお話しいただきましたが、熊谷市はDX(デジタルトランスフォーメーション)も着実に進めていますね。

小林市長 23年にスマートシティ宣言をしています。気象データ・人流データやスマートフォンアプリの利用データなどを住民の皆さんの同意の上で収集・分析し、行政サービスの向上を図る取り組みが進行中です。市の情報を配信するポータルアプリを中心に、地域電子マネーやコミュニティバスのスマホ回数券、暑さ対策に活用いただけるサービスです。

 

出典:熊谷市「熊谷スマートシティ実行計画」より抜粋

 

また、ペーパーレス化など庁内のDXも進めています。窓口にPCを設置し、分庁舎とリモートでつないで住民の皆さんの対応をする取り組みも進めています。

 

小田 デジタルを暑さ対策に活用するのは熊谷市ならではですね。窓口対応の工夫も面白いです。

小林市長 熊谷市は05年と07年に合併をしています。その際、市役所が手狭だったため、旧町役場を分庁舎としました。すると、手続きの内容によっては本庁舎と分庁舎のどちらにも行かなければなりません。市民の皆さんに動いていただくのではなく、対応職員が一つの窓口に集まれるようにするにはどうしたらいいかと考え、リモートで対応する環境をつくることにしました。

 

小田 住民起点で考えられたDXですね。今後の展開が楽しみです。

小林市長 庁内でのスキルアップや人材育成も含めて進めています。飛躍的にとはいきませんが、少しずつ前進しています。

 

ロジックと意欲の両方が必要

小田 もう少し公共事業について深掘りをさせてください。「熊谷渋川連絡道路」「利根川新橋」「北部地域振興交流拠点」を推進するにあたり、市の負担はどのくらいになるのでしょうか?

小林市長 外の力を借りながら自前の支出を減らすことを意識しています。ですから、市の負担は必要最小限です。「熊谷渋川連絡道路」や「利根川新橋」は、新たにできる交差点整備など必要な部分は市から支出をしますが、主な事業費は基本的には国や県が持ちます。「北部地域振興交流拠点」の土地はすでに確保してあります。こちらは県と市との共同事業になりますが、市は役所の移転に必要な分を支出する予定です。

 

小田 事業予算の交渉は一筋縄ではいかないと思います。「利根川新橋」の件では国交省に足しげく通ったとおっしゃいましたが、県に対しても同様にアプローチを続けてこられたのですか?

小林市長 もちろんです。私は自らを熊谷市のトップ営業だと思って行動しています。自分が動かなければ、相手が思いを汲んでくれることはないでしょう。行政というシステマチックな環境の組織であっても、「人の意欲」は物事を推し進めたり、判断したりするのに影響します。ですから、どれだけこちらが意欲を示せるかが重要です。それはイコール、どれだけ直接のコミュニケーションを図るかだと思います。

 

小田 やはり、熱量は人や物事を動かす大きな要素となりますか?

小林市長 ロジックだけあっても人や物事は動きません。意欲を伝え続けることも必要です。

 

小田 ありがとうございます。今回のインタビューで深掘りした公共事業は、ともすると一昔前の政治スタイルと捉えられがちです。しかし、小林市長がおっしゃるように、財政状態が良くても道路や体育館などのインフラがボロボロのまちで良いのか? という問いはもっともだと思います。現在、高度成長期に続々と建設された公共インフラが軒並み老朽化してきており、維持管理が社会課題となっています。住民の暮らしの質とまちの持続可能性の両方を高めるには、インフラを維持管理のみならず投資と見立てて運用していく必要がありますね。

次回のインタビュー後編では、市内を流れる荒川と利根川、二つの1級河川を生かしたまちづくりについても詳しく伺います。

 

第3回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年6月3日号

 


【プロフィール】

小林 哲也(こばやし・てつや)

1959年生まれ。中央大経済学部卒業後、83年に岡三証券株式会社入社。86年には家業である有限会社小林瓦店入社。

2003年から5期18年間にわたり埼玉県議会議員を務め、21年11月に熊谷市長に就任。

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