
福島県会津若松市長・室井照平
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事・小田理恵子
2025/01/29 非常時の底力が切り開いた、革新的なまちづくり~室井照平・福島県会津若松市長インタビュー(1)~
2025/01/30 非常時の底力が切り開いた、革新的なまちづくり~室井照平・福島県会津若松市長インタビュー(2)~
2025/02/04 産学官の「共助」で築く、会津のスマートシティ~室井照平・福島県会津若松市長インタビュー(3)~
2025/02/06 産学官の「共助」で築く、会津のスマートシティ~室井照平・福島県会津若松市長インタビュー(4)~
市民協働から始まるスマートシティ会津若松
小田 ICTの土壌が豊かな一方で、その恩恵を市民の皆さんに実感していただくのは簡単ではなかったのではないでしょうか。市民との対話や協働について、どのような工夫をされてきましたか。
室井市長 市民との対話は、特にスマートシティ推進において重要な課題でした。デジタル技術は目に見えにくく、「自分たちの暮らしがどう変わるのか」という市民の関心に応えることは容易ではありません。そのため、タウンミーティングを繰り返し実施し、丁寧な対話を重ねることで理解者を増やしてきました。
小田 話題は変わりますが、「あいづっこ読書活動推進計画」を拝見しました。子どもたちの目線に立った温かな視点が随所に表れており、次世代を育む深い愛情が計画全体を貫いているのを感じました。室井市長のご趣味は読書とテニスだそうですが、市長の読書に対する思いが反映されて素晴らしいものができたのではないかと考えました。
室井市長 読書は子どもの理解力を培う重要な基盤だと考えています。本を子どもたちに読んでほしいという思いがあります。文字を読み、その内容を自分で理解し、イメージや言葉として表現する。この一連のプロセスは、教科の枠を超えた学習能力の向上につながります。例えば数学では、問題文をしっかりと読み取れなければ、どんなに計算力があっても応用問題は解けません。
そうした考えの下、さまざまな取り組みを展開しています。「ビブリオバトル(書評合戦)」では、子どもたちが自分の読んだ本の魅力を熱心に発表し、規模も年々拡大しています。また、図書館を活用した調べ学習も実施し、自主的な学びを促進しています。
小田 会津若松市の総合計画についてもお聞かせください。総合計画を事業者に委託して作成する自治体もありますが、これは市が作っていますよね。読んでいて手触り感があります。
室井市長 事業者にお手伝いいただいた部分もありますが、基本的には自前で作っています。第7次総合計画では、内容を大幅に変更し、重要業績評価指標(KPI)を導入するなど、市民にとって分かりやすい計画を目指しました。
従来のカテゴリー分類にとらわれない構成にしたので現場は苦労したと思いますが、より実効性の高い計画となりました。現在は次期計画の策定に向けて、アンケートやヒアリングなどを通じた市民との対話を進めています。
この改革を可能にしたのは、「我より古をなす」という言葉に表されるように、前例にとらわれることなく新しいことに挑戦する職員の存在でした。こうした経験を糧に、市民と共に新しい発展モデルを築いていきたいと考えています。
デジタル技術で切り開く会津若松市の未来
小田 これまでさまざまな取り組みについて伺ってきましたが、その成果は市外からの評価にも表れているとお聞きしています。シティプロモーションの観点から、どのような手応えを感じていらっしゃいますか。
室井市長 会津若松市は歴史的な価値と、スマートシティの先進的な取り組みという二つの強みを持ち、一定の発信力を有しています。しかし、さらなる認知度向上が必要だと考えています。
その成果は、客観的な評価にも表れています。東洋経済新報社の「住みよさランキング」では、全国812市区の中で一時66位まで上昇し、現在も135位前後を維持しています。また、大東建託の調査では福島県で最も住みやすいまちとして評価され、東北地方で8位にランクインしたこともありました。
小田 住みよさランキングで高い評価を得られている背景には、具体的にどのような強みがあるのでしょうか。
室井市長 会津若松の強みは、充実した子育て支援にあります。東京で保育所を運営する理事長からも、当市の保育所運営の在り方について高い評価を頂いています。例えば、子育て支援センターは東京では区に1カ所しかありませんが、当市には29カ所を設置しています。これにより、保育所入所前の子どもたちの子育てに関する相談体制を手厚く整備できているのです。
一方で、地域に住み続けていると、こうした強みが当たり前になってしまい、その価値を見失いがちです。市民から「デパートがない」という声を聞くことがありますが、実はデパートの撤退は全国的な傾向です。私は「ないものを数えるのではなく、豊かな地域資源に目を向けてほしい」と伝え続けています。
小田 充実した子育て環境をはじめ、さまざまな強みを持つ会津若松市ですが、今後はどのようなまちを目指していかれるのでしょうか。
室井市長 地域に住み続けたいと願う人々が、安心してその選択ができる環境を維持することが重要だと考えています。これは単なる理想ではなく、地域の暮らしやすさを次世代に引き継いでいく私たちの重要な使命です。
小田 そうした理念の実現に向けて、具体的にどのような取り組みを進めているのでしょうか。
室井市長 若者の定住・移住促進に力を入れています。具体的な施策として、若者向けの「暮らし応援ガイド」を作成し、QRコードでアクセスできる形で提供しています。
暮らし応援ガイド2024表紙(出典:会津若松市)
雇用機会の不足を懸念する声もありますが、23年は市の統計で例年の3倍の移住実績を記録しており、着実に成果が表れています。
小田 環境問題や人口減少など、地方都市が直面する課題についてもお聞きしたいと思います。特に環境面での取り組みについて、現状をどのように分析されていますか。
室井市長 環境面では、生活系ごみの課題に直面しています。他の自治体に比べて排出量が多いため、ごみの減量化に努める必要があります。そこで新設予定の焼却炉は、将来的なごみ減量化を見据えて小規模化を計画しています。これは脱炭素社会の実現においても重要な取り組みとなると考えています。
小田 そうした課題に対して、これまで培ってこられたスマートシティの知見を活かすことができそうですね。
室井市長 環境問題や人口減少など、さまざまな課題に対してスマートシティの取り組みを通じ、デジタル技術を活用した解決策を模索していきます。市民との協働の下、持続可能な地域づくりを推進することで、会津若松市の新たな未来を切り拓いていきたいと考えています。
小田 最後に、同じように地域の持続可能性を模索する全国の自治体の皆さまへ、メッセージを頂けますでしょうか。
室井市長 会津若松市も人口減少など、多くの地方都市が直面する課題を抱えています。しかし、これからの日本における地方都市の役割を考えたとき、地域の発展に向けて果敢にチャレンジしていく必要があります。私たちは自分たちのまちの価値を積極的に発信していくシティプロモーションに力を入れています。
その効果は着実に表れており、平時においても東南アジアや欧米からの来訪者が増加しています。新型コロナウイルス感染症の影響を受けた観光客数も、現在では19年度の水準に近づきつつあります。
一つの地方都市として、課題に正面から向き合いながら、これからも挑戦を続けていきたいと考えています。
【編集後記】
会津若松市のスマートシティへの取り組みは、単なるデジタル化推進を超えて、地域に根差した持続可能なモデルを確立しています。その特徴は、「三方よし」の理念に基づく地域経済の自立的発展と、「共助」を軸とした新しい官民連携の形にあります。
ICT関連企業の集積拠点「スマートシティAiCT」には36社が入居し、約90社が参画する「AiCTコンソーシアム」を通じて、地域課題の解決に向けた成果を生み出しています。デジタル地域通貨「会津コイン」や農業プラットフォーム「ジモノミッケ!」など、市民の暮らしに寄り添うデジタル技術の実装は、他の自治体にとっても示唆に富むものです。
室井市長の掲げる「見えないものの可視化」への挑戦は着実に進展し、会津大の知的資源や地域のICT人材を活かしながら、持続可能な運営に向けた課題にも率直に向き合っています。新たな地域づくりに挑戦し続ける会津若松市の今後の展開は、引き続き注目されることでしょう。
※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年12月16日号
【プロフィール】
室井 照平(むろい・しょうへい)
1955年生まれ、会津若松市出身。東北大経済学部経営学科卒。
99年から会津若松市議会議員2期、2006年から県議会議員1期を務める。
11年8月に会津若松市長に就任し、現在は4期目。