「富嶽共創」のまちづくり~堀内茂・山梨県富士吉田市長インタビュー(4)~

山梨県富士吉田市長・堀内茂
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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2024/08/29 「富嶽共創」のまちづくり~堀内茂・山梨県富士吉田市長インタビュー(4)~

 

ふるさと納税を通じた関係人口・交流人口の創出

小田 前回のインタビューにて、富士吉田市のふるさと納税が成功したポイントを伺いました。始めた初年度は約300万円の寄付額だったところ、「第二の故郷」をテーマに、子どもたちの絵手紙や市への招待状を返礼品に添えるなどの工夫を続けた結果、今では年間約88億円にまで寄付額が増えたとのお話でした。

これは増収のみならず、関係人口や交流人口創出の取り組みとも言えると思います。最初から関係人口、交流人口のことも念頭に置いて、ふるさと納税を設計されたのですか?

堀内市長 最初はとにかく寄付額を増やすことを考えていました。まずは富士吉田市のふるさと納税の存在を認知していただくことから始めようと、職員と一緒に東京の企業を訪問し、社員食堂でビラや特産物を配るなどの活動を行いました。そういった泥くさい努力を繰り返していくうちに、ふるさと納税の担当職員と心を一つにして動けるようになっていったと思います。それで得られた寄付金は、私どもにとっては嬉しくてたまらないお金でした。

ぜひ有効に使おうと、まずは子どもたちに喜んでもらえる方向性で使い道を決めていきました。校舎の古びたトイレの改修や、給食費の無償化などに充てたのです。そうしたところ、子どもたちは大変喜び、「ぜひお礼を言いたい」と市役所を訪ねて来ました。

私は子どもたちに「学校のトイレを綺麗にしたのは市だけれども、そのお金はふるさと納税という仕組みを使って、県外の人たちが送ってくれたんだよ」と話しました。すると子どもたちの方から「感謝の手紙を送りたい」と申し出てくれたのです。子どもたちの絵手紙(お礼状)の同封はその時から始まりました。

 

小田 ふるさと納税を通じて、自然発生的に心の交流が起きたのですね。関係人口、交流人口創出の理想的な形だと思います。返礼品には市への招待状も同封しているとおっしゃいましたが、それについても具体的にお聞かせいただけますか?

堀内市長 「おもてな市ふじよしだ」という木札を同封したこともあります。これは市に来訪する際のパスのようなもので、市内の店舗や施設で提示すると優待が受けられるものでした。富士吉田市のふるさと納税はリピーターも多く、馴染みのある方は来訪時に市役所にわざわざ電話で連絡をくださいました。こちらも地元の高校生たちが市内を案内したりと、まるで家族や親戚のような関係性が築けています。そんな様子を見ていると、素直に嬉しくなりますね。

 

小田 素晴らしい交流が生まれているのですね。今後はさらにつながりの輪が広がりそうな予感がします。

 

本来の人間性を回復するまちに

小田 今回のインタビューでは、堀内市長のお人柄や根底に流れる理念にフォーカスさせていただきました。「温かみ」や「共生」を大切にしながら市政運営をされている様子がとても伝わるお話でした。

最後に、今後のまちづくりで特に意識しようと考えていることを教えてください。

堀内市長 今の時代は人間同士の絆が希薄になっています。コロナ禍があったことで、その流れはますます加速したように感じます。

デジタル技術の進化が悪いとは言いませんが、それに頼り過ぎると、人と人との触れ合いではなく、機械を通した触れ合いになりがちです。いつの間にか孤立化するのです。ですから逆に、温もりを求める人が多くなってきたのではないかと感じています。だからこそ、富士山の大自然が身近にある富士吉田市は、「本来の人間性を回復するまち」としての役割を担っていると思います。大自然を守り、心の豊かさを育み、多くの方を温かくお迎えするまちとしての取り組みを、今後も徹底して行ってまいります。

 

小田 富士吉田市はふるさと納税を通じて、地域と地域外の人々の間に強い絆が結ばれつつあります。縮退社会の中でこのような関係性を築けることは、市の将来にとって大きなアドバンテージになると思います。

堀内市長 子どもの誕生数は今後も減少するでしょう。その代わりに外から多くの方が訪れるまち、滞在して楽しめるまちになることで、産業は元気になります。市内も活気づきます。関係人口や交流人口を生かして、このまちの豊かさを今後も築いていきます。

 

【編集後記】

「富嶽共創」を理念に推進する富士吉田市のまちづくりには、人や自然に対する敬いの心が込められていました。その思いが根底にあるからこそ、さまざまなステークホルダー(利害関係者)との間に良好な関係が生まれているのでしょう。「本来の人間性を回復するまち」の発展が今後も楽しみです。

 

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年7月8日号

 


【プロフィール】

堀内市長プロフィール写真堀内 茂(ほりうち・しげる)

1948年東京都出身。ホテルオークラ等複数の民間企業に勤務した後、富士吉田市に移住。87年から山梨県議会議員(1期)、その後しばらく政治から離れるも、2007年に富士吉田市長に就任。現在5期目。

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