「健幸都市(スマートウエルネスシティ)」の実現を目指して~北猛俊・北海道富良野市長インタビュー(1)~

北海道富良野市長・北猛俊
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事・小田理恵子

 

2024/10/16 「健幸都市(スマートウエルネスシティ)」の実現を目指して~北猛俊・北海道富良野市長インタビュー(1)~

2024/10/17 「健幸都市(スマートウエルネスシティ)」の実現を目指して~北猛俊・北海道富良野市長インタビュー(2)~

2024/10/22 インバウンド需要回復後の「新たな課題」に挑む~北猛俊・北海道富良野市長インタビュー(3)~

2024/10/24 インバウンド需要回復後の「新たな課題」に挑む~北猛俊・北海道富良野市長インタビュー(4)~

 


 

北海道富良野市、北猛俊市長のインタビューを全4回でお届けします。

広大なラベンダー畑と、雄大な十勝岳の景観が有名な同市には、人口約2万人が暮らしています。北海道の中心部に位置し、旭川市まで車で約1時間、札幌市や帯広市までは約2時間と、主要都市にアクセスしやすいまちであることも特長です。自然豊かなイメージの強い同市ですが、DX(デジタルトランスフォーメーション)の先進地であり、昨年からは職員業務に生成AI(人工知能)の活用が始まりました。早期からデジタル活用に着目し、それを実装できた背景にはどのような組織文化やプロセスがあったのでしょうか。2018年からまちのトップを務める北市長にお考えを伺いました。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

富良野市長インタビュー富良野市長インタビューの様子

北市長(上)へのインタビューはオンラインで行われた(出典:官民共創未来コンソーシアム)

 

「健幸都市富良野」を目指して

小田 北市長は18年5月に首長に就任し、現在2期目をお務めです。立候補時、市民からどんな期待を寄せられていると感じていましたか?

北市長 市長への期待というよりも、行政への期待が大きかったように思います。18年は年号に直すと平成30年です。「失われた30年」といわれるように、経済が伸びず、新しい風も吹かず、それでいて人口減少と少子高齢化が顕著に進んだ状況でした。こういった社会全体の閉塞感をなんとかしてほしいという期待があったように思います。

 

小田 変革への大きな期待が寄せられていたのですね。そんな中、就任して優先的に着手したのはどのようなことでしたか?

北市長 選挙公約に掲げた「すべての市民が健康で幸せを感じる健幸都市富良野をめざして」を推進すべく、ICT(情報通信技術)の利活用に着目しました。16年ごろから国がSociety5.0を提唱していたこともあり、地方自治体がデジタルの恩恵を受けることでどう良くなるかと考えていたからです。富良野のような中央から距離のある自治体は情報がタイムリーに伝わってこない側面があります。ですから、何か事業を進めようにも効率が悪いのです。そういった部分をICTの活用で改善し、市民の皆さんの暮らしがより良くなるための施策を行いました。

 

小田 全国の自治体の中でもかなり早い段階からDXに取り組まれていたのですね。

北市長 少子高齢化や人口減少が進んでも、住民の皆さんが健康で生きがいを感じ、安全安心で豊かな生活を送ることで幸せが実感できる「健幸都市(スマートウエルネスシティ)」の実現を目指しています。行政は限られたリソースで成果を出すことを求められますから、デジタル活用は早い段階から進めてきました。

 

小田 北市長の情報感度の高さがうかがえます。普段はどのように情報収集をされているのですか?

北市長 新聞や雑誌、インターネットです。新しい情報を取り入れることを意識しています。職員からは「新しいもの好き」と言われることもあります。その時は決してミーハーではないと言い返すわけですが、見る人から見れば新しいもの好きに映るのでしょう。

 

小田 新しいものに触れることは昔から意識されてきたのですか?

北市長 Windows98が発売された頃からパソコンに興味を持ち、実際に触り始めました。新しいものというよりは、便利なものに昔から興味関心があったのかもしれません。

 

全国に先駆けてDXを推進

小田 Windows98の時代からデジタルに興味関心があったのであれば、早期からDXを推進できるのも納得です。例えば、どのような取り組みをされてきたのかお話しいただけますか?

北市長 具体的な取り組みは20年度から本格化しました。まず行ったのは市役所の働き方改革です。普段の業務量や業務プロセスを調査し、無駄を発見して効率化を図るBPR(業務フローの抜本見直し)を実施しました。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の実証と導入、ペーパーレス会議ソフトの実証と導入、押印の見直し、文書管理システムの導入などを行っています。

21年度は市のLINE公式アカウントを開設し、市からのお知らせの配信の他、感染症、防災、ごみの分別辞典、子育てに関するQ&A、暮らしの情報、市役所の相談・問い合わせ窓口などに、簡単にアクセスできるようにしました。また、コロナ禍の影響で高齢者の孤独化や、体力・認知機能の低下が懸念されていましたので、「スマートディスプレー(声で操作ができる画面付きのスピーカー)」を19人の高齢者宅に無料で貸し出し、実証実験を行いました。

スマートディスプレーは定時に立ち上がり、キャラクターが話し掛けてきます。毎日の健康確認や、ラジオ体操などの運動や脳トレ、何気ない日常会話や動画などを楽しむことができます。民生委員や離れて暮らすご家族とビデオ通話ができる機能もあり、高齢者の見守りの形の一つとして効果を発揮しました。こちらは機器の高騰の影響で本格導入には至りませんでしたが、7割の利用者が満足したと回答しました。

22年度は、市民の健康増進を図る「デジタル健幸ポイント事業」を行いました。スマートフォンアプリや専用機器で記録した歩数データや、保健センターなどに設置した「体組成計」や「血圧計」で計測したデータなど、健康に関わるデータを送信することでポイントを貯め、ポイントに応じて富良野市内共通商品券などと交換できる仕組みです。その他、デジタルの利活用による窓口業務改革や、観光イベントの回遊データ分析なども実施しました。

23年度からは、AIオンデマンド交通の運行事業を始めています。事前に会員登録された方がスマートフォンや電話で予約すると、AIが乗車場所から降車場所までの時刻を瞬時に計算してご案内し、できるだけ乗り合いにより送迎する公共交通サービスです。AIに関しては職員業務にも活用が始まっています。ガイドラインを策定し、研修を実施した上で生成AIの「Microsoft Copilot(OpenAI社ChatGPT)」の利用を開始しました。

また、これまで指針としてきた「ICT利活用推進計画」に続く計画として、市民の皆さんからの意見を反映した「富良野市DX推進計画」を策定しています。

各年度かいつまんでのご紹介になりますが、富良野市で取り組んできたDXはこのような内容です。

 

富良野市DXの成果資料

DXの成果は市のウェブサイトで公開されている(出典:富良野市)

 

小田 庁内の業務改革からより良い住民サービスの提供まで、網羅的に取り組まれたのですね。各年度、実証と実装を繰り返して着実にDXを推進してこられた様子が伝わります。

北市長 デジタルに使われる社会ではなく、デジタルを使って生活を豊かにする社会にすることが大事だと思っています。その考え方はぶらさずに今まで取り組んできました。

 

小田 Windows98の時代からデジタルに慣れ親しみ、使いこなしてきた北市長ならではのお考えですね。

 

(第2回に続く)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年9月2日号

 


【プロフィール】

富良野市北市長プロフィール写真北 猛俊(きた・たけとし)

1945年生まれ。北海道空知郡中富良野町出身。富良野高等学校、北海道拓殖短期大を卒業後、75年4月より実家の農業に従事。
95年4月に富良野市議会議員に初当選。2007年5月から17年12月まで富良野町議会議員を務め、18年5月に富良野市長に就任。現在2期目。

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